相続人が相続権を失うのは、どんな場合? それぞれの違いは? その1
ファイナンシャルフィールド / 2021年8月23日 21時30分
相続において相続人が相続権を失う場合には、いくつかケースがあります。思いつくものは、相続放棄、相続欠格、相続廃除などです。この記事では、それらが行われる状況および、共通点と相違点について説明したいと思います。
相続放棄とは?
相続は被相続人の死亡によって開始します。その際、相続人は相続の開始(=被相続人の死亡)を知った日から3ヶ月以内に自らの意思表示により、具体的に次の3とおりの対応を選択することができます。
1.単純承認
2.限定承認
3.相続放棄
単純承認とは、被相続人の全ての財産(積極財産・消極財産)を無条件で相続することで、家庭裁判所への申述(意思表示)を必要としません。相続の開始から3ヶ月以内に何も意思表示をしないと、単純承認したものと見なされます。
限定承認は、相続人が受け継いだ資産(積極財産)の範囲内で負債(消極財産)を相続し、積極財産を超える消極財産については責任を負わないとする方法です。相続開始を知った日から3ヶ月以内に、家庭裁判所に相続人全員で申述を行う必要があります。
相続放棄は、被相続人の財産について相続する権利を放棄することで、相続開始を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述する必要があります。限定承認とは違い、各相続人が単独で行うことができます。
すなわち、相続放棄は相続人自らの意思により相続を拒否することをいいます。
相続欠格とは
相続欠格とは、相続人となるべき者が故意に被相続人を殺害したり、詐欺や脅迫による遺言書の偽造などの行為により、法律上、相続人としての資格を失うことをいいます。
欠格の事由は複雑なので、どのような内容かを理解していただくために、少し長くなりますが民法第891条を引用させていただきます。
民法第891条(相続人の欠格事由)
次に掲げる者は、相続人となることができない。
1.故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
2.被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
3.詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
4.詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
5.相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
これを読んでいただくと、相続欠格とは被相続人、または被相続人の相続行為に対して行った犯罪によって相続人がその資格を失うことで、いわゆる「争族」のレベルを超えた事象であることが分かると思います。
相続廃除とは
相続廃除とは、相続人からの「虐待」や「重大な侮辱」、あるいは相続人に「その他著しい非行」があった場合、被相続人が意思表示として家庭裁判所に申し立てることにより、そのような行為に該当する相続人の相続権を失わせることをいいます。
また、被相続人は遺言によって廃除の意思表示をすることもできます。ただし、いずれの場合も家庭裁判所が「虐待」「重大な侮辱」「その他著しい非行」があったと認めることが条件となるので、申し立てれば自動的に相続廃除ができるというものではありません。
相続放棄、相続欠格、相続廃除の違い
相続放棄は、相続人自らの意思で相続権を失うことです。
それに対し、相続欠格は法律により相続人の資格を失うこと、相続廃除は被相続人の意思に基づいて家庭裁判所が審査し、相続廃除に該当する行為があった場合は相続人としての資格を喪失させるということです。
いずれにしろ、よほどのことがない限り、被相続人の意思で相続人の相続権をはく奪することは難しいということになります。
また、相続欠格と相続廃除は対象となる相続人の範囲が異なります。相続欠格は全ての推定相続人(※)が対象となりますが、相続廃除の場合は兄弟姉妹を除く推定相続人が対象となります。
相続廃除は被相続人の意思で相続権をはく奪する行為ですが、兄弟姉妹については遺留分がないので、被相続人が遺言で相続させない旨の意思表示をすれば、兄弟姉妹の相続権はなくなります。
これに対して配偶者、子、親については遺留分があるので、遺言で相続権をはく奪することはできません。そのため、相続廃除という制度があるのです。
(※)推定相続人とは、相続が発生した場合、その時点で遺産を相続するはずの人をいいます。実際に相続権を持った人を相続人ということの対比として使われる場合があります。
まとめ
相続放棄、相続欠格、相続廃除の違いは、実際の相続分や相続税の計算にも影響を与えます。次回の「その2」では、それらの違いについて具体的なケースを例に説明してみたいと思います。
出典
民法 第八百九十一条(相続人の欠格事由)
執筆者:浦上登
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー
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