景気が必ずしも良いとはいえないのに、アメリカで利上げが指摘されているのは、なぜ?
ファイナンシャルフィールド / 2021年10月30日 12時0分
![景気が必ずしも良いとはいえないのに、アメリカで利上げが指摘されているのは、なぜ?](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/financialfield/financialfield_119659_0-small.jpg)
前回は、金融相場が終わりを迎えると業績相場が訪れるということで、金融相場と業績相場の関係性についてお伝えしてきました。 この記事は、2021年10月17日に執筆しいていますが、現在の株式市場の状況を見ていると、アメリカのテーパリングはすでに織り込まれ、反面、物価の動向についてはどうなるか不透明な点もあるため、この点が今後しばらくリスク要因として受け止められやすくなるかもしれません。 ということで今回は、景気が良い状況で実施されるはずの金融緩和解除が、なぜ実施されようとしているのかについてお伝えしていきたいと思います。
アメリカの金融緩和政策のその後
前回、前々回と、金融緩和政策や金融相場について言及しました。
端的にいうと、景気がある程度回復してきたら、金融緩和政策が解除され、それをもって金融相場が終わりを告げると判断するのが一般的です。
確かにアメリカの場合、コロナショック後の大規模金融緩和政策のみならず、多額の財政出動により、非常に大きなダメージを受けた実体経済は一定の回復を見せたということはできるでしょう。
しかし、新型コロナウイルス感染症の第5波により、2021年の第3四半期におけるGDP成長率は、10月28日に発表される速報値におけるコンセンサス予想としては、第2四半期の実績値年率6.7%から年率3.4%となっており、景気減速が懸念されていることが分かります。
ただ、ワクチン接種の広がりを受け、今後は経済活動が回復していくだろうという見方もあり、それも一因となって物価に上昇圧力がかかるようになっています。
コロナショックがもたらした経済的なダメージは、これまで経験してきた、例えばリーマンショックのような衝撃とは多少意味の異なるもののように思えます。
なぜならば、リーマンショックは、その発端が金融ショックにあり、通常のバブル崩壊の過程を経て実体経済に悪影響が及んだ事例であったのに対し、今回のコロナショックは、金融ショックが発端だったわけではなく、パンデミックにより直接的に経済活動がストップしたことに端を発しています。
このため、過去に例を見ないほどの大規模な緊急資金援助が必要となり、金融政策においては金融緩和政策の拡充が、財政政策においては財政出動の拡大が行われるようになりました。
この結果、大きく落ち込んだGDP成長率は、経済政策着手後、落ち込み分をほぼ相殺するようにV字回復し、その後は反動で急低下しましたが、そこから再び上昇に転じ、2021年の第2四半期に至るまで徐々に経済が回復してきているようにうかがえるほどになりました。
この過程で、アメリカの物価は急激に改善を示し、足元では2021年10月13日に発表された消費者物価指数が5.4%と、5月以来、5ヶ月連続で5.0%以上の高い水準に位置しています。
悪い物価の上昇とスタグフレーション
ここで問題なのが、2021年の第3四半期におけるGDP成長率のコンセンサス予想では、景気が減速するかもしれないとアナリストが予測しているにもかかわらず、7月、8月、9月における消費者物価指数がいずれも5.4%、5.3%、5.4%と高い水準をキープしている点です。
つまり、アメリカにおいて景気が減速する可能性が指摘される中で、物価が高止まりしつつあるという矛盾が生じています。
通常の景気回復局面では、実体経済が回復していく過程で経済活動が活発化していき、それに歩調を合わせるように物価も上昇していきます。
これがいわゆる「良い物価の上昇」と呼ばれるものですが、現在、市場で指摘されている現象は、景気が必ずしも回復しているとはいえない状況で、物価が極端に上がっているという、いわゆる「悪い物価の上昇」です。
ここ最近、新聞の紙面などでよく見かけるのが「スタグフレーション(stagflation)」という言葉ですが、スタグフレーションは、景気の停滞を意味する「stagnation」と、物価の上昇を意味する「inflation」を合わせた造語で、まさに、悪い物価の上昇が起こっていることを物語っている好事例といえるかもしれません。
物価が上昇している理由
では、なぜ物価が大きく上昇しているのかというと、世界的な供給制約、つまり、新型コロナウイルス感染症拡大によるさまざまな企業活動の制限が完全に解除されず、一時期に比べて徐々に回復してきた需要との間に大きなギャップが生じているからということができるでしょう。
この現象が顕著に表れているのが、小麦やトウモロコシなどの穀物価格の上昇ですが、これに先立ち、スエズ運河での大型コンテナ船座礁事故による貨物輸送への障害や、OPEC(石油輸出国機構)の減産体制継続などで原油や天然ガスの価格が上がったのも、世界的な物価の上昇に拍車を掛けています。
さらに報道でもよく取り上げられる半導体不足の問題もあり、半導体関連産業の供給能力を押し下げていることも物価の上昇の一因とされています。
私たちに身近なところでは、つい最近まで野菜の値段が高かったことや、2021年10月になって小麦の値段が引き上げられたこと、さらにガソリン価格が以前と比べ高くなってきていることなどから、物価が上がっていると実感している人は少なくないかもしれません。
まとめ
景気があまりよろしくないのに物価が上がっている状況をスタグフレーションといいます。これがいわゆる悪い物価の上昇ですが、つい最近まで株式市場が大きく値を下げていた要因の1つがスタグフレーション懸念でした。
ここ数日は、物価の上昇はある程度高止まりするだろうという認識の下、景気減速懸念から、逆にコモディティ(原油やトウモロコシなどの商品)が下落し、また長期金利も弱含んだため、株式市場に再び買い戻しの動きが広がっていますが、金融相場から業績相場に移行する過程で、高止まりするだろうと予測されている物価は、今後もリスク要因として指摘される可能性は見ておく必要があるかもしれません。
ただ、もう少し先を見ると、アメリカの中央銀行に当たるFRBのパウエル議長がいうように、FRBの目的が物価と雇用の安定である以上、今回のテーパリングや今後起こるであろう政策金利の引き上げの主目的は、高止まりする物価を抑え、適正な巡航速度に戻すためのものであるため、「物価が高いから株価が暴落する!」とか、「物価が高いから景気が悪化する!」とか、そういった類のものではなく、コロナ後の経済が正常化する過程で発生する必要なことと受け止め、来るべく業績相場への下準備を整えていく段階と頭を切り替えて臨んだ方がいいように思われます。
次回は、金融相場から業績相場に移行する際に、資産運用初心者の方がどのように相場に対し臨めばいいかについてお伝えしていきたいと思います。
執筆者:重定賢治
ファイナンシャル・プランナー(CFP)
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