老後資金の準備では生命保険料控除に捉われずに考えることが大切
ファイナンシャルフィールド / 2021年9月15日 4時40分
生命保険料控除を利用できるからと、子どもの教育費を準備するために保険に加入し、控除を受けたいといわれる方もいます。それよりも準備期間が長くなる老後資金の備えでも、個人年金保険料控除のメリットを得ようと思われている方も多いと感じます。 しかし、それは本当にメリットがあるのか、考えてみたいと思います。
生命保険料控除とは
生命保険料控除について国税庁のホームページには、「納税者が生命保険料、介護医療保険料及び個人年金保険料を支払った場合には、一定の金額の所得控除を受けることができます。これを生命保険料控除といいます。」と記載されています。
生命保険料控除は改定により、平成24年1月1日以降の契約にかかる新制度(新契約)と、平成23年12月31日以前の契約を対象とした旧制度(旧契約)があります。
新制度は、新生命保険料、介護医療保険料、新個人年金保険料に対して控除を適用でき、それぞれ最大4万円、合計12万円の控除を受けることが可能です。
新制度の控除額(平成24年1月1日以降に締結した保険契約など)
年間支払保険料等 | 控除額 |
---|---|
2万円以下 | 支払保険料等の全額 |
2万円超、4万円以下 | 支払保険料等×1/2+1万円 |
4万円超、8万円以下 | 支払保険料等×1/4+2万円 |
8万円超 | 一律4万円 |
※国税庁 「No.1140 生命保険料控除」より筆者作成
旧制度は、旧生命保険料、旧個人年金保険料が対象となり、それぞれ最大5万円、合計10万円の控除が受けられます。
旧制度の控除額(平成23年12月31日以前に締結した保険契約など)
年間支払保険料等 | 控除額 |
---|---|
2万5000円以下 | 支払保険料等の全額 |
2万5000円超、5万円以下 | 支払保険料等×1/2+1万2500円 |
5万円超、10万円以下 | 支払保険料等×1/4+2万5000円 |
10万円超 | 一律5万円 |
※国税庁 「No.1140 生命保険料控除」より筆者作成
仮に平成24年以降、月額1万円の個人年金保険を契約している場合には、年間の保険料は12万円なので、新制度での支払保険料8万円超に該当し、所得税の計算において所得金額から上限額となる4万円を控除できます。
所得税だけではなく、住民税の控除も
生命保険料控除は所得税だけではなく、住民税にも適用できます。所得税は国税のため税務署が管轄ですが、住民税は地方税となるので地方自治体が管轄です。
対象となる保険は所得税の場合と同じですが、年間で支払う保険料の区分と控除の限度額は以下のようになります。
新制度の住民税の控除額(平成24年1月1日以降に締結した保険契約など)
年間支払保険料等 | 控除額 |
---|---|
1万2000円以下 | 支払保険料等の全額 |
1万2000円超、3万2000円以下 | 支払保険料等×1/2+6000円 |
3万2000円超、5万6000円以下 | 支払保険料等×1/4+1万4000円 |
5万6000円超 | 一律2万8000円 |
※東京主税局 「個人住民税」より筆者作成
旧制度の住民税の控除額(平成23年12月31日以前に締結した保険契約など)
年間支払保険料等 | 控除額 |
---|---|
1万5000円以下 | 支払保険料等の全額 |
1万5000円超、4万円以下 | 支払保険料等×1/2+7500円 |
4万円超、7万円以下 | 支払保険料等×1/4+1万7500円 |
7万円超 | 一律3万5000円 |
※東京主税局 「個人住民税」より筆者作成
所得税と同じ条件(平成24年以降に契約、年間保険料12万円)であれば、新制度の5万6000円超の控除額2万8000円が適用されます。年間12万円の保険料を支払って、所得税の計算時に所得金額から4万円、住民税の計算時にも所得金額から2万8000円が控除されることになります。
実際のメリットはどれくらい?
