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定年前に考えておこう! 認知症を患ったときのお金の管理法

ファイナンシャルフィールド / 2023年4月1日 10時30分

定年前に考えておこう! 認知症を患ったときのお金の管理法

そろそろ定年…セカンドライフが楽しみな反面、年齢を重ねると心配になることのひとつに認知症などの病気が挙げられます。認知症を患うと、お金の管理や相続などがご自身でできなくなる可能性があります。下記の相談例から、定年前に認知症を患った際のお金の管理方法を考えておきましょう。   Aさんは妻と2人暮らしで子どもがいません。定年を迎えるにあたり、どのような準備をすればよいかご相談に来られました。自宅はマンションの持ち家で、ローンも払い終わっています。預貯金も老後資金としてはそれなりにあります。   現在は夫婦とも健康ですが、将来認知症になってしまったら、金銭面でどのような問題が起こるのか、その前に何ができるのかという相談に来られました。

認知症になったときの日々の問題

認知症の初期の段階では、物忘れが多くなることや探し物が多くなる程度で、普段の生活にはあまり支障がありませんが、病状が進行してくると、日常生活にも多くの問題が出てきます。
 

<介護費用>

家族だけでは介護が難しくなってくると、介護サービスの支援が必要になります。徘徊(はいかい)が始まると自宅での介護は限界となり、グループホームなどの介護施設への入所を検討することになります。
 
「最後まで自宅で暮らしたい」と、多くの人が思います。家族もできるだけ自宅で一緒に暮らしたいと頑張りますが、夫婦での老々介護には限界があります。介護している側が完全に疲弊してしまう前に、さまざまな介護サービスを上手に利用しましょう。
 
■対策
介護サービスもピンからキリまでありますので、サービスの内容と費用を確認しておきましょう。年金と手持ちの資金で、期待する介護サービスの費用をまかなうことができるか試算し、不足する場合は利用する介護サービスの見直しや、現在の家計の見直しが必要になります。
 

<預貯金の管理>

初期の認知症の典型的なパターンとして、お金や通帳など大切なものが変なところからみつかることがあります。
 
私たちも大事なものを大切にしまいすぎて、みつからないことがたまにありますが、認知症になると、大事なものを取られないように隠そうとする傾向があります。そのため、とんでもないところからお金や財布などがみつかる場合があります。
 
通帳やカードがみつからず、本人が銀行に行って再発行することもあります。銀行も本人が申請しているので断ることもできません。自宅で使いかけの通帳が何冊もみつかるようになると、認知症が疑われます。
 
■対策
認知症になる前であれば、後述の民事信託や任意後見制度の利用が考えられます。もし認知症が進んでしまうと、本人によるお金や預貯金の管理は難しくなります。本人が認知症であることをどこまで理解できているかにもよりますが、その人の症状に合わせた対策が必要になります。どのような対応が可能か、預金口座のある金融機関に相談しましょう(※1)。
 

認知症になったときの法的な問題点

認知症になると、法的な契約ができなくなり、図表1のように老後の暮らしにさまざまな問題が生じます。
 
図表1:認知症発症後の主要な問題と対策一覧


 
ほとんどの問題は、認知症を発症する前に契約書などを作成することが必要です。以下、順番に問題とその対策をご説明します。
 

1.遺言書が作成できない

認知症と診断された日以降に作成された遺言書は無効です。認知症になると正常な判断ができなくなるため、相続人の誰かが自分に有利な内容を書くように指示した疑いが生じます。特に自筆証書遺言の場合は、相続争いの原因にもなります。
 
■対策
認知症と診断される前に遺言書を作成しておきましょう。将来状況が変わった場合は、そのときに書き換えましょう。
 
Aさん夫婦は、お互いの両親はすでに他界しています。義理の兄弟姉妹と相続争いにならないよう、お互いに「すべての財産を相手に相続させる」という遺言書を作成しておくこと。自筆証書遺言で作成する場合は、法務局の保管制度を利用するようお勧めしました。
 

2.遺産分割協議ができない

案外見落としがちなのが、相続人の誰かが認知症の場合の遺産分割協議です。遺言書がない場合は、遺産分割協議が必要になりますが、相続人の誰かが認知症の場合、遺産分割協議が難しくなります。
 
特に遺産分割で遺族がもめそうな場合は問題です。遺産分割も相続人同士の契約になりますので、認知症の相続人がいると、その人の代理人を立てて遺産分割協議を行います。代理人には、すでに成年後見を利用している場合は成年後見人を、後見制度を利用していない場合は、家庭裁判所に遺産分割協議のために特別代理人を選任してもらいます。どちらも遺産分割協議に第三者が参加することになります。
 
■対策
相続人となる家族(推定相続人)に認知症の人がいる場合は、残される家族のためにも、健康なときに遺言書を作成しておきましょう。
 

3.自宅の売却ができない

不動産の所有者が認知症になると、本人が亡くなるまで処分することが難しくなります。夫婦2人暮らしの場合、2人とも介護施設に入ると自宅は空き家になってしまいます。その間、固定資産税やマンションの管理費等を払い続ける必要があります。
 
■対策
認知症を発症する前であれば、この後で説明する民事信託を利用して受託者(注1)に自宅を管理してもらうことができます。信託契約で自宅の売却処分も含めた契約書を作成しておけば、受託者は契約内容に従い、その不動産を売却することも可能になります。
 
(注1:民事信託で財産管理を依頼する人を委託者、請け負う人を受託者といいます)
 

4.民事信託制度が利用できない

民事信託は最初に信託契約を作成しますが、認知症発症後は作成できません。
 
■対策
認知症発症の前に、民事信託契約を公正証書で作成しておきましょう。
 
ただし、Aさんの場合は子どもがいないため、受託者を誰にするかが問題となります。年齢を考慮すると、兄弟姉妹より若い世代の甥・姪が有力な候補(注2)となりますが、引き受けてくれるでしょうか。また、自分たちの老後の財産管理をお願いできるほど、信頼できるかも微妙なところかもしれません。
 
民事信託が難しい場合は、金融機関が提供している信託サービス(商事信託)の検討が必要となります。こちらも、認知症発症前に契約が必要です。
 
(注2:受託者は友人知人でも可能)
 

5.任意後見制度が利用できない

成年後見人制度には大きく任意後見、法定後見の2種類があります。任意後見は認知症を発症する前に、その内容を公正証書で作成し後見登記簿に登記する必要があります(※2、※3)
 
■対策
認知症発症の前に、任意後見契約を作成し登記しておきましょう。
 
ただし、Aさんの場合は、民事信託と同じように信頼できる任意後見人を探すのが難しそうです。任意後見制度の利用が難しい場合は、認知症発症後に法定後見制度を利用することになります。
 

まとめ

認知症は徐々に進行しますので、家族が身近に暮らしている場合は、初期の段階で認知症に気が付きやすいです。少しでもおかしいと感じたら、早めに家族で話し合いましょう。
 
自分はまだ大丈夫と思っていても、元気な今だからこそ有効な対策を打つことができます。家族のためでもあり、自分のためでもあります。
 

出典

(※1)一般社団法人全国銀行協会 預金者ご本人の意思確認ができない場合における預金の引出しに関するご案内資料の作成について
(※2)厚生労働省 成年後見はやわかり 任意後見制度とは(手続の流れ、費用)
(※3)日本公証人連合会 2 任意後見契約
 
執筆者:植田周司
CFP(R)認定者、一級ファイナンシャルプラン二ング技能士、円満相続遺言支援士(R)
 

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