【FP相談】地方にあるお墓を相続したくありません。どうしたらよいでしょうか
ファイナンシャルフィールド / 2022年9月27日 11時20分
Aさんは40代、父はすでに他界しています。母から「私の死後はAにお墓を相続してもらいたい」と言われているのですが、家族と都心部で暮らしているAさんにとって、地方(遠方)にあるお墓を管理することはなかなか難しく、できれば相続したくないと考えています。 このような状況下、Aさんにはどのような選択肢があるのでしょうか。FP・弁護士・相続診断士を兼ねる筆者が解説します。
実はお墓を相続するという概念は存在しない ~祭祀承継~
(1)お墓は相続の対象ではない
まず、今回のお話は「お墓を相続してもらいたい」「できれば相続したくない」というやり取りのお悩みですが、実はお墓は相続の対象となっていません。
相続については民法という法律の第896条で、相続財産は相続人に承継されるという原則を定めていますが、次の第897条第1項では「系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する」と書かれています。
ここで書かれている「墳墓」というのがお墓のことであり、お墓の所有権あるいは管理については、民法が定める相続の原則の対象外とされているのです。
前述の条文にある「祭祀を主宰すべき者」、これは祭祀承継者と呼ばれる存在で、この祭祀承継者がお墓の所有権を取得し、法事等を主宰することになります。
(2)祭祀承継者はどうやって決まるのか
前述したように、民法第897条第1項は慣習に従って祭祀承継者が定まる旨が規定されていますが、民法第897条第1項は「ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する」とも定めています。
つまり、慣習よりも、被相続人(今回の事例でいうと、Aさんのお母さん)の指定が優先されることになります。被相続人の指定は口頭でも可能ですが、遺言書できちんと遺(のこ)しておくほうが、安全ですし、一般的です。
被相続人の指定がなければ慣習によって祭祀承継者を決めることとなりますが、慣習という漠然的な概念を用いて決することは、現代社会ではなかなか難しいでしょう。そこで、民法第897条第2項は「前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める」と規定しており、最終的には家庭裁判所での調停、または審判という手続きで決せられます。
これまでは、むしろ自分が祭祀承継者になりたい(お墓を引き継ぎたい)という人が複数いる中で、誰がふさわしいかを決するために家庭裁判所の手続きが用いられることが多かったかと思われます。
しかし、これからの世の中は、今回のAさんのケースのように、負担が嫌で祭祀承継者になりたくない(お墓を引き継ぎたくない)と考えている人たちの間での、いわば押し付け合いのような事案が増えていくのかもしれません。
祭祀承継者の指定について ~終活の重要性~
(1) 祭祀承継者にならないためには
前述したように、祭祀承継者は一義的には被相続人の指定によって定まりますので、Aさんがお墓を引き継ぎたくないと考えているのであれば、「お母さん、私(僕)を祭祀承継者にしないでね」と意思を告げておく必要があります。
もっとも、現実的に考えると、世の中の人の多くは「祭祀承継者」という概念自体を知らないでしょうから、こうした話をすることで「お墓の所有権の法律はそういうふうになっているんだ。じゃあ、私がAを祭祀承継者にするための遺言書を書かなくちゃ」とお母さんにスイッチが入ることで、やぶ蛇となってしまうかもしれません。
また、Aさんの意思がお母さんに通じたとしても、Aさん以外に他に相続人や親族が存在しない場合、祭祀承継者の指定は親族等にすることも可能ではありますが、お寺や墓地によっては相続人や親族以外の第三者を祭祀承継者として認めないこともありますので、要注意です。
(2) 祭祀承継者になってしまったら
被相続人の指定等によって祭祀承継者になった場合、それを断ることはできません。たとえAさんが相続放棄をしてお母さんの遺産を全部受け継がないということになったとしても、お墓は相続によって受け継がれる財産とは別物ですので、Aさんは就任を逃れることはできないのです。
Aさんは、お墓の管理の負担が重いということであれば、永代供養や墓じまいといった選択肢も考えられるかもしれません。ただし、こうしたことをするにはいろいろと必要な手続き等もありますので、終活に詳しい専門家等に相談をしながら、しっかりと進めていきましょう。
今回の事例では、何よりも、Aさんひとりで考えるのではなく、お母さんともコミュニケーションを重ねて、皆にとって何がもっとも良い形となるのか、お墓のことを始めとした終活について、日頃から一緒に考えていくことが大切です。くれぐれもお母さんが元気なうちから始めておきましょう。
執筆者:佐々木達憲
京都市役所前法律事務所弁護士
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