同業他社へ転職するときの注意点とは? 確認しておきたいこと
ファイナンシャルフィールド / 2021年10月27日 4時0分
コロナ禍の中、仕事や将来に不安を覚えて、転職を考えている人もいるでしょう。いまや、一生1つの会社で定年まで勤め上げるというのはなかなか困難な時代となっています。 そのまま同様の業種に転職することもあるでしょうが、実は会社に提出する書類の中に競業避止義務を入れていることがあります。この「競業避止義務」とは何なのか、同業他社へ転職する際の注意点をお話しします。
競業避止義務って何のこと?
転職先を探す際、新たに職種や業種を変えるのか、それともそのままの職種で探すか悩むところでしょうが、新たな職種や業種に転職するのは困難を伴います。例えば、新たにIT分野や介護など、常に人材不足で求人が多いような業種に転換しようとすると、一定期間どこかで技術を学ぶとか、研修などに参加する必要があります。
比較的安心して行えるのは、同業他社への転職です。転職先にとっては、新たに仕事をたたき込むのも、経験者だからこそ楽だという思惑もあり、労働者と転職先、両方の利害が一致する形ですから当然です。ただ、安易に同業他社へ転職して、これまでの仕事を生かそうとすると、法違反とされる場合があります。
会社に入社した時に、同業他社に転職する際に技術供与をしない、もしくは営業秘密を漏らさない、もしくは一定期間同業他社に就職しない、などの誓約書を書かされたことがある方もいるでしょう。必ずしも個別に署名していなくても、就業規則などや雇用契約書の中に、退職にあたっての禁止事項を示す一文が入っていることもあります。
在職中、会社の技術や営業秘密を漏らさないという義務は当然ですが、退職後も同様の内容で労働者に禁止事項を課しています。これを競業避止義務といいます。
抵触した場合のペナルティー?
会社にとっての「営業秘密」や「技術供与」とは何なのか、誓約書を見ても、労働者には「漏らしてはいけない」範囲がはっきりとわからないケースはあります。ただ、競業避止義務の違反が故意ではなくても、会社側に証拠を集められ、明らかに違反していると認められた場合、差し止め請求や損害賠償など訴えられることもあります。
差し止め請求はその名称のとおり、自由が侵害されますが、損害賠償のほうが労働者の地位や禁止された内容の範囲や目的に照らして、いくらか認められやすい請求だといえるでしょう。訴えたとしても、有効性が認められることもあれば否定されることもあります。代替措置がなければ否定されることもあります。例えば、賃金が高額であるなど、何らかの代替措置のあるほうが有効性を認められやすいといえるでしょう。
一概に、秘密を漏らしたから、必ず訴えられるとは言い切れませんが、訴えられるリスクを少しでも回避できるよう、まずは誓約書や就業規則上で「何が禁止されているのか」「禁止されているのはどんな行動か」などの、ペナルティーの対象になる行動は把握しておいたほうがよいでしょう。
確認しておきたいこと
労働者には、職業選択の自由が認められています。ですから違反しているかどうかは、会社側の利益や禁止する目的、そもそもの労働者の地位、など総合的に考慮して、違反したかどうかが判断されます。
筆者が相談者によく聞かれるのは、退職後どれくらいの範囲を拘束できるのかということです。退職後、5年間は同業他社に転職してはいけないという誓約書を過去に見たことはありますが、今の時代、それは現実的ではありません。誓約書の中はそれぞれですが、まずは会社にこの誓約書の提出を求められた時に、文章を読まずサインするということはやめましょう。
労働者としての財産はさまざまです。営業ならば地域の顧客だったり、総務や経理であれば、パソコンのカスタマイズや書類のひな型だったり、自分にとってのこだわりがあるはずです。入社した途端に辞める時のことを考えるのも難しいかもしれませんが、項目の中にどんな一文があるのか、入社時の確認は必要です。
書類等の控えもしっかりもらっておきましょう。退職後に同業他社への転職を禁じているのであれば、半年なのか1年なのか、持ち出しを禁じているのであれば、どの技術かどんな範囲か、そして顧客の名簿など持ち出しを禁じているのはどんなものかを確認しておくとよいでしょう。
会社としては、労働者が抵触した時に、どれくらいの損害を受けたのかによって訴えるかどうかを決めるでしょうが、転職先に少しでも賃金面で有利になるような駆け引きにはリスクがあります。同業他社への転職にそれほど神経質になることはありませんが、転職の際には競業避止義務の条項を読み込んで、ちゃんと守るべき一線を考えておきたいものです。
執筆者:當舎緑
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。
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