相続が発生 「戸籍集め」は手間がかかり非常に苦労する
ファイナンシャルフィールド / 2022年10月18日 11時20分
誰かが亡くなり相続が発生すると、相続内容を決めるために戸籍集めが必要になります。不動産の相続や定期預金の解約には不可欠です。ところが、亡くなった方の最終戸籍だけではなく、出生時までさかのぼって集めることが求められるため、非常に手間がかかります。
戸籍集めの目的は相続人の確定
なぜ出生時から死亡時までの戸籍が必要なのでしょうか。それは実際にどれだけの相続人がいるかを確定するためです。実際に一緒に住んでいた子どもたちは当然相続人の対象者ですが、その後に相続人だと名乗り出る人がいると、とても厄介になります。身近な相続人だけで話し合いをつけられればよいのですが、亡くなった方の戸籍を確認しなければ、最終的な血族関係の結論は出てこないのです。
亡くなった時点での戸籍は比較的簡単に入手できるので、最小限の相続人はわかります。しかし本人が離婚した相手との間に子どもがいたか、認知した子どもや養子縁組をした子どもがいたか、といった内容は、死亡時の戸籍には記載がありません。このような子どもたちにも相続の権利があるわけですから、戸籍集めが必要になります。
現在近くにいる子どもたちには、故人が秘密にしている場合もあるかもしれません。戸籍集めは、結婚や転籍を契機に変更されている内容を確認し、相続人が誰と誰で、その人数も何人になるかを確定するために必要な作業といえます。
相続財産の名義変更に戸籍が不可欠
集めた戸籍は、相続財産の名義変更の際の手続きに不可欠です。これがあれば手続きをスムーズに行うことができます。相続財産を大別すると、土地・住宅などの不動産と、預貯金・株式などの金融資産の2つで構成されます。
不動産の名義変更については、その不動産のある地域を管轄している「法務局」に、金融資産の名義変更については、取引をしている銀行や証券会社に提出します。複数の金融機関と取引のある場合は、個別に行います。そのため戸籍は1通では済まずに、複数必要となるケースも出てきます。
法務局をはじめ複数の金融機関へ提出するとなると、1通の取得では済まないケースが出てきます。もちろん、どこの窓口であっても手続きが完了すれば、戸籍謄本などの書類は返却してもらえます。しかし手続きには、通常1週間以上かかることが多く、4~5件の手続きをするためには、2ヶ月以上かかることもあります。名義書換の作業をなるべく早く進めたい時には、戸籍謄本を複数用意する必要があり、それに応じて費用が発生することも認識しておきましょう。
提出書類については、個別の事情により異なります。しかし、被相続人の、(1)出生から死亡までの「戸籍謄本」は必須です。それに加えて、被相続人の(2)「住民票の除票」も必要になります。
相続する側の書類としては、(3)相続人全員の「戸籍謄本」、(4)相続人全員の「住民票」、(5)相続人全員の「印鑑証明」が必要です。さらに必要に応じて、(6)相続人同士で決めた「遺産分割協議書」や、存在するときは(7)被相続人の作成した「遺言状」もそろえます。
戸籍集めをどのように進めるか
はじめに、被相続人が死亡時点での本籍の記載された戸籍を入手します。これは被相続人が住んでいた地域の役所で確認できます。そこに記載された本籍から、それ以前の転籍や結婚などの事情を手掛かりに、変更になった戸籍を順にさかのぼり、最終的に出生時の戸籍にたどり着く作業をしていきます。
特に戦前生まれの方の場合、出生と同時に親戚に養子に出されたり、結婚前に養子縁組をして親戚の家に入ったり、かなり複雑な事情も見られます。またあまり意味のないような戸籍の変更も行われていました。そのため、戸籍自体が何度も変更されていることが多く、戸籍集めの手間が非常にかかります。
こうした、個人的な事情以外に、国レベルの大規模な戸籍の改修が、昭和(1948年)と平成(1994年)に行われており、これらの内容も、集める戸籍を増やす手間になっています。
そのため集める戸籍の数は、少ない方でも4~5通、多い場合は10通を超える場合もあります。ほとんどは戸籍をさかのぼって、それぞれの役所に連絡すれば郵送してもらうことができます。日本各地を飛び回らなくても済みますが、その分時間もかかります。また太平洋戦争当時に、空襲などにより戸籍が消失した役所もあり、その場合はその期間は証明できない旨の書面を当該の役所が発行します。
また相続権のある方が死亡しており、その子どもが相続する代襲相続の場合、死亡した相続人の戸籍集めが必要になります。これも被相続人同様、出生から死亡まですべての戸籍を集める必要があります。
報証明制度の活法定相続情用
こうした非常に手間のかかる相続手続きを解消してくれる制度が、2017年から始まった「法定相続情報証明制度」です。この制度は、集めた被相続人などの戸籍と相続関係を表示した説明図(法定相続情報一覧図)を、管轄の法務局に提出すれば、法務局が内容をチェックし、提出した一覧図を保管します。この確認済みの一覧図のコピーは、法務局が無料で何通でも配布してくれることになっています。
この確認済み一覧図のコピーは戸籍謄本と同様の効力をもつため。銀行や証券会社への提出用に利用できます。戸籍謄本を複数取得することなく、この一覧図のコピーがあれば、相続開始の手続きに入ることができます。今後は、出生から死亡までのすべての戸籍が、容易に入手できる仕組みの早期の構築が、強く望まれます。実際に法務省でも、戸籍の取得が容易にできるよう準備を進めています。
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。
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