仮に年収600万円(税引き前)で、専業主婦の配偶者と小学生の子どもが2人いる家族の場合では、まず給与所得控除の164万円が控除され、さらに基礎控除48万円、配偶者控除38万円、社会保険料は年収のおおよそ15%で計算して90万円が年収から控除されたものに対し、所得税を算出します。
給与所得控除速算表
給与等の収入金額 | 給与所得控除額 |
---|---|
162万5000円まで | 55万円 |
162万5000円超、180万円まで | 収入金額×40%-10万円 |
180万円超、360万円まで | 収入金額×30%+8万円 |
360万円超、660万円まで | 収入金額×20%+44万円 |
660万円超、850万円まで | 収入金額×10%+110万円 |
850万円超 | 195万円(上限) |
※国税庁 「No.1410 給与所得控除」より筆者作成
課税所得金額は、
600万円-164万円(給与所得控除)=436万円
436万円-48万円(基礎控除)-38万円(配偶者控除)-90万円(社会保険料控除)
=260万円
この260万円が課税される所得金額となり、所得税率10%で、控除額は9万7500円となります。所得税額は、260万円×10%-9万7500円=16万2500円となります。
住民税は、給与所得控除後の額から住民税の基礎控除43万円、配偶者控除33万円、社会保険料控除90万円を引いた270万円に10%が課税され、27万円になります。
所得税控除の速算表
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1000円から194万9000円まで | 5% | 0円 |
195万円から329万9000円まで | 10% | 9万7500円 |
330万円から694万9000円まで | 20% | 42万7500円 |
695万円から899万9000円まで | 23% | 63万6000円 |
900万円から1799万9000円まで | 33% | 153万6000円 |
1800万円から3999万9000円まで | 40% | 279万6000円 |
4000万円以上 | 45% | 479万6000円 |
※国税庁 「No.2260 所得税の税率」より筆者作成
個人年金保険料控除を使うメリット
生命保険料控除の個人年金保険料控除を使った場合、所得税では控除額が上限の4万円だとすると、給与所得控除後の金額から控除して256万円が課税所得金額となり、所得税額は15万8500円と4000円少なくなりました。
住民税では、270万円から2万8000円を控除した金額に10%が課税されて、26万7200円と2800円少なくなります。
前例のように年間12万円の保険料であれば、(4000円+2800円)÷12万円×100≒5.7%のメリットです。ただ、これは継続すれば毎年増えていくものではなく、例えば30歳の方が60歳まで個人年金保険を払い続けても、5.7%のメリットは変わりません。
iDeCoやNISAに比べて
現在(令和3年8月末)の円建ての個人年金保険は予定利率が低くなっていることで、30歳から30年の契約でも10%増えるものが無くなっています。
外貨建ての個人年金保険も個人年金保険料控除を使えますが、こちらも予定利率が低くなっているので、円建てよりは増える可能性はあるものの魅力的な方法ではないと感じます。
iDeCoやNISAは投資信託などに直接投資を行うのでリスクを伴いますが、つみたてNISAやiDeCoは比較的リスクを抑えた商品が選定されています。ポートフォリオ(運用する商品の組み合わせ)によっては、運用利回りが5%程度となる可能性もあります。
仮に前例の保険料と同じように毎月1万円を30年間積み立てて、5%の運用利回りでシミュレーションを行うと、30年後には約832万円になり積立額の360万円から約131%増やせることになります。運用が思わしくなく3%の運用利回りでも約583万円と、約61%増やすことができます。
個人年金保険は受取時に年金で受け取ると雑所得、一括で受け取ると一時所得の課税対象となりますが、iDeCoであれば年金での受け取りは公的年金等所得控除、一括の場合は退職所得控除の対象となるため、そのメリットを活用できるといえます。
また、現在のNISAは恒久的な制度ではないので、30年間利用できるかは現時点では分かりませんが、つみたてNISAの非課税期間は20年であり、また一般NISAを活用することで運用益が非課税になるというメリットはあります。
まとめ
少しでも老後資金を有利に増やそうと、生命保険料控除を活用しようとする方は多いと思います。しかし、運用自体に魅力のない保険を使うということに対して、さほどのメリットは無いと筆者は考えています。
投資はリスクを伴うからと敬遠される方が多くおられますが、保険会社も預かった保険料を有価証券で運用しています。ただ、運用先が国債での比率が高いため、運用利回りも低くなっています。
豊かな老後生活のためにも、その準備として税制優遇制度を活用した資産運用を検討してみるのもよいのではないでしょうか。
出典
国税庁 No.1140 生命保険料控除
東京主税局 個人住民税
国税庁 No.1410 給与所得控除
執筆者:吉野裕一
夢実現プランナー
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