早期退職してゆっくり過ごしたい…FIREを目指す前に知っておきたいこと
ファイナンシャルフィールド / 2021年9月15日 13時20分
「FIRE」という言葉があります。「FIRE」はFinancial Independence, Retire Earlyの頭文字をとったもの。経済的に自立し早期退職することを指します。 FIREの考え方は「一生遊んで暮らせる大金を稼ぐことよりも、早期にリタイアし自分の生活や家族との時間を優先したシンプルな暮らしを実現したい」というものです。 しかし、安易にFIREを目指すことはリスクがあると筆者は考えます。自分に実現できるか、どんなリスクがあるかを理解し、自分自身に合った将来設計を考える必要があります。
「年間支出の25倍」と「4%ルール」のリスク
さまざまなFIRE関連書籍が出ていますが、「年間支出の25倍の資産を形成する」「資産を実質年利4%以上の利回りで運用する」という条件の上に成り立っていることがあります。
詳細はさまざまな本に書かれているので述べませんが、仮に年間の支出を250万円とした場合、リタイアまでに250万×25=6250万円の資産を築き、安定的に毎年4%の実質利回り(税引き後の手取り)を実現できれば理論上は一生涯資産が減らないことになります。
6250万円×4%=250万円
年間支出250万円ならば支出と運用利回りが同額となり、計算上は資産が減らないことになる
しかし、日本はもちろん、海外を見ても多くの国で低金利のなか、金融商品で安定的に4%の利回りで運用するのは容易なことではありません。
ほとんどの金融商品は元本を毀損(きそん)するリスクがあり、相場の急変も考えられます。そうした事態に耐えられるかどうかも含め、慎重に考える必要があります。
早期退職までは「倹約」
何歳でリタイアすれば「早期」かという議論もありますが、仮に現在30歳の人が50歳でFIREを目指すとしましょう。
年間支出を生涯250万円/年とし、20年の期間にまったく資産がない状態から6250万円の資産を築こうと考えた場合、年平均312.5万円ずつ資産を積み増していかなければいけないことになります。
この期間中にも年平均4%の金利収入(税引き後)を得られ、それをすべて再投資し、一度も取り崩さなければ、200万円/年の積み立てで実現することが計算上は可能です。
しかしこれを実現するためには、4%の利回りもハードルが高いと思いますが、かなり倹約する必要があります。
急ぎすぎる資産形成は犠牲を伴う
過度に倹約した結果、将来必要なものへの投資も犠牲にしてしまわないように注意する必要があります。特に自己投資、つまり自分が学んだり、経験を得るためにかかるお金も削ってしまうと将来の可能性を狭めてしまいます。
知識や経験はお金には換算できませんが、人に奪われることのない資産です。
数年前にリンダ・グラットン氏が記した「LIFE SHIFT~100年時代の人生戦略」という書籍が話題になりました。この中で、「これからはこれまでとは違う生き方が求められ、これまでとは違う資産形成が必要」だとしています。
今後20年、30年先の未来はどうなるかわかりません。AI(人工知能)などの技術開発が進み、新たな職種が生まれ、あるいは今ある職種がなくなることもあるかもしれません。
ひとつの仕事を一生涯続けることができなくなることも想定しておかなければならず、そうした変化に適応するためには、一人ひとりが学び続ける必要があります。
20代、30代の人たちはもちろん、これからは40代、50代、60代、あるいは一生をかけて変化に適応するための自分への投資が必要になるでしょう。自分自身の知識や経験、周辺の人たちとのかかわり、健康を維持・向上のための投資の重要性は今後高まる可能性があります。
FIREのために倹約しすぎることで、こうした自己投資を犠牲にすることは自身の将来の可能性を限定してしまうかもしれません。
インフレが進めば金利も上がるが生活費も増える
将来はインフレが起きることも想定しておくべきです。現在は空前の低金利状態が常態化していますが、将来は金利も上昇することも考えられます。金利上昇は運用利回りの面では有利になるでしょう。
しかし、金利上昇はインフレーションとセットだと考えておくべきです。インフレは「物価上昇」。物価が上がれば必要な生活費も増えます。いずれは金利上昇とともに、インフレに向かうことを想定しておかなくてはならないでしょう。
早期リタイアで受け取れる年金額が減る
日本の年金制度が今後も現在の給付水準を維持するのは難しいかもしれません。制度がなくなることは考えにくいと思いますが、給付水準は現状よりも下がる覚悟はしておいた方がよいでしょう。
しかし、年金は受給が始まれば一生涯、給付額は大きくは変わりません。年金は主に20歳から60歳までの期間中に得た給与に対して納付額が定められ、その納付額が多いほど将来の受取額も増加する半面、納付額が減れば将来の受取額も減少します。
年金は生きている限り一生涯受け取ることができるものですので、年金給付額の減少は将来の老後生活の維持に大きなダメージになりえます。
普通は所得が増えれば生活水準も上がる
50歳までに年間支出の25倍もの資産を形成するには、倹約を続ける強い意志が必要です。
・すでにある程度の資産がある
・実家暮らしで家賃や食費などを自分で負担しなくても生活できる
・子どもはいない、作らない
・親から多額の相続を受けることが見込まれる
などという条件や見込みがあれば実現できるかもしれませんが、そのような人はあまり多くないでしょう。
周りにいる同級生や同僚で同程度の所得を得ている人は、そのお金をさまざまなことに使っているはずです。
ちょっとぜいたくな外食をしている人、マイホームを取得する人、多少お金のかかる趣味を持っている人、かもしれません。子どもができて、教育費を負担しながらも充実した生活を送る人もいるでしょう。こうした姿を見ているとうらやましいと思う人も出てくるかもしれません。
人にはさまざまな生き方があり、人と同じである必要はありません。しかし、ある年代でしか経験できないさまざまな喜びがあることも事実です。
FIREで何を手に入れるのか
早期退職を目指す理由が、会社に縛られ、自由な時間を作れない現状に耐えられず、好きなことだけをして生きていきたい、というものであれば、資産形成期間中に求められる強い意志を維持できるか心配です。
大切なのは自分にとっての「生きがい」や、「充実している」と感じられる将来の姿を見つけることだと思います。
早期リタイアした場合、そのあとはどのような生活をするのでしょう。人とのかかわりをまったく持たず、孤独にただ毎日を過ごすという生活を理想とする人もいるかもしれません。しかし、多くの人はまったく人と関わらない生活は望まないのではないでしょうか。
FIREを目指すならば、自分自身に合った将来設計を考える必要があります。経済的自立と同時に、お金に換えられない資産の構築もバランスよく進め、リタイアした後も充実した生活を継続できる状態を築くこと。
こうした目標設定とそれを実現するための計画をしっかり立てる「ライフデザイン」が重要です。それが実現できるFIREならば、ぜひ目指してほしいと思います。
執筆者:西山広高
ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士、宅建マイスター(上級宅建士)、上級相続診断士、西山ライフデザイン代表取締役
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