「暦年贈与」が見直される前に……今からできる節税対策とは?
ファイナンシャルフィールド / 2022年1月18日 22時40分
相続税対策として、非課税枠を活用した暦年贈与は有効な手段のひとつです。ただし、格差の固定化防止という観点から税制面での検討が進められています。令和4年の税制大綱では明記されなかったものの、今後の法改正に注目するとともに、今できる対策を検討する必要がありそうです。
相続税・贈与税のあり方
日本の個人金融資産残高は1999兆円を超え(※1)、その大半を保有するのが高齢世代と言われています。相続による資産の世代間移転の時期がより高齢期にシフトしており、結果として若い世代への資産移転が進みにくい状況にあります。
国は、若い世代への資産移転を促進させることで経済の活性化を図りたい一方で、相続税・贈与税など適切な負担を伴うことなく資産が引き継がれることで格差の固定化につながることを懸念しています。そこで、中立的な税制の構築に向けて本格的な検討を進めるとしています(※2)。
具体的に想定されるのは、贈与税の非課税枠廃止や生前に受けた贈与に相続税が課税されるといった、資産に対する課税強化です。
暦年贈与の非課税枠がなくなる? 注目の令和4年税制大綱
贈与税には、110万円までの非課税枠があります(※3)。この非課税枠内で毎年贈与を繰り返すことで、税負担なく資産移転が可能です。相続発生時の財産を減少させることで、相続税対策として有効と言われています。
ただ、資産移転は認めるものの、節税を目的とした手法は認めないというのが国の考え方です。そのため、相続発生直前のかけこみ贈与対策として、相続(遺贈)で財産を受け取る人が相続発生3年以内に受け取った贈与は、相続財産にふくめる規程(生前贈与加算)があります。つまり相続発生の前年に贈与された100万円は、贈与時には非課税ですが、相続税の計算においては加算されます。
現時点では3年という生前贈与加算の範囲が5年、10年に改正される、もしくは110万円の非課税枠がなくなる、という議論が繰り返されています。令和4年の税制大綱に記載されるのではと注目されていましたが、「そのあり方について、格差の固定化防止等の観点を踏まえ、不断の見直しを行っていく必要がある」という表現にとどまりました。
検討しておきたい、「誰に」「何を」「どのように」遺すのか
そもそも相続とは、亡くなられた方の財産を引き継ぐことです。大切なのは「誰に、どのように遺(のこ)すか」で、その思いを実現させるのが相続対策です。払うべき相続税があるのであれば、納付に困らぬよう相続税対策が必要です。そのうえで特例や措置など活用した節税対策をしたいものです。
配偶者や子どものほか、孫やお世話になった人へ遺したいという方も多いでしょう。上記の生前贈与加算は、相続で財産を取得した場合に適用される制度です。つまり法定相続人でない孫や子の配偶者であれば、贈与税で完結するため、法改正を見据えても相続税の節税効果の期待できる対策として有効です。
また、「誰に遺すのか」のほか、「何を」「どのように」遺すのかについても検討しておきたいものです。
自宅などの不動産は分割することが難しいため、相続発生時にもめるケースが散見されます。上場株式など値動きのある金融資産を保有している場合も、値上がりが期待できる銘柄などは、早めに贈与しておいた方が税負担は抑えられます。相続対策として、まずは資産を把握しておきたいですね。
延長される直系尊属からの贈与税非課税措置
今回の税制大綱では、暦年贈与110万円の非課税枠の見直しについて明記されませんでしたが、引き続き、今後の法改正に注目していく必要はありそうです。今できることを検討し実行するのが有効でしょう。
(1)住宅取得等資金の贈与の非課税制度 (2023年12月31までの贈与)
(2)教育資金の一括贈与の非課税制度 (2023年3月31までの贈与)
(3)結婚・子育て資金の一括贈与の非課税制度 (2023年3月31までの贈与)
上記3制度は、当初期限付きで終了するとされていた措置ですが、いずれも延長されています。それぞれ要件があり、相続発生時に残額がある場合には相続税の対象となるなど、決してハードルは低くはありませんが、世代間の資産移転という点でも、思いをカタチにするという点でも有効と言えます。
まとめ
相続税対策として、非課税枠や特例措置は、可能であれば活用すべきでしょう。非課税枠のある保険の活用なども有効です。ただ、節税対策が行き過ぎると、税務調査の対象となるケースや家族間での争族、裁判沙汰となる事例も散見されます。
早めの対策が有効な一方で、その後の生活に影響することもあり得ます。くれぐれもやみくもな対策に着手せず、必要に応じて専門家へ相談するなどし、自分にとっての有効な対策を検討したいものです。
出典
(※1)日本銀行調査統計局 2021年第3四半期の資金循環
(※2)自由民主党・公明党 令和4年税制改正大綱
(※3)国税庁 No.4402 贈与税がかかる場合
執筆者:大竹麻佐子
CFP🄬認定者・相続診断士
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