物価高が続くと年金受給額はどうなる?
ファイナンシャルフィールド / 2023年2月23日 2時10分
![物価高が続くと年金受給額はどうなる?](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/financialfield/financialfield_188440_0-small.jpg)
2022年後半から、物価上昇の傾向がはっきり見えてきました。現役で給料としての収入がある人の場合、一時的に物価上昇手当を加算する企業もあり、多くの企業では今年の4月からの給与改定時に昇給が行われるようです。 一方、全国民の相当数を占める年金生活者の場合はどうなるのでしょうか。今回は物価上昇と年金生活者の物価上昇への対応について学んでみましょう。
年金と賃金(物価)の関係
年金額の改定(スライド)は、1973年以降何回かのルール改定があった後、2000年からは賃金(物価)変動率にスライドすることになっていました(※1)。
その後、2004年の年金の改正において、賃金物価スライドに加えて、現役世代の過重な負担を軽減するために給付を調整(抑制)する「マクロ経済スライド」が導入されました。
したがって、現在は物価が上昇した場合も、年金額は物価上昇に見合うスライドが行われなくなっています。
マクロ経済スライドとは
マクロ経済スライドとは、「少子高齢化を見据えて、現役世代の過重な負担を回避し、年金制度の長期的な持続可能性と国民の信頼を確保するため、保険料の上限を固定し、長期的に給付を調整する」ものとされています(※1)。
具体的な調整率は、「平均余命の伸び」と「労働人口の減少」に対応して算出されていますが、その計算過程は一般の年金加入者や受給者には難しいものと思われます。
限られた年金給付財源の中で給付を継続するためには、給付水準を下げざるを得ないというのが実状でしょう。
過去に適用されたマクロ経済スライド
過去に適用されたマクロ経済スライド調整率を見てみましょう。
表は筆者が作成
日本では30年近い期間、物価・賃金が上昇しない異例の状態が続いていましたので、マクロ経済スライドがスタートした2004年以降に実際に適用されたマクロ経済スライドは3回で1.5%となっています。
また、賃金下落に対してのマイナススライドは、当初は年金を減額スライドする代わりに繰り越し(キャリーオーバー)で賃金増の際に充当していました(2019年度)が、2021年度からはマイナススライドを行っています。2022年度はマイナス0.4%の減額スライドでした。
物価上昇(インフレ)局面でのマクロ経済スライドの影響
物価は上昇しないという状態に慣れていた日本人にとって、特に年金生活者には今後の物価上昇とマクロ経済スライドは大きな影響がありそうです。
適度な(2%程度)物価上昇がなければ経済成長もないということは、海外諸国の例を見た場合にもはっきりしてきているようですので、成長のためには物価上昇はある程度受け入れざるを得ない状況かと思われます。
仮に、10年間、物価が毎年1.5%上昇して、年金がマクロ経済スライドで0.8%調整された場合どうなるのでしょうか。
無職の2人世帯の月消費支出額22.9万円、2人世帯の公的年金額19.2万円(※2)を当てはめると以下のようになります。
月間消費支出と年金額の差額は、現在3.7万円、年間差額は44.4万円です。この差額は、その他の収入や貯蓄の取り崩しでまかなっていることになっています。
毎年1.5%の物価上昇に対して0.8%のマクロ経済調整率が適用された場合は、10年後の年間差額は現在の44.4万円から71.9万円に拡大し、10年間の差額拡大合計では146.6万円になります。20年間ではさらに多額の差額が出ることが単純な計算では予測されます。
このように公的年金に対しての消費支出の不足額は拡大しますが、老後資金を計算する際には、物価上昇と年金のマクロ経済スライドは織り込まれていないことが多いと思われます。
まとめ
インフレ期に入ったと思われる日本で年金を柱にして老後生活を過ごす場合、年金は将来漠然と減るという意識はあっても、備えは人それぞれです。「マクロ経済スライド」という分かりにくいしくみで年金受給額を減額されることに対して、防護策を考える時期が来たようです。
出典
(※1)厚生労働省 年金額の改定ルールとマクロ経済スライドについて P1、9
(※2)総務省 家計調査 二人以上世帯 2021年 無職 1-1
執筆者:植田英三郎
ファイナンシャルプランナー CFP
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