「年金が改定される仕組み」と「2022年現在の年金制度の問題点」を解説
ファイナンシャルフィールド / 2022年12月8日 22時40分
![「年金が改定される仕組み」と「2022年現在の年金制度の問題点」を解説](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/financialfield/financialfield_173750_0-small.jpg)
日本で年金に関するニュースが出ると、否定的に評価され国民からの反感を買っている例が散見されます。 年金に対する不信感があるのは、年金受給世代に必要以上に忖度(そんたく)して現役世代にしわ寄せがいくような制度を分かりづらい形で運用してきたことが、1つの理由として考えられるでしょう。 本記事では、年金が改定される仕組みや2022年時点での年金制度の問題点について解説します。
年金が改定される2つの仕組み
年金が改定される仕組みは、大きく分けて2つあります。
マクロ経済スライド
マクロ経済スライドは、物価や賃金の上昇時に、年金額の上昇を抑えることで年金財政の健全化を図る仕組みです。マクロ経済スライドは永続的な措置ではなく「財政検証において給付とバランスが取れるようになるまで」とされています。
賃金・物価スライド
賃金・物価スライドは、賃金や物価に応じて年金額を増減させる仕組みです。ただし、物価上昇率が賃金の上昇率を下回る「実質賃金がマイナス」である場合、2021年4月の制度改正施行前までは年金額の下落率は物価の下落分しか反映されない仕組みでした。
年金の改定における問題点
年金が改定される仕組みには、主に3つの問題点があります。2021年4月に施行した制度改正により解消した部分もありますが、これまで放置した年数分、現役世代がほとんど一方的に不公平な状況になってしまいました。
マクロ経済スライドはほとんど発動しなかった
マクロ経済スライドは、年金財政健全化のために2004年に導入されましたが、2022年までに発動したのはたったの3回にとどまっています。
2004年時点では、リーマンショックや東日本大震災が起きることなど想定できるはずもないため、ある程度仕方がない面もあります。とはいえ、年金財政を健全化させるための制度が物価や賃金の上昇(景気回復)頼みというのは、他力本願と言わざるをえません。
実質賃金がマイナスであるときの賃金・物価スライドが不適切だった
改正前までは、実質賃金がマイナスになっても物価の下落分しか年金額に反映されませんでした。特に問題があったのは、物価がプラスで賃金がマイナスになった場合です。現役世代は物価上昇と賃金下落で苦しい状況になっているにもかかわらず、年金受給世代の年金額は減額されなかったため、物価上昇分の影響しか受けないことになります。
この不都合は2021年4月に施行された制度改正によって是正され、実質賃金がマイナスになった場合は賃金にあわせて年金額が改定されることになりました。しかし、これまで一方的に不利な状況で年金保険料を支払ってきた現役世代に対する補填(ほてん)はほとんどないといってよい状況です。
景気回復頼みの制度だった
マクロ経済スライドと賃金・物価スライドをみると、どちらも「景気が良くなれば年金制度は維持できる」といった希望に委ねた制度だったことが読み取れます。年金受給世代からの反感を買うことによる政治的な影響を考慮した可能性もあるでしょう。
2022年の今だからこそいえる話ではありますが、万が一不景気が長期化した場合の対処は考えておくべきでした。年金について手放しで評価できるのは、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用ポートフォリオを大きく変更したことだけでしょう。
国民年金の納付免除に対する優遇措置にも疑問
年金財政が芳しくない状況の中で、国民年金保険料の免除制度や免除に対する優遇措置を継続している点にも問題があります。
国民年金保険料の免除制度は、所得が一定金額以下なら国民年金保険料の支払いが免除される仕組みです。「支払っていないのであれば受け取れないのでは」と考える人もいるかもしれません。しかし、実際には全額給付した人の年金額の半分は支給されます。
さらに問題があるのは、免除を受けるための条件が所得しかないことです。
極論ではありますが、仮に資産が1億円あったとしても、全て上場企業の株式かつ特定口座での保有であれば株式の配当金は確定申告不要です(上場株式の3%以上を保有している大口株主は除く)。本来なら国民年金保険料を払えるだけの資産や所得があるのに、確定申告の書面上は所得が0円となるため、国民年金保険料の免除を申請できます。
年金保険料を1円も払っていないのに年金は半分もらえるだけでなく、書面上の所得はないのに配当金までもらうという「合法的なタダ取り」が成立します。一方で、厚生年金保険料を毎月確実に徴収される大半の現役世代は、仮に生活が苦しかったとしても年金保険料の免除はできません。
そもそも年金保険料を支払っていないなら、現役時代に年金受給者を支えたとはいえないでしょう。厚生労働省が自ら「賦課方式は現役世代から年金受給世代への仕送りに近いイメージ」と言っておきながら、仕送りを1円もしていない人に年金を渡すのは自己矛盾ではないでしょうか。
公平感のある年金制度にするには根本的な見直しが必要
すでに、年金制度に対する国民の信頼は大きく揺らいでいます。本来なら免除制度があるにもかかわらず、国民年金保険料は5人に1人以上が未納である点をみても明らかでしょう。
GPIFの累積収益が100兆円を突破している点を見れば、決して年金も暗い話題ばかりではありません。しかし、これまでの年金制度改革で国民が抱いてきたのは「不公平感」と「不信感」であるのも事実です。
日本の年金制度の根幹にある賦課方式は、2022年現在の日本で起きている急速な少子高齢化がほとんど考慮されていません。小手先の修正ではなく、年金制度の根本的な見直しが求められる時期にきているのではないでしょうか。
出典
国家公務員共済組合連合会 マクロ経済スライドとはどういうものですか。
厚生労働省 令和4年度の年金額改定についてお知らせします
厚生労働省 令和4年版厚生労働白書 資料編
厚生労働省 平成29年版 厚生労働白書 図表5-1-4 賃金・物価スライドの見直し(2021年4月施行)
厚生労働省 [年金制度の仕組みと考え方] 第7 マクロ経済スライドによる給付水準調整期間
日本年金機構 年金額はどのようなルールで改定されるのですか。
執筆者:北川真大
2級ファイナンシャルプランニング技能士・証券外務員一種
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