遺産分割前でも故人の預金は引き出せる! その方法と流れ
ファイナンシャルフィールド / 2021年9月29日 2時30分
口座名義人が亡くなると、口座に残された預金は相続財産とされ、遺産分割の対象になることがあります。相続が発生すると預金口座は凍結されるため、残された家族が当面の生活費や葬儀費用を工面できずに困窮することがあります。 そこで平成30年7月の民法等の改正を受けて、導入されたのが預金の払戻制度です。今回は、遺産分割前でも個人の預金を引き出せる預金の払戻制度の概要とその方法や流れについてご紹介します。
民法改正で預貯金の仮払制度がスタート
かつては遺産分割が終了するまで相続人単独では預貯金の払い戻しができず、生活費や葬儀費用の支払いができずに困ることがありました。
相続人同士の仲が悪かったり遠方に住んでいたりすると、共同での手続きに支障があり、結果としていつまでも預貯金の払い戻しができなかったケースもあります。しかし民法の改正で相続人の資金需要に対応できるように制度が整いました。
生活費、葬儀費用など遺産分割前でも引き出せる
改正民法では、次のとおり2つの払戻制度を設けています。
・家庭裁判所の判断を必要とせず、銀行での手続きのみで比較的小口の資金需要に対応
・家庭裁判所の判断を必要とする比較的大口の資金需要に対応
これらの制度を利用して払い戻しされた預金の使途に、制限はありません。そのため葬儀費用や生活費以外の使途にも使えます。
ただし払い戻しを受けた預金は、払い戻しを受けた相続人が相続したものとして、後日の遺産分割協議で考慮されることを知っておきましょう。
なお既に有効な遺言書があり、被相続人の預貯金がどの相続人のものか確定していれば、この払戻手続きはできないため注意してください。
相続放棄できなくなる可能性に注意
被相続人が多額の負債を抱えており、相続人の立場からみれば相続放棄を選択するのが懸命な場合もあるでしょう。
しかし遺産分割前に個人の預貯金を引き出した場合、どのような理由があっても、すでに相続を承認したものとみなされます。
つまり当面の資金を故人名義の口座から払い戻した結果、被相続人の多額の負債を背負い相続放棄を選択できなくなるのです。多額の負債を残して亡くなった可能性があれば専門家に相談するとよいでしょう。
2種類の預貯金の払い戻し方法とその流れ
遺産分割前に、故人の預貯金を引き出すためには、本人確認書類以外にもいくつか書類を提出する必要があります。
ここでは、それぞれの制度の払い戻し方法とその流れについて見ていきましょう。なお故人名義の預貯金のある金融機関によって、必要書類の内容が少し異なる場合もあるので問い合わせるようにしてください。
小口の資金需要には家庭裁判所の判断なしでOK
引き出せる金額は、次の計算式で決定されます。
・相続開始時の預金額×1/3×払い戻しを行う相続人の法定相続分
つまり父親が亡くなると、(母が既に亡くなってるいる場合)長男と次男が相続人になります。相続開始時の銀行Aの1口座の普通預金が600万円であるケースは次のように算出できます。
・次男が単独で払い戻しできる金額:600万円×1/3×1/2=100万円
なお単独で払い戻しできる額は、1つの金融機関から150万円までと上限が決められています。
本人確認書類以外に、金融機関に提出が必要な書類は次のとおりです。
・被相続人:除籍謄本、戸籍謄本または全部事項証明書
・相続人全員:戸籍謄本または全部事項証明書
・単独で払い戻しをする相続人の印鑑証明書
これらの書類以外にも、手続きに必要な書類があるかどうか当該金融機関に問い合わせるようにしてください。
限度額を超える場合には家庭裁判所の判断が必要
1つの金融機関から引き出せる限度額は150万円ですが、限度額を超えて引き出す必要がある場合には裁判所の判断をあおぎます。
家庭裁判所の仮処分を受けるために、遺産分割の審判または調停の申し立てが必要です。金額の必要性が裁判所によって認められる必要があり、 他の共同相続人の利益を侵害しないことも重要視されます。
そこで単独で払い戻し能な金額は、裁判所が認めた額です。
なお本人確認書類以外に、次の書類を金融機関に提出してください。
・家庭裁判所の審判書謄本(審判書に確定表示がなければ審判確定書を用意する)
・単独で払払い戻しする相続人の印鑑証明書
遺産分割を待たずに相続人単独でも預貯金を引き出せる
遺産分割がまとまるめどが立たない場合に、当面の生活費や葬儀費用を故人の預金口座から払い戻しできる制度は便利です。
民法改正により、他の相続人との共同作業なしに単独でも引き出せるようになったので、相続人が支払いに窮することは少なくなりました。
万が一、被相続人が負債を多く抱えていた場合には、故人の預貯金を引き出したことで相続放棄できなくなるので注意しましょう。
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
監修:高橋庸夫
ファイナンシャル・プランナー
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