遺産分割前の預貯金の払戻し制度とは?
ファイナンシャルフィールド / 2021年8月11日 23時0分
2018年7月に相続法が改正されましたが、その中には遺産分割前の預貯金の払戻し制度の創設があります。 従来の相続法では被相続人が亡くなると、その方の銀行口座は凍結されてしまい、相続人の間で遺産分割協議書が締結されるまで、相続人単独では被相続人の銀行口座から預貯金が引き落とせず、電気代、水道料金といった生活費や葬儀費用の支払いなどに困るというケースがありました。 これを解消するため、遺産分割が終わる前でも相続人単独の申請に基づき、預貯金の払い戻しを行うというのが預貯金の払戻し制度です。その内容について解説してみたいと思います。
遺産分割前の預貯金の払戻し制度とは?
預貯金の払戻し制度は、相続法改正法案が成立した1年後の2019年7月1日から施行されています。これは遺産分割が終了する前であっても一定額に限り、生活費や葬儀費用の仮払いが受けられる制度です。
払い戻しの方法には2通りあって、1つは家庭裁判所の判断により行う方法、もう1つは相続人単独で行う方法です。
家庭裁判所への申し立てにより払い戻しを行う方法
(1)手続きと払戻し額
これは、各相続人が家庭裁判所へ申し立てをすれば、家庭裁判所の判断により、相続預金の全部または一部の払い戻しを受けることができるものです。払い戻しの金額の上限はなく、家庭裁判所が決定します。
この手続きは預貯金債権にかかる仮分割の仮処分というもので、従来からありますが、今回の相続法改正により要件が緩和されました。それでも、次の要件を満たす必要があります。
1.遺産分割の審判または調停の申し立てがあること
2.権利行使の必要があること
3.他の共同相続人の利益を害しないこと
被相続人が亡くなった直後の葬儀費用や当面の生活費をこの制度によって捻出しようとすると、まず遺産分割の調停を家庭裁判所に申し出て、その上で葬儀費用や生活費の必要性に関する説明をする必要があります。
相続人単独の申し立てにより可能になるとはいえ、手続きが煩雑で、手間と費用と時間もかかってしまうため、すぐに必要な費用の捻出には適していないということができます。
(2)払い戻しに必要な書類
・家庭裁判所の審判書謄本(審判書上確定表示がない場合はさらに審判確定証明書が必要)
・預貯金の払い戻しを希望する相続人の印鑑証明書
各相続人が単独で金融機関に払い戻しを請求する方法
(1)手続きと払戻し額
各相続人は、家庭裁判所の判断を経ずに金融機関から単独で払い戻しを受けることができます。
この方法は家庭裁判所への申し立てをすればよいので、手続き的には簡単ですが、払戻請求をする相続人の相続分を金融機関に証明するために、戸籍謄本の取得や相続人関係図などを作成し、法定相続人の数を明らかにする必要があります。
払戻限度額は金融機関ごとに定められており、同一の金融機関からの払戻し額は150万円が上限となります(同一の金融機関の複数の支店それぞれに相続預金がある場合でも、その金融機関からの払戻限度額は150万円)。
払戻し額の計算式は以下のとおりです。
各相続人が単独で払い戻しを受けられる金額
=相続開始時の預金額(口座・明細基準)×1/3×払い戻しを行う相続人の法定相続分
具体例を挙げて、払戻金額を説明してみましょう。
A銀行に900万円、B銀行に1800万円の預金があり、相続人が長男、次男、長女の3人で長男が払戻請求をした場合、払戻金額は次のようになります。
長男が払い戻しを受けられる金額
A銀行:900万円×1/3×1/3=100万円<払戻上限額150万円
払戻し額:100万円
B銀行:1800万円×1/3×1/3=200万円>払戻上限額150万円
払戻し額:150万円
払戻額合計:250万円
(2)払い戻しに必要な書類
・被相続人の除籍謄本、および戸籍謄本または全部事項証明書(出生から死亡まで連続したもの)
※本籍が何度か移動している場合は全ての戸籍謄本を取り寄せる必要があります。
・相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書
・預金の払い戻しを希望する相続人の印鑑証明書
預貯金の払戻し制度による払戻金は仮払いである
ここで忘れてはならないことは、預貯金の払戻し制度による払戻金は、あくまで仮払いであるといいうことです。相続人のうち、誰が払い戻しを受けようと、その払戻し額は被相続人の相続財産として新たに遺産分割協議の対象になります。
また、払い戻しを受けた相続人は、相続放棄ができなくなる可能性があるので、その点についても注意が必要です。
執筆者:浦上登
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー
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