「低所得の家庭の子どもたちは大学への進学率が低い」 高等教育の無償化を享受できるのは年収いくらの家庭?
ファイナンシャルフィールド / 2022年7月31日 11時0分
義務教育修了後は進学にお金がかかりますが、世帯年収が低い家庭では大きな負担となり、高校卒業後の進学をあきらめてしまう子どもも少なくありません。政府はこのような教育格差を解消するため、2020年から「高等教育の修学支援新制度」を始めました。 大学をはじめとする高等教育無償化の恩恵を受けられるのは、どのぐらいの年収の世帯なのでしょうか。
低所得世帯の子どもほど大学進学率が低い
日本ではほとんどの子どもが義務教育課程を修了したあとは高校に進学しますが、高校卒業後の進路は世帯年収によって左右されることが分かっています。2007年の調査では、年収1000万円以上の世帯ならば6割以上の学生が大学に進学していたのに対し、年収200万円以下の世帯だと28.2%、200万円から400万円の世帯だと33%でした。
一方、高校卒業後に就職した学生は年収1000万円以上の世帯だと6%に満たないのに、年収200万円以下の世帯だと35.9%、200万円から400万円の世帯だと27.3%でした。
従来、世帯年収が低い世帯の子どもは貸与型奨学金や教育ローンでお金を借りることが多かったのですが、経済面の理由によって学業のみへの集中が難しかったり、卒業後に返済できずに破産してしまったりという問題が起きていました。政府は本人に勉学の意志があっても、家庭の状況であきらめざるをえない子どもを支援するために、2020年4月から「高等教育の修学支援新制度」を実施しています。
2020年スタートの「高等教育の修学支援新制度」とは?
「高等教育の修学支援新制度」は、低所得世帯の子どもであっても本人に勉学をする意志があれば大学・短期大学・高等専門学校(4年生、5年生)・専門学校などへの進学を支援するというもので、世帯年収が一定以下ならば入学金・授業料の減免措置のほか、給付型奨学金を受け取ることができます。入学金・授業料の減免額や給付型奨学金の金額は学校種によって細かく決められています。
例えば、国公立大学に通う学生ならば入学金として最大28万円、授業料として最大54万円(年額)の減免を受けることができます。また、私立大学に通う学生だと入学金として最大26万円、授業料として最大70万円(年額)が減免されます。
このほかに給付型奨学金として、国立大学に通う大学生だと最大80万円(自宅通学の場合は35万円)、私立大学に通う学生だと最大91万円(自宅通学の場合は46万円)の給付型奨学金を受け取れるのです。
給付額は世帯年収によって決められていて、住民税非課税世帯(目安年収270万円以下)なら満額、目安年収300万円以下なら上限額の3分の2、目安年収380万円以下ならば上限額の3分の1を支援してもらえます。
なお、この目安年収は父親が給与所得者、母親が専業主婦、大学生のほかに中学生の家族がいる家庭のもので、扶養家族の人数やその他所得控除の額によって、違いがあります。
対象者は、高等教育機関に入学してから3ヶ月以内に、学校を通じて日本学生支援機構に申し込みを行います。その後、採用決定の通知が学校を通じて申請者に届けられます。申請は春と秋の2回行います。
なお、高校3年生で「高等教育の修学支援新制度」に申し込めそうな人は、高等教育機関に入学する前に「予約採用」の申請を行うことが可能です。
「高等教育の修学支援新制度」の注意点
「高等教育の修学支援新制度」は、勉学をする意志のある学生を支援するもので、世帯年収が一定以下ならば例外なく受け取れます。
しかし、学業にまじめに取り組まないと支援が打ち切られることがありますし、場合によっては返還を求められることがあります。例えば、修業年限で卒業できないことが確定した場合や、修得単位数が標準の半分以下ならば、支援が打ち切りになります。
今後対象者が拡大する可能性もある
「高等教育の修学支援新制度」が始まって間もないですが、すでに低所得世帯の高等教育機関への進学率は10ポイント以上上昇していて、効果が得られていることが分かります。
現行の制度では、年収380万円以下の世帯が支援の対象ですが、政府は年収380万円~600万円の世帯で理系の大学への進学を希望する学生や、多子世帯の学生に対する支援の拡充を検討しています。高等教育機関への進学が当然となる時代がやってくるかもしれません。
出典
文部科学省 高等教育の修学支援新制度
文部科学省 学びたい気持ちを応援します高等教育の修学支援新制度
独立行政法人日本学生支援機構 給付奨学金(返済不要)
文部科学省 予約採用(高校生用)に係るリーフレット
内閣府 第3章 2.2.(5)高等学校等卒業後の進路の状況|政策統括官(共生社会政策担当)
NHK解説委員室 「低所得世帯の進学支援を考える」(視点・論点)
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
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