いよいよNISAが恒久化される? その1
ファイナンシャルフィールド / 2022年12月18日 12時10分
2022年9月22日、岸田首相がニューヨーク証券取引所で講演を行い、「NISAの恒久化が必須だ」と述べました。これは、岸田政権が目玉政策として掲げる「資産所得倍増プラン」の柱の1つであるNISA(個人向け少額非課税投資制度)の恒久化と、制度の拡充を実行する決意を示したものと解釈されます。 NISAは、英国のISA(個人貯蓄口座)をモデルに制度設計されたものですが、本家のISAに比べると非課税期間の恒久化だけでなく、非課税投資枠の規模、運用の自由度の点でも見劣りしていたので、それらを修正して英国ISAに少しでも近づく方向に動けば、国民の資産所得の増加に寄与することになると思います。 なお、日本のNISAと英国ISAの違いについては、筆者による2019年6月の記事「本場英国と比べると物足りない?日本のNISA、これでいいの?」で説明しているので、詳しくはそちらを参照していただければと思います。
現状のNISAの問題点
現状のNISAの問題点としては、以下の3点が挙げられます。
1. 非課税措置には期限があり、期限が到来すると課税されてしまうので、生涯をかけた資産形成の手段としては問題があること
2. 資産所得倍増という観点から見ると年間投資枠の規模が小さいこと
3. 制度が複雑で分かりにくく、運用もしづらいこと
それぞれの内容について、以下で簡単に説明していきます。
非課税措置には期限があり、期限が到来すると課税されてしまうので、生涯をかけた資産形成の手段としては問題があること
一般NISAの投資可能期間は2028年まで、つみたてNISAの投資可能期間は2042年までで、それ以降は新規投資ができません。
誤解がないように説明すると、2028年に一般NISAの新規口座を開設して投資を始めた場合、その後の5年間は投資額を非課税で保有することが可能です。また、2042年につみたてNISAに新規で投資を開始した場合は、そこから20年間は投資額を非課税で保有できます。
利用者から見ると、人生のどのタイミングからでも非課税で投資ができるわけではないので、生涯を通した資産形成の手段としては問題がありました。
2028年までしか投資ができない一般NISAは、一時的な制度ということは明らかですが、20年間の投資が可能なつみたてNISAにしても、現時点(2022年)で20歳の方が投資を開始すると運用期間は最長で40歳までとなり、例えば住宅資金のための投資はできても、老後資金を用意するための投資には適していないことになります。
積立貯蓄は本来、長期的な視野で行うものであり、「貯蓄から投資へ」と政府が言うのであれば、利用者の生涯をかけた資産形成に寄与するものにする必要がありました。
その点から見ても今回の岸田首相の発言は、NISAで最も制度改正が必要である「恒久化」というポイントを押さえているので評価できると思います。
資産所得倍増という観点から見ると年間投資枠の規模が小さいこと
現在のNISAでの年間非課税投資枠は、一般NISAは120万円、つみたてNISAでは40万円で、両方の併用はできないのでどちらかを選ぶ必要があります。
長期的な投資を支援するつみたてNISAは2018年に創設され、2042年まで投資が可能ですが、非課税投資枠は最大で800万円なので、限度額まで投資したとしても、総投資額は「40万円×20年=800万円」にしかなりません。
住宅購入資金が少なくとも3000万円~4000万円はかかる現状から考えると、総額800万円の投資額は、生涯を通じた資産形成というには小さいと言わざるを得ません。
制度が複雑で分かりにくく、運用もしづらいこと
現行のNISAは時限措置であるため、さまざまな制約を受けるほか、制度としても分かりにくく、また運用もしづらいものになっています。
例えば、一般NISAの非課税期間は5年ですが、換金せずに非課税で5年を超えて同じ商品を保持したければ、5年後の非課税枠を使ってロールオーバーを行い、非課税期間をさらに5年延長するしかありません。それを行うためには、まず資産の移行など複雑な制度の内容を理解し、かつ、期限までの手続きも必要です。
また、2024年から始まる「新NISA」は、つみたてNISAと一般NISAの特徴を組み合わせた2階建ての方式となり、非課税対象が現行のつみたてNISAと同様になる1階部分の年間非課税投資枠20万円を先に使わないと、一般NISAに該当する2階部分の102万円の非課税投資枠を使えないルールになっています。
このような複雑な制度構造は、節税枠を管理するには有用かもしれませんが、利用者は容易に理解できず、投資を促す掛け声とは裏腹に利用者と遠ざけてしまうものとなっています。
まとめ
「その1」では、岸田首相によるNISA恒久化の表明と、現状のNISAの問題点について説明しました。
次回「その2」では、NISAは今後どのように改善されるのか、金融庁や日本証券業協会の要望に基づいて解説したいと思います。
執筆者:浦上登
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー
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