「初志貫徹」か「見切りをつける」か。判断に迷うのは、どうして?
ファイナンシャルフィールド / 2021年8月7日 10時0分
![「初志貫徹」か「見切りをつける」か。判断に迷うのは、どうして?](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/financialfield/financialfield_113317_0-small.jpg)
超音速旅客機が開発され、ニューヨークとロンドンが3時間30分で結ばれる。そのスピードはマッハ1.7で、高速航空機の2倍。こんなニュースが今年6月に公表されました。
2029年に商用化予定の超音速旅客機
アメリカの航空宇宙企業のブーム・スーパーソニック社が開発・製造する「オーバーチュア」航空機を、同国のユナイテッド航空が購入して運航するという内容で、2025年完成、2026年飛行開始、そして2029年の商用化を予定しています(※)。
国際線で多く就航している「ボーイング787-9」と主要データをざっと比較してみると、【図表1】のようなイメージです。
【図表1】「ボーイング787-9」 と 「オーバーチュア」の主要データ比較
ボーイング787-9 | 62.5(205 FT) | |
---|---|---|
乗客(座席)数 | 215 | 65~88 |
巡航速度(キロメートル/時) | 910 | 1,836(マッハ1.7) |
航続距離(キロメートル) | 14,960 | 7,871(4,250 NM) |
(出典)
・ボーイング787-9 全日本空輸「ANA国際線の飛行機 性能比較」
・オーバーチュア Boom – United Goes Supersonic「OVERTURE」
[注]オーバーチュアのデータについては、出典記載の数値を、1FT=0.3048
メートル、マッハ1=1,080キロメートル/時、1NM=1.852キロメートル
にて各々換算したものを記載している。
似ているのは全長だけ。ボーイング787-9に比べて、オーバーチュアは座席が3分の1くらい、航続距離が半分の代わりにスピードは2倍です。またバイオ燃料を100%使用して、実質排ガスゼロを大型商用機として始めて実現するという新機軸も打ち出されています。
座席数、航続距離、そして当面は高値水準と想定されるバイオ燃料などが採算性を厳しくする。そのために、運賃も通常より割高な水準になるだろう。2倍のスピードを得られる代わりに、そんなことが予想されます。
「コンコルドの誤謬」とは
あれっ、こんな航空機は昔もあったじゃないか。そう思われたかもしれません。その名は「コンコルド」です。
1960年代にイギリスとフランスが共同開発を始めた超音速機で、巡航速度は約2200キロメートル/時。当時の航空機の3倍近い高速でした。定期運行開始は1976年。オイルショックのすぐ後で、環境問題への意識が高まった時期でもありました。
座席が100しかなく、航続距離も短く、高騰する燃料を大量消費。長い滑走路が必要で、騒音も大きい。運賃も高水準にならざるをえない。英仏2国が威信をかけて、それぞれを代表する航空会社に就航させたものの、量産されたのはわずか20機足らず。当然、多額の開発費用も回収できずじまいでした。
また、低燃費や高くて手間なメンテナンス負担で採算性は確保できず、早くも1976年には製造中止、2003年には運行停止となりました。
このように採算性に欠ける事業を、誤った判断で継続してしまった。その結果は、トータルでの巨額の赤字。失敗のトラウマも残りました。こうした現象は「コンコルドの誤謬(ごびゅう)」と呼ばれます。「誤謬」とは、誤りや間違いのことです。
「今さら、やめられない」は、あるある
では、どうして誤った判断をしてしまったのか。それは、途中で事業の妥当性や採算性に対して疑念が出てきても、それまでに投じたコスト、時間、手間などを考えると中止できないからです。
「今さら、やめられない」。そんな状況は、コンコルドのような巨大な事業だけではなく、新しい製品、サービス、システムなどを開発したり、具体的に商品化したりする際に、結構あるあるです。商売やビジネス以外、日常生活でも珍しくはありません。
料金を先払いして入場した映画、劇場、スポーツ観戦など。期待はずれな内容だと感じても、すぐに退出してしまう人は少ないでしょう。ある程度まで(あるいは最後まで)観ないと、損した気持ちになるからです。
例えば、2時間公演で1万円の劇場チケット。開演30分後、もう出たいと思ったとき、割り算をして「まだ2500円分しか観ていない」、「ここで退出したら7500円の損だ」。こう考えるかもしれません。
しかし、このまま最後まで劇場にいると、これから1時間半も無駄に過ごすわけです。そのための損失は、先に払った1万円より多いことだってあるでしょう。
「これまで」に掛けたおカネや時間に捉われて、「これから」の機会や時間をロスしてしまう。難関試験への長年のチャレンジ、婚約や結婚の前に相手への懸念が発生した場合などの局面でも、起こりえることです。
まとめ
このように合理的でない行動をしてしまう状況を「認知バイアス」といいます。
やめたいと思っているのに、できない。その原因の1つとして挙げられるのが「サンクコスト」(sunk cost)=埋没費用。つまりすでに支払ってしまったもので、おカネだけでなく時間や手間・労力も含まれるでしょう。
いずれにせよ、もう取り戻すことはできません。しかし、サンクコストがあるため中止の判断ができなくなるのです。
「今さら、やめられない」、「あとには引けない」、「損得じゃない」。そう意地を張りたいときほど、一歩引いて冷静になることが必要です。初志貫徹よりも見切りをつけてしまうほうが有効なケースや局面は、決して少なくありません。
[出典]
(※)ユナイテッド航空「ユナイテッド航空、米ブーム社と超音速旅客機購入で合意」
執筆者:上野慎一
AFP認定者,宅地建物取引士
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