親の年金は「家族信託」の対象にできる? 年金の活用方法を解説
ファイナンシャルフィールド / 2023年1月14日 12時0分
認知症や寝たきりなどによって自身の財産が管理できなくなる事態に備えられる方法として、「家族信託」があります。信託の内容は当事者で話し合って自由に設定できるため、柔軟性が高い点が大きな魅力の家族信託ですが、中には信託できない財産もある点に注意しなければなりません。年金もそのうちの1つです。
家族信託とは
家族信託とは、認知症や寝たきりになることによって自身で財産の管理ができなくなった時に備えて、家族に財産を管理する権利を託す制度です。
家族信託では、財産を託す「委託者」、財産の管理を託される「受託者」、財産から生まれる利益を受け取る「受益者」の3者を取り決めますが、制度の目的からも、親が委託者兼受益者、子を受託者とする家族信託が一般的となっています。
例えば、銀行は口座名義人の認知症を把握した場合、トラブルを防止するために口座を凍結することがあります。凍結された口座は、いくら子であっても引き出すことはできないため、生活費などの工面に困ることになりかねません。そこで事前に親の口座を子へ家族信託しておくのです。すると万が一、親が認知症になった場合でも子が親の口座を引き続き管理し続けることができます。
家族信託は、「自宅と口座Aを信託する」など信託内容を当事者の意思によって自由に設計することができる点が最大のメリットとなっています。
年金は家族信託できない
年金を受け取る権利のことを「年金受給権」といい、親の年金を家族信託したい場合には、親が持つ「年金受給権」を信託財産にできるのかどうかという話になります。
しかし、年金受給権は本人にのみ認められた権利(一身専属権という)であり、他人に譲り渡すことはできないことが、「厚生年金保険法第41条」と「国民年金法第24条」に定められています。
つまり、年金を受け取ることができるのは年金受給者本人のみであり、受給者本人の名義の振込口座でしか受け取れません。たとえ子であっても親の年金受給権を持ち、年金振込先を子名義の口座に変えて受け取るなどということはできないということです。よって、年金は家族信託の対象にできません。
振り込まれた後の年金を活用しましょう
もしも親が認知症や寝たきりになり、親名義の口座に振り込まれた年金を、子が親の生活費や老人ホーム費用などに充てたい場合、活用することができません。年金は家族信託の対象にできませんが、振り込まれた後の年金であれば信託財産にすることができる点を生かして対策しましょう。
信託口口座に自動送金する
信託口口座(しんたくぐちこうざ)とは、受託者(子)が委託者(親)から信託された金銭を管理するための口座です。信託口口座には受託者の名義が付いているため、年金の振込先に指定することはできませんが、年金が振込口座に入金されたら、銀行の自動送金を利用して信託口口座へ移動させることで、実質的には信託口口座に年金が振り込まれるのと同様の効果を得ることができます。
なおこの場合には、自動送金による金銭も追加で信託財産になる旨を信託内容に含めておくようにします。
年金振込口座から固定費を引き落とす
家族信託での対応ではないですが、生活費や老人ホーム費用などの引き落としを年金振込口座から行うように設定しておくことも効果的です。定期的に残高を確認し、不足しそうであれば信託口口座の金銭で補填(ほてん)しましょう。親が生存している限り年金は振り込まれるので、効率よく年金を使用することができます。
家族信託は専門家への相談必須
家族信託は柔軟性がメリットですが、幅広い知識が必要になるということでもあります。家族信託は信託内容に沿って進んでいくことから、そこに欠陥があるとさまざまなトラブルの原因となる可能性があり、家族のために始めた家族信託で家族の仲を壊すことになりかねません。独断は禁物です。家族信託を利用する際には、必ず弁護士などの専門家に相談して入念な計画を練りましょう。
また、専門家選びの際は家族信託の経験が豊富な先をおすすめします。「近所だから」、「ネットにのっていたから」と安易に決めるのではなく、複数の専門家に実際に会ってから決めるのがよいでしょう。
まとめ
親の年金は家族信託の対象にすることができません。しかし、振り込まれた後の年金を活用することで、実質的に家族信託と同様の効果を得ることはできます。家族信託は非常に複雑な制度であり、専門的知識が必要となることから、検討の際には家族信託に精通している弁護士などの専門家へ相談することをおすすめします。
出典
一般社団法人家継支援協会 家族信託とは(制度の概要や仕組みについて)
e-Gov法令検索 厚生年金保険法
e-Gov法令検索 国民年金法
執筆者:佐々木咲
2級FP技能士
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