割増賃金率が引き上げられる!? 中小企業にも待ったなし! 【2023年4月改正】
ファイナンシャルフィールド / 2023年3月22日 4時10分
![割増賃金率が引き上げられる!? 中小企業にも待ったなし! 【2023年4月改正】](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/financialfield/financialfield_193530_0-small.jpg)
「働き方改革」という言葉を、少しは耳慣れてきたという方も多いかもしれません。 これまで実施された有給休暇の付与や同一労働同一賃金などは、労働者にとっては歓迎される内容ですが、雇用している企業にとっては、就業規則の改正が必要だったり、給与体系を見直したりと、担当者にとって、ここ数年は対応を迫られることの連続だったでしょう。 そんな中、2023年4月、会社にとっても労働者にとっても重要な改正があります。今回はその改正内容をご紹介します。
中小企業にも適用される? 時間外手当の割増率の倍増!
60時間を超える時間外労働に対して50%になるという割増率については、すでに大企業には適用されています。ところが、これまで猶予されていた中小企業についても、2023年4月から適用されることになります。
これまで猶予されていた中小企業は図表1の範囲ですが、2023年4月以降は、すべての中小企業に対しても、60時間を超える時間外労働についての割増率は「25%から50%」になります。猶予でなくなり、努力義務でもなく、必ず適用しなければならないのです。まだまだ先のことだと思っていた猶予期間が終了します。
【図表1】
業種 | (1) 資本金の額または出資の総額 | (2) 常時使用する労働者数 |
---|---|---|
小売業 | 5000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
上記以外のその他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
※中小企業に該当するかは、(1)または(2)を満たすかどうかで企業単位で判断されます。
出典:厚生労働省「2023年4月1日から月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます」(※)
ひょっとして、小さな会社の中には「うちには時間外労働時間がないから、残業手当なんて支払われないよ」と労働者に言ってしまっているケースもあるかもしれませんが、時間外手当を支払わなければ、労働基準法違反として罰則があります。
万が一、労働基準監督署の立ち入り調査で出勤簿や賃金台帳を確認されれば、時間外手当の未払いは指摘事項とされるでしょう。最悪の場合には、さかのぼっての支払いとなる可能性もあります。
賃金請求の遡及については、2020年に時効が2年から5年(当分の間は3年)とされていますので、金額が跳ね上がるだけでなく、それに伴って、社会保険料や労働保険料など、賃金の増加に伴う諸手続きが増え、さらに保険料の増額も予想されます。
「うちの会社に残業代はない」「就業規則もないから適用されない」と言ってはいけない
時間外手当の割増率は、就業規則に必ず入れる必要がある事項ですので、今回の改正に伴って、以下のような記載を入れて、就業規則を改定する必要があります。
時間外労働に対する割増賃金は、次の割増賃金率に基づき、次項の計算方法により支給する。 (1)1ヶ月の時間外労働の時間数に応じた割増賃金率は、次のとおりとする。この場合の1ヶ月は、毎月1日を起算日とする。
1. 時間外労働60時間以下…25%
2. 時間外労働60時間超…50% (以下、略)
出典:厚生労働省「2023年4月1日から月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます」(※)
10人未満の労働者しかいない小規模な会社で、就業規則を届け出していなかったとしても、時間外労働が60時間を超えると50%の割増率が適用されるのが、今回の法改正です。
就業規則がないから、簡単に「関係ない」と労働者に言ってはいけないのだと、くれぐれも留意しておきましょう。
改正点についてしっかりと理解することが、残業代の節約につながる
前項の就業規則の記載例から、単純に「所定労働時間を超えた時間数が60時間を超えれば、50%支払われなければならない」と思ってしまった方もいるのではないでしょうか?
ここで、50%の割増率となる「60時間超」について、正しく理解しておきましょう。
まず、この60時間の算定には、「法定休日」に行った労働時間は含まれません。労働基準法は、労働時間の限度を、原則として1週40時間以内、かつ、1日8時間以内とし、休日を1週に1日以上与えることとしています。
週休2日制で、土日休日などと決められているケースでは、土日のどちらが「法定休日」なのかはあまり意識をしないのではないでしょうか?
このような場合に、土曜日を「法定休日」としている場合、土曜日に労働すると、土曜日に対しては「休日労働」とみなされます。そして、法定休日に労働した場合の割増率である「35%」が適用されるのです。
もう1点覚えていただきたいのは、60時間を超えた時間外労働を行った労働者の健康を確保するため、引き上げ分の割増賃金の支払いの代わりに、有給休暇として、代替休暇を付与することが可能です。
今はネットでさまざまな情報を入手できます。
例えば、タイトルに「50%の時間外手当が請求できる!」など、衝撃的なタイトルがつけられれば、ネットニュースなどでも目につきやすくなります。詳細な内容を見ずに、「倍になった残業手当を請求します」と申し出てくる労働者の方もいるかもしれません。
そんなときでも企業側は慌てず対応できるよう、今回の法改正を正しく理解しておきたいものです。
出典
(※)厚生労働省 2023年4月1日から月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます
執筆者:當舎緑
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。
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