4月から6月は残業をしたら損って本当? そのようにいわれるのはなぜ?
ファイナンシャルフィールド / 2022年5月27日 4時10分
インターネット等から流れてくる情報で、GW前後によく「4月から6月は残業をすれば損」という見出しの記事を目にすることはありませんか。また、このような内容のものを、一度は読んだことや聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。改めて、この内容が正しいのかどうかを検証してみましょう。
4月から6月に何があるのか
まず、そもそも4月から6月に何があるのか、という根本の説明から始めましょう。
サラリーマンは毎月いろいろなものが給料から差し引かれます。その項目の中に「健康保険料」「介護保険料」「厚生年金保険料」という項目があり、給料支給額の約15%が差し引かれています。この約15%の金額を決定する作業を「定時決定」と言います(※1)。そしてその決定作業を行うときに使うのが、4月から6月の給料の支給額です。
簡単に言えば、4月から6月の給料の支給額(手取り額ではありません)を足し合わせて、3で割ります(報酬月額)。その割った金額を保険料額を決定する際の基準とするわけです。
4月支給額:25万円
5月支給額:27万円
6月支給額:25万円
3ヶ月の合計:77万円
77万円÷3=25万6666円(円未満端数切捨)
健康保険料等や厚生年金保険料の定時決定
(例)で計算した結果(報酬月額)の25万6666円から、保険料を決める際の基準(標準報酬月額)を決定し、その年の9月から翌年の8月までの社会保険料(健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料)が決まります。つまり給料から差し引きされる金額が決まるわけです。基本的に、標準報酬月額は高ければ高いほど保険料は高くなります。
そのため、4月から6月に残業をしたことにより支給額が高くなると、マイナスされる金額が高くなり、手取り額が減り損をします、と多くの記事が書いているわけです。
損をしていると感じるメカニズム
毎月の給料の手取り額が減ることは、たしかに損です。例えば、自分が勤めている会社の繁忙期がたまたま4月から6月だとします。4月から6月にめいっぱい残業をすれば、その分の残業代が加算されます。
その加算された高い支給額で定時決定がされることにより、9月以降のマイナス金額が増え、9月以降に残業代がない場合でも、めいっぱい残業した月の基準で保険料を引かれ、その結果「損」をしたということになります。
しかし、一方で知っておいてほしいことが1点あります。もちろんこれだけで「損から得」に考えが変更されるわけではありませんが、頭の片隅に置いておいてください。
社会保険料が決まる定時決定の大切さ
定時決定の基準(先ほどの(例)では25万6666円)から「報酬月額」が分かり、「標準報酬月額」が決まります(※2)。
実はこの「標準報酬月額」が、老後に受給する「老齢厚生年金」の金額に影響します。老齢厚生年金の計算方法の詳細を説明するのは避けますが、簡単に言うと、この「標準報酬月額」と、支払った期間により計算されます。つまり、「標準報酬月額」が高ければ老後に多くの老齢厚生年金を受給できると考えていただいて問題ありません(諸条件により異なることもあります)。
このことから、頭の片隅に置いておいてほしいことは、今の手取り額が減って損に思えるかもしれないけれど、老後に受給できる金額は増える可能性があるということです。
損得勘定だけで判断することは避けたほうがよい
今の世の中、多くのことの判断基準は損得勘定で成り立っています。ただ、目先のことを損得勘定だけで判断した結果、「○○スーパーで安いと思って購入したきゅうりが××スーパーではもっと安かった」「バーゲンで安いと思って購入した洋服を着てみたら何か違和感があり着なくなった」など、結果的に「損」をしたという経験がある人も多いでしょう。
このように考えると、「4~6月は残業をしたら損? 」という疑問に対する回答は、今は損です、となります。しかしながら、老後のことまで考えると得に転じることもあるかもしれない、ということです。目先の損得勘定だけで判断するのはやはり避けるべきですし、また、「損だから残業しない」というわけにもいかないでしょう。
損得勘定を判断基準に入れることは、正しいことではあります。しかし、何ごともそれだけで判断するのではなく、いったん深呼吸をして冷静になり、判断してほしいところです。
出典
(※1)日本年金機構 定時決定(算定基礎届)
(※2)協会けんぽ 令和3年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表
執筆者:秋口千佳
CFP@・1級ファイナンシャル・プランニング技能士・証券外務員2種・相続診断士
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