親子間の贈与 税務署のチェック厳しく注意が必要
ファイナンシャルフィールド / 2022年11月16日 3時20分
相続税対策や子どもに対する金銭援助を目的に、親子間の贈与はかなり行われています。贈与契約書を作り必要に応じて贈与税を支払っていればよいのですが、金額が多く、なおかつ無申告の贈与には、税務署の厳しい眼が光っています。
贈与税の仕組みを知っておく
贈与税は毎年単位(1月1日~12月31日までの期間)の基準で、贈与を受けた方が、その贈与財産の金額に応じて支払う税金です。控除額は110万円あり、それを超えた分については贈与税を支払う制度です。
ところが、親子間で贈与をしたにもかかわらず、評価額を低く見積もる、あるいは身内の財産移転は贈与税の対象にならない、など安易に考えてしまうケースもあります。
特に税務署から指摘されたケースをみると、多くの方が、贈与税の金額を過少申告したケースより、知っていたかどうかは別として、贈与税自体「無申告」のケースが非常に多く見られます。
中でも、親の名義だった不動産を子どもの名義に変更する、親の所有していた株式を子どもの名義に変更する、といった際に多く起こります。もちろん年間110万円以内であれば問題はありませんが、土地や住宅の贈与では、その範囲で収まるケースは、非常に少ないかもしれません。
贈与税の存在を理解していても、評価額を低く見積もることで、贈与税の申告は不要と考えることもあるようです。場合によっては、多少の金額であれば税務署もチェックをしないと考える油断もあるかもしれません。特に贈与税が無申告の場合は、それが発見されると、通常よりも税金が加算される「追徴課税」の対象とされますので注意が必要です。
不動産の贈与は正確に申告を
親子間の贈与となるため、どうしても財産の譲渡に関しては甘めの判断をしてしまいがちですが、実勢価格の大きくかけ離れた金額で譲渡すると問題になります。ここでいくつかのケースについて考えてみます。注意深く行わないと、税務署から厳しい指摘を受け、贈与税を支払うことになります。
例えば、親が所有している土地の一部を子どもが購入する場合です。親が子どもに対して「あまり資金に余裕がなさそうだ」と考え、非常に安い価格で売買契約を結び金銭の授受をしたとしても、その金額自体が問題になります。
その土地の路線価や実勢価格を、大きく下回る金額で取引を成立させた場合、その土地の路線価から推定される時価と、実際の土地の購入価格との差額に対して。贈与税が課税されます。いくら親子間で合意の上の取引だと主張しても、税務署は認められません。
さらに、この程度の取引なら問題ないと勝手に判断して、贈与した土地について、登記だけを行い贈与税の申告をしない場合も問題になります。その土地の路線価などから算出した評価額が、110万円を超えるようだと、税務当局から指摘を受け、110万円を超えた分については贈与税の納税が必要です。
また子どもが新規に土地や住宅を新規に購入すると、税務当局から「不動産購入に関するお尋ね」という通知が、数ヶ月以内に送られてきます。それに無回答だったり、回答内容に疑義があったりすると問題になります。「お尋ね」が送られてきた際は、必ず回答しましょう。
もし子どもがすべて自己資金で購入したと回答しても、不動産全体の購入価格が、子どもの自己資金とローンなどの借入金の合計を大きく上回っていると、親からの贈与があったと見なされ、上回った分に対して贈与税が課税されます。
親子が新規に2世帯住宅を購入して共有名義にする際にも、注意が必要です。親のほうが多くの資金を負担しているにもかかわらず、子どもの登記面積の割合が多いと、増やした面積について、贈与税が課税されます。
親子間の不動産の移転に関しては、売買であっても、贈与であっても、どうしても通常の取引価格よりも安く計算する傾向にあります。路線価などを参考に、正確な価格で計算することが大切です。
無申告だと税務署が追跡
不動産の贈与以外にも、親子間の取引を申告しないと、税務署から不備を指摘されます。親子間の取引だから税務署には見つからないだろう、とは考えないことです。
具体的な例としては、親が子どもを受取人として加入した保険の満期保険金を、子どもが受け取るケースです。保険会社にはデータが残っており、これを税務当局が把握しているため、無申告のまま過ごすことはできません。例えば、子が受け取る満期保険金は贈与となり、贈与税として申告する必要が出てきます。
また親名義で所有していた株式や投資信託などの金融資産を、子ども名義に書き換える場合なども、申告が必要です。評価額が110万円以下なら問題はありませんが、これを超えると贈与税が発生します。証券業界はマイナンバー制度が定着しており、税務署は株式移動の実態を把握していると考えておくべきでしょう。
贈与税を追徴されるケースは、申告内容に誤りがある場合よりも、無申告の場合が圧倒的に多いのです。ついつい身内同士だからと考え、安易に財産の移転をすることは要注意です。年間の非課税限度額は110万円であることを頭に入れ、それを超える贈与をする際は、申告を行うようにしたいものです。
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。
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