テーパリング開始? 金融緩和政策解除? アメリカの政策変更が、私たちの資産運用にどのような影響を及ぼすのか。
ファイナンシャルフィールド / 2021年10月29日 12時0分
ここ数ヶ月にわたり、投資初心者向けにテクニカル分析を行う上での基本的な考え方について解説してきました。 今後も重ねて解説は続けていく予定ですが、株式市場のトレンドに関して、いよいよゲームの前提が変わってきたため、これについてしばらくの間、言及していきたいと思います。
金融緩和政策とは
株式市場は、2008年に起こったリーマンショック以降、歴史的に見てもかなり大規模な金融緩和政策に支えられながら右肩上がりを続けてきました。
その後、2020年の2月、3月にかけてコロナショックが起こり、実体経済が急激にストップしたため、さらなる大規模金融緩和政策によって株式市場を下支えしています。
金融緩和政策は、各国の中央銀行が政府の発行した国債を買い取ることで、市中に資金を流し込み、景気の悪化を改善していくために用いられる経済政策の1つです。
通常、何らかの経済ショックや金融ショックが起こった際、不景気になっていくわけですから、企業や家計に大きく悪影響を及ぼします。例えば、企業活動が鈍くなったり、家計消費が落ち込んだりということです。
これらの悪影響をできるだけ防ぎ、景気の回復を目指そうとするのが金融緩和政策です。
金融緩和政策を実施すると、基本的には金利が低下していきます。日本では、いわゆるゼロ金利やマイナス金利と呼ばれるものがそれですが、金利を引き下げることで、企業や家計のコストを和らげるのが狙いです。
景気が悪くなる ⇒ 金融緩和政策 ⇒金利の低下 ⇒企業や家計の活動をサポート
現実問題として、日本において大規模金融緩和政策が、果たして実体経済、つまり、私たちにとって身近な経済にどれほどの効果をもたらしたかはさておき、金融緩和政策の目的は経済を良くするための方策だということは理解しておきましょう。
金融緩和政策後の流れ
実際、リーマンショック後、アメリカの政策金利であるFFレート(フェデラル・ファンド・レート)がどのようになったかというと、2007年に5.25%あったものが、リーマンショックを受けての大規模金融緩和政策により、ほぼゼロ金利の水準まで低下しました。
その後、少しずつ景気が良くなってきたため、そろそろ金利を引き上げた方が良いのではないかということで、いわゆる「テーパリング」と呼ばれる「量的緩和の段階的な縮小」という政策転換が図られるようになりました。
量的緩和の段階的な縮小とは、簡単にいうと、国債などの資産の買い入れを少しずつ減らしていくことをいいます。
アメリカの中央銀行に当たるFRBが資産の買い入れをしなくなるということは、裏を返すと、中央銀行による資金の供給を抑えていくことを意味するため、市中に流れるお金の量が減っていきます。
この結果、例えば、アメリカの10年物国債の利回りが徐々に上がり、事実上の金利引き上げ効果が発生します。前回のテーパリングは、2014年の1月に始まりました。
そして、それが終わったのが2014年の10月でしたが、すぐにFFレートを引き上げたのではなく、しばらく様子を見た後、2015年12月にFFレートを年率0.00%~0.25%の水準から0.25%~0.50%の水準へ引き上げました。
そしてその後、段階的な利上げは2019年6月まで続き、FFレートは最終的に2.25%~2.50%のレンジでピークを迎えました。
景気の改善 ⇒ テーパリング ⇒ 政策金利の引き上げ
中央銀行が実施する金融政策の目的は「物価と雇用の安定」です。このため、景気が改善してきたという段階では、もう公的なサポートがなくても物価と雇用が安定的に推移してきたということを意味しています。
そして、物価と雇用に勢いが見られ、少しずつ過熱感が見て取れるようになった段階で、テーパリングが実施され、様子を見ながら政策金利が引き上げられていきます。
政策金利がピークを迎える段階では、金利が高くなった影響が実体経済に表れているため、つまり景気の鈍化が見て取れるため、そのようなタイミングで、今度は逆に金融政策を緩和方向に持って行くことで再び利下げを実施し、様子を見ながら調整していきます。
コロナショック後の金融緩和政策が解除されることの意味
2019年の7月以降、FRBは景気の減速懸念を受けて金融引き締め政策を解除し、再び利下げに政策転換しましたが、その直後にコロナショックが起こったため、急激かつ大胆に、リーマンショック後の金融緩和政策を大きく凌ぐほどの大規模金融緩和政策を実施するに至りました。
コロナショック後の超大規模な金融緩和政策が終わる!?
これが今、株式市場が警戒しているリスク要因の1つになっています。アメリカの主な株式指数の1つにS&Pがありますが、2021年9月2日につけた終値4536.95をピークに崩れました。
また、NYダウでは一足早く、2021年8月16日の終値35625.40をピークに値を崩し、さらにNASDAQは2021年9月7日の終値15374.33でピークをつけています。いずれも、これから金利が上がるだろうという予測の下、史上最高値からの下落を描いています。
この記事を書いている2021年10月17日時点では、それぞれについて下値をつけた後の戻り相場となっており、株式市場ではテーパリングがすでに織り込まれ、金融相場から業績相場に移行する作業が行われだしたところに位置しているようです。
金融緩和政策 ⇒ テーパリング ⇒政策金利の引き上げ
株式相場は、実体経済の半年から1年先を見て動くといわれますが、今後、金利が上がっていく段階において、実体経済が利上げの影響をどのように吸収するかを横目で にらみながら相場が進んでいくことを業績相場といいます。
別の言い方をすると、業績相場は、企業決算など会社の業績に着目しやすくなる相場といえますが、暗雲となっているのが、しばらく続くであろうといわれている物価の上昇です。
FRBは、コロナショック後で現れた急激な物価の上昇を封じ込めるために、半ば、金融緩和政策を解除することを決断したといっても過言ではありません。
通常ならば、景気が良くなっていく過程で起こる物価の上昇に過熱感が現れるようになり、テーパリングが検討されますが、今回の場合は、どちらかというと景気がはっきりと完全に回復しているといえる状況にはない中で、物価が先行して上がってしまっていることをいかに調整させるかが大きな争点になっているため、今までの金融緩和解除と異なる側面も見ておく必要があるかもしれません。
まとめ
経済のことはよく分からない……。
勉強している時間はない……。
だから、自分で準備していく必要がある老後の年金を他人に委ね、ほったらかしにしてしまう。また、それでも良いといった風潮が、ここ近年、目立つようになっています。
確かに、資産運用の初心者にとっては無理もないように思えますが、資産運用は世の中の情勢に広く関心を持ち、それらがどのように経済に関わっているかを考える力を身に付ける、とても良い機会ともいえます。
資産運用は本来、こういった理解が楽しいから行うようなもので、投資する金額が少なかろうが多かろうがはそれほど重要ではなく、むしろ、特に若いうちは学ぶことの大切さについて資産運用を通じて感じることに重きを置いた方が、後々、さまざまな面で効果が発揮されやすくなるように思います。
リテラシーの使い道をお金ではなく、自分自身の成長に向けながら資産運用を実践していくと、より面白いのではないでしょうか。
次回は、金融相場と業績相場の関係性についてお伝えしていければと思います。
執筆者:重定賢治
ファイナンシャル・プランナー(CFP)
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