増える「空き家」の相続 維持コストも高く対策が急務
ファイナンシャルフィールド / 2022年12月13日 12時30分
日本では人口減少が定着しつつある中、住宅の戸数は増え続けています。それに伴い急速に増えているのが「空き家」です。特に地方では、子どもが都会へ出て行ったあと、残された親が亡くなると、住む人がいなくなり空き家となるケースが多く見られます。最近では、地方に限らず大都市周辺でも増えてきました。
空き家はなぜ増え続けるのか
日本では圧倒的に木造家屋が多いため、耐用年数も50年ほどです。欧州のように耐久性の高い住宅はごく少数です。住宅建設は重要な景気対策のひとつの柱と考えられてきたため、多くの住宅がつくり過ぎており、築30~40年の住宅でも建て替えられることが多く見られます。子どもが成長するにつれ、親とは同居せずに、独立して新しい家をつくることも一般的に行われてきました。
空き家を相続する方の多くは、親が住んでいた家を親が亡くなった時点で相続したものです。本来は誰か代わりに住む人が見つかればよいのですが、地方で交通が不便、老朽化が激しい、などの理由で放置してしまうケースがあります。
住む人も見つからず、さりとて「親との思いでもあり、壊すのが惜しい」「解体の費用が意外と高い」などの理由で、取りあえず相続して、何もしていない状態の空き家が見受けられます。さらに子どものいない高齢者が住んでいる住宅の場合、自立が困難で施設に入居した、住人が亡くなったなどが原因で、相続人がいない状態で放置され、行政が苦慮するケースさえあります。
どのくらい空き家があるのか
現在の日本ではどのくらい空き家があるのでしょうか。総務省の資料などによると、現在800万戸を超える住宅が空き家となっていると推定され、家屋全体の15%を超えており、年々増加しています。
また空き家を保有した方の60%以上が「相続」を理由としており、建て替えにより旧宅が空き家になった、住み替えに適した物件を購入したため旧宅が空き家になった、という方の数よりも多くなっています。
空き家が増える要因のもうひとつが、高齢者の持ち家比率が極めて高いことです。例えば65歳以上の夫婦2人世帯では、何と90%以上の方が持ち家を所有しています。老夫婦が亡くなると、空き家になる確率が高いのです。
高齢者の場合は賃貸住宅を借りにくい、という事情もあるかもしれませんが、高齢者世帯の構成員が多いと、自動的に空き家となる確率が高くなってしまうのです。同時に、高齢者が長く住んでいた住宅は、老朽化も進んでいることが多く、住み続けるにはかなりの改修費が必要になります。
また親が存命でも、認知症や心身の衰えにより、施設に入居した結果、空き家状態となっている場合も同様の対応が求められます。解体がしにくいなどの事情によりコストがかかるかもしれません。
空き家維持にかかるコスト
空き家を所有しているとさまざまなコストが掛かります。「すぐに解体・処分しておけばよかった」と後悔される方もいらっしゃると思います。
まず「固定資産税」がかかります。戸建て住宅の場合は住宅本体と土地が対象になります。マンションの場合は、所有スペースとそれに対応した区分所有の土地に対して固定資産税がかかります。
地方に居住していた場合の土地の評価額は、比較的低く抑えられていますが、東京などの大都市では、土地の評価額が高くなるため、かなりの金額の固定資産税を納める必要があります。
次にかかるのが保全のための費用です。マンションの場合はこれまで支払ってきた「管理費」や「修繕積立金」を支払い続ける必要があります。特に老朽化が進んでいるマンションでは、修繕積立金の額も高くなる傾向です。
戸建て住宅の場合は、樹木の剪定(せんてい)や雑草の駆除は欠かせません。怠ると近所とのトラブルになりかねません。さらに、どちらについても清掃や片づけを円滑に進めるため、水道と電気を解約してしまうと、困る事態がおきかねないため、これらもコストになります。
さらに火災保険料も必要になるかもしれません。他人が侵入して火を使ったために、火事になっては大変です。危険を織り込み加入をしていたほうが安心です。
このように、当初は「多少の期間だから」と考え空き家を相続したとしても、それが5年以上続くとなると、その費用負担も重くなります。その時点で解体をしようとしても、通常は200万円程度の支出は覚悟しなければなりません。解体も決断できずに、そのまま所有し続けることになるかもしれません。
空き家の相続を避けるには
相続をした後で「困った」と言わないためには対応策が必要です。高齢の両親だけで居住している場合は、子どもたちが空き家になった際の対応を、事前に決めておく必要があります。誰かひとりでも、両親宅を空き家にすることなく済み続ける子どもがいれば、その人に相続してもらうのがベストな選択です。
誰も相続を希望せず空き家になることがはっきりした場合は、「取りあえず誰かが相続」「思い出があるので何とか残す」という選択は取らないことをお勧めします。思い切った売却を検討するのが最善です。特に空き家となってから決めるのでは遅いので、高齢の両親が健在のときから決めておくと安心です。
また最近では、認知機能の低下が進むなどして、高齢者施設への入居を機に、空き家になるケースもあると思います。健康上の理由で元の自宅に戻ることが難しい場合は、帰宅を前提としない対応策を選択しましょう。認知症などが考えられるときは、早めに「家族信託」制度を活用し、子どもたちで住宅の売却ができるようにしておくことも重要です。
出典
総務省行政評価局 空き家対策に関する実態調査 結果報告書(平成31年1月)
国土交通省 令和元年空き家所有者実態調査 集計結果(令和2年12月16日 住宅局住宅政策課)
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。
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