印紙税が、やり方次第で安くなるかもしれない。どうして? どうやって?
ファイナンシャルフィールド / 2021年6月13日 3時0分
今年4月から消費税込み価格の「総額表示」が義務化されました。表示の仕方にはバリエーションがありますが、要はいくら支払うのか、あるいは同じ商品の販売価格の違いを比べるためにはどれがよいか。【税込み○○○円】のような表示が一番シンプルで、ひと目で分かる印象です。 しかし、こうした表示が印紙税では思わぬ負担増につながりかねない。そんなことについて少し前に書きましたが、逆にやり方次第では印紙税が安くなるかもしれません。どんなことなのでしょうか。
税額がいきなり倍額に増えるケースもある印紙税
まず印紙税のおさらいですが、日常の経済取引に伴って作成する契約書や金銭の受取書(領収書)など特定の文書に課税される税金(国税)です。課税される文書は20種類(第1号文書から第20号文書)に分かれ、それぞれに印紙税額や非課税となる文書の内容が定められています(※)。
20のうち5つでは、文書に記載された契約などの金額に応じて印紙税が変わります。金額が増えると税額も増えますが、税額の増え方は金額の増え方に比例するわけではありません。
第2号文書(請負に関する契約書)を例に一部を具体的に見てみると、【図表1】のとおりです。
契約金額が100万円超、200万円超、300万円超、500万円超などの各ラインを過ぎていくごとに、印紙税額が倍額かそれ以上に増額していきます。
例えば、手数料が[契約金額の5%]と決まっていてスライドで増えるようなケースとは違い、印紙税では契約金額が増えると税額がある段階でいきなり倍額ほか大きく増えるような建付けになっているのです。
印紙税が安くなるかもしれないケースとは
例えば、マイホームのリフォーム工事を[税抜き550万円+消費税55万円]の請負金額で契約するケースを想定してみましょう。
以前にも書いたように、契約書に記載する金額に消費税をどう表示するかで印紙税が分かれる場合もありますが、このケースでは次のいずれで表示しても印紙税額は同じで、1万円(時限軽減適用で5000円)です。
(ア) 「請負金額605万円のうち消費税額等55万円」
(イ) 「請負金額605万円、税抜価格550万円」
(ウ) 「請負金額605万円、消費税額等10%を含む」
(エ) 「請負金額605万円(税込)」
もしも、この工事の内訳が
(A)建物内部リフォーム[税抜き350万円+消費税35万円]
(B)庭や外構など外部リフォーム[税抜き200万円+消費税20万円]
の2つに分かれていて、(A)と(B)を別々の契約書にした場合にはどうなるでしょうか。
(B)を上記の(ア)や(イ)のような表示にすれば、次のとおりです。
(A)の印紙税額 2000円(時限軽減適用で1000円)
(B)の印紙税額 400円(同200円)
(A)と(B)の印紙税額合計は2400円(時限軽減適用で1200円)。まとめて1本の契約にした場合の1万円(同5000円)よりも大幅に安くなります。印紙税を安くするだけのために勝手に契約を分割することは、脱税になりかねない行為ですが、この事例のようにキチンとした実態があれば、ケースによって分割はありでしょう。
なお、請負契約書の代わりに「注文書」と「請書」を取りかわして処理する場合、「請書」は第2号文書として課税されますが、「注文書」は内容によっては印紙税が不要になることもあります。
まとめ
このように文書を2つに分けると税額が(大きく)変わる現象は、売買契約書や領収書などでもありえます。ただし、分割するだけの理由、内容、実態などがキチンとしていることが必要なのは、いうまでもありません。
コロナ禍によって在宅などでのリモートワークが大きく進展し、契約のデジタル化(電子契約)も進んでいるようです。押印のためだけに出社する必要もなくなり、政府が推進しようとしているさまざまな手続きでの「脱ハンコ」や「デジタル化」の流れにも合致します。
詳しくは触れませんが、印紙税の課税対象は書面(紙)の文書であり、今のところ電子文書は含まれないとされています。
今回のテーマ「印紙税が、やり方次第で安くなるかもしれない」は、実は「電子化」が一番安上がりになるのかもしれません。しかし、今は主流の書面(紙)の契約文書では、ご紹介したような「分割」でケースによっては安くなるかもしれないことは、覚えておいても損ではないでしょう。
[出典]
(※)国税庁「印紙税額の一覧表(第1号文書から第20号文書まで)」
執筆者:上野慎一
AFP認定者,宅地建物取引士
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