なぜフリーランスはインボイス制度に注意すべきか?収入や取引先が減る可能性を考察
ファイナンシャルフィールド / 2022年5月30日 22時20分
![なぜフリーランスはインボイス制度に注意すべきか?収入や取引先が減る可能性を考察](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/financialfield/financialfield_143220_0-small.jpg)
2023年10月よりインボイス制度(適格請求書保存方式)の経過措置がスタートし、2029年10月には完全導入が決定しています。しかし、インボイス制度が施行されると、多くのフリーランスが収入や取引先を失う可能性があることをご存じでしょうか。 今回は、なぜインボイス制度でフリーランスの収入や取引先が減る可能性があるのかを、インボイス制度の概要を交えながら解説します。
インボイス制度に関するフリーランスの3つの注意点
インボイス(適格請求書)とは、適用税率や消費税額、取引内容などを記載した請求書のことです。インボイス制度は、このインボイスによって正確な消費税額や取引内容を把握することを目的にしています。
インボイスは誰でも発行できるわけではありません。税務署の窓口やe-Taxなどで申請し、所轄税務署にて「適格請求書発行事業者」の登録を受けた者のみが発行できます。また、適格請求書発行事業者になれるのは、消費税の納付義務がある「課税事業者」のみです。
消費税を納める義務がない「免税事業者」が適格請求書発行事業者になるには、所定の手続きを進めて課税事業者になる必要があります。
原則として年間売上が1000万円を超えない限りは免税事業者であるため、現在は免税事業者のフリーランスが多いのではないでしょうか。
インボイス制度が始まった後も、フリーランスは適格請求書発行事業者になるか、免税事業者のままでいるか自由に選べます。
ただしインボイス制度の問題点は、適格請求書発行事業者・免税事業者のどちらになっても、フリーランスは不利益を被る可能性が高くなることです。
以下ではインボイス制度でフリーランスが注意すべき3点を、インボイス制度の解説と交えながら解説します。
(1)自分でインボイスが発行できず取引先が減る可能性
インボイス制度施行後も免税事業者のままでいることを選択した場合、取引先が「仕入税額控除」を適用できなくなります。
仕入税額控除とは、「売上にかかる消費税額」から「仕入れなどにかかる消費税額」を控除する仕組みです。
例えば、課税事業者が売上500万円にかかる消費税50万円を商品購入者から受け取ったとき、この50万円を申告して納付する義務があります。
このとき、他の取引で仕入税額控除の対象になる支払い(原材料等の購入費や広告宣伝費など)に関して消費税20万円が発生していた場合、消費税の納付額を50万円-20万円=30万円にできます。
出典:国税庁 消費税の仕組み
インボイス制度が始まった後は、インボイス以外での請求書では仕入税額控除が適用できません。つまり免税事業者のまま取引を続けると、相手は仕入税額控除で差し引けたはずの消費税額を、自腹で納付する必要があります。
すると、以下の問題が発生する可能性があります。
●取引先が他の適格請求書発行事業者との取引に切り替えることで、取引が打ち切られる
●免税事業者とは取引しない事業者が増えて営業が難しくなる
●課税事業者への転換や消費税分の値引きを相手から要求される
取引先が減ったり値引きを要求されたりすると、実質的に売上が減少してしまいます。
(2)消費税の納付によって利益が減る可能性
インボイスを発行するために課税事業者になると、年間売上が1000万円を超えていなくても消費税納付の必要が出てきます。これは免税事業者だったフリーランスにとって、利益としていた消費税10%(8%)分の売上が減ることと同義です。
免税事業者が利益としている消費税を「益税」と呼びます。今回のインボイス制度導入は、益税の解消が目的の1つだと言われています。
益税問題は、公平性の観点から昔から議論が続いていました。とはいえ「年収500万円が450万円になる」と考えると、フリーランスの立場だと無視できない問題と言えるでしょう。
(3)経理の手間が増えて人的・金銭的コストが増える可能性
適格請求書発行事業者になると、以下の経理作業が増えます。
●消費税の確定申告および準備
●税額計算や複数税率(軽減税率)への対応などの消費税関係の経理
●取引先へのインボイスの発行
●受け取ったインボイスの保存・管理 など
経理作業をすべて自分で行うフリーランスだと、本業に回す時間や労力がさらに削られます。
インボイス制度に対してフリーランスができることは?
2022年3月時点だと、インボイス制度に関する変更点はアナウンスされていません。今のままだと遅かれ早かれ、フリーランスはインボイス制度に対応する必要が出てきます。
免税事業者のままでフリーランスを続ける場合は、「消費税を負担してでも取引したい」と取引先に思わせる独自スキル・サービスがカギになります。
適格請求書発行事業者になる場合は、消費税に関する経理のリソース確保とともに、インボイス制度に対応した経理処理の方式・請求書の書式などに関する準備を進めておきましょう。税理士に相談したり、クラウド会計ソフトを導入したりなどをおすすめします。
出典
国税庁 適格請求書等保存方式の概要
国税庁 免税事業者のみなさまへ
国税庁 消費税のしくみ
国税庁 No.6451 仕入税額控除の対象となるもの
執筆者:棚田将史
2級ファイナンシャル・プランニング技能士・証券外務員1種
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