同じ資料でも見える景色が変わるかも。ふるさと納税の集計結果の「影」の側面とは?
ファイナンシャルフィールド / 2022年10月18日 23時40分
![同じ資料でも見える景色が変わるかも。ふるさと納税の集計結果の「影」の側面とは?](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/financialfield/financialfield_164510_0-small.jpg)
「ふるさと納税」制度が始まったのは2008年4月で、14年半以上が経過しました。ここ8年くらいでの受入額や受入件数の急増ぶりが目立ち、急成長企業の業績に例えられることもあります。 しかし、ものごとには「光と影」がつきもの。今回は「影」のほうにフォーカスしてみましょう。
「ふるさと納税」のおさらい
まずは、この制度のおさらいです。ふるさと「納税」と呼ばれていますが実態は自治体への寄付で、寄付する自治体は任意で選べます。寄付すると、寄付額から2000円を差し引いた額が所得税や住民税から控除(特例控除)されます(控除額には上限があり、住民税額のおおむね2割程度といわれています)。
2015年4月から、控除上限の引き上げや確定申告不要なワンストップ特例(要件あり)を導入。2019年6月から、(1)寄付金の募集を適正に実施する、(2)返礼品は返礼割合(寄付金に対する返礼品等の調達に要する費用の割合)3割以下の地場産品とする、の両方の基準に適合している旨総務大臣から指定を受けた自治体だけが制度対象となりました。
所得等に応じた上限額内ならば、実質2000円の負担でグルメや名産の品などが手に入るおトク感もあって、金額や件数は【図表1】(※1)のように急増しています。
![](https://financial-field.com/wp/wp-content/uploads/2022/10/75e53d4448e1e2458319d198b7c42715-14.jpg)
「光」は、寄付が流入する自治体?
ふるさと納税の毎年度の集計結果の中で注目されやすいのが、受入額の多い自治体のランキングです。
かつては、返礼割合をどんどん高めたり、さらにギフト券を上乗せするなど、各自治体による過剰なサービス競争がありました。
その結果、ある年度のふるさと納税受入総額の1割近くを1つの自治体が占める。そんな事態もあったため、先述の総務大臣指定制度が導入されて過剰な競争が規制されたのです。
ちなみに、2021(令和3)年度の受入額上位の自治体は、【図表2】のとおりです(※1)。一定のルールのもとでたくさん寄付を集めたところ、つまり「光」の部分でしょうか。
![](https://financial-field.com/wp/wp-content/uploads/2022/10/b21aa6e7a5229bdbdbdb6524b66d20f0-8.jpg)
「影」は、どんなところ?
ふるさと納税をした人は、上限額内であれば2000円を除いて寄付額が所得税や住民税から控除(特例控除)されます。住民税では、その人の住む自治体の税収が減ることになります。
住民税(市区町村民税)の控除額、いわば“流失額”が多かった自治体。2021年度では、横浜市230億円、名古屋市143億円、大阪市123億円、川崎市102億円、世田谷区83億円(※1、億円未満を切り捨て表示)と大都市に集中しています。減収分の75%は地方交付税で国から補てんされますが、東京23区など地方交付税不交付団体には補償がありません。
補てんがあっても流失分の25%、補てんされない自治体では100%丸々。この金額が住民税としての本来の使い道に充てられないことになります。東京23区では2021年度で合計約531億円、区民税の5.3%あまりが流失しています(※2)。
もう1つ「影」かもしれないのが、ふるさと納税運営のための経費です。2021年度の集計結果を寄付額1万円で例えてみると、次のような内訳で使われています(※1)。
(1)返礼品の調達2730円、(2)返礼品の送付770円、(3)広報費用60円、(4)決済等費用220円、(5)事務等費用860円。
5項目の合計で4640円、つまり1万円寄付しても寄付先の自治体の“手取り”は5360円にとどまります。返礼品に直接関係しない(3)・(4)・(5)でも合計1140円。人員不足などのため、これらの業務の大半を専門業者、つまりふるさと納税のポータルサイト運営業者(多くは地元外)などに委託している自治体も少なくありません。
いくつかのブランドがすぐに思い浮かぶかもしれませんが、こうした企業のビジネスの場になっている側面もあるのです。上記で「1140円」と例えた金額、実際の総額は、950億円近くにものぼります。
まとめ
ふるさと納税は、自分の出身地など応援したい自治体に寄付をして支援する制度です。寄付した人は、税制上の控除や返礼品をもらえるなどのメリットも受けられます。
この制度は「ゼロサムゲームだから、トータルでは誰も損していない」、「税収の豊かな大都市部から地方へ、ほんの一部おカネを移し替えるだけだ」。こんなイメージを持つ人も少なくないでしょう。
しかし、寄付した人が住む自治体にとっては、本来の住民税収が落ち込み、国からの補てんがされないところもあります。その分、住民サービスの低下も懸念されます。
また、先述のように、広報や運営などの業務の大半が地元外の専門業者のビジネスとなっていて、その分が費用流出しています。この原資だって、もともと税金です。
ふるさと納税の集計結果は、見方によってはこのような「影」が浮かび上がってくる。そんな側面があることを意識しておくのも、時には必要かもしれません。
出典
(※1)総務省「ふるさと納税ポータルサイト」~「ふるさと納税に関する現況調査結果(令和4年度実施)」 (2、6、11、12の各ページを参照)
(※2)東京23区「特別区長会」~「不合理な税制改正等に対する特別区の主張」(令和3年度版)(11ページを参照)
執筆者:上野慎一
AFP認定者,宅地建物取引士
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