【売るときに、取られる場合がある】投資信託の「信託財産留保額」って何?
ファイナンシャルフィールド / 2023年4月5日 8時30分
投資信託は、自分で株式や債券を個別に運用するよりも手間がかからない。そんな資金運用のやり方の1つです。手間がかからない代わりに、「買う」・「持つ」・「売る」のそれぞれの段階で費用を負担するケースが多くなります。 「売る」場合に登場するかもしれないのが「信託財産留保額」です。あまり聞きなれない感じもしますが、一体どんなものなのでしょうか。
「信託財産留保額」があるとどうなるの?
株式が「株価」をもとに売買されるように、投資信託は「基準価額」で取引きされます。株価は市場が開いているときに刻々と変動しますが、基準価額は1日に1つだけ。投資信託が組み入れている株式や債券の時価評価をもとに算出されます。
基準価額は1万口当たりの金額になっています。例えば、基準価額3000円の投資信託を250万口持っていて全部売却すると、[3000円/1万口×250万口=75万円]を手にできます。
ここで、もしも「信託財産留保額」として[0.3%]を設定している投資信託だったらどうなるのか。上記の事例から0.3%分、つまり手取り額が2250円目減りすることになります。
株式を売却する場合と違って、投資信託では「売却手数料」はかからないはず。こんな先入観をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、投資信託によってはこんな形で費用負担しなければなりません。購入前に交付される「目論見書」(細かい数字や文字がたくさん羅列されている)の片すみにそのことが記載されていますが、じっくり確認していないケースだって少なくないでしょう。
そもそも「信託財産留保額」とは?
投資信託協会のホームページには、次のように解説されています(※1)。
信託期間の途中に投資信託を換金した場合に徴収する金額のこと。ある受益者が換金する際に必要な事務手数料を賄うという意味合いがある。信託財産留保金を徴収しなければ、これらの手数料は残存する受益者が負担することになるので不公平が生じることから、これを回避するために徴収される。
投資信託を持っている人が売却(換金)したいとき、その投資信託に組み込まれている株式や債券を一部売却して資金化しなければなりません。手数料がかかったり、価格低迷しているタイミングならば売却損が発生したりします。
こうした費用(ロス)を、引き続き投資信託を保有する人たちだけが負担するのは不公平だから、売却する人に負担してもらおう。いい方は悪いですが、「売って退場する」人に対する一種のペナルティー。そんな見方ができるかもしれません。
投資信託は、持っている間も運用管理費用(信託報酬)などがかかります。先述の基準価額がその分下落する形なので負担している実感はありませんが、取られ続けます。この信託報酬などの中で処理してしまい、信託財産留保額という形では負担させない。そんな投資信託のほうが、実態としては多いのではないでしょうか。
まとめ
繰り返しになりますが、投資信託は、「買う」・「持つ」・「売る」のそれぞれの段階で費用を負担することになるケースが多くなります。
「買う」ときの販売手数料は、ノーロード(かからない)の投資信託も結構あります。また、販売者(証券会社や銀行)によって無料や低額にしているところも、探せばかなりあります。
「持つ」ときの運用管理費用(信託報酬)などの料率は、証券会社や銀行の商品説明で個別の投資信託ごとにはっきりと表示されています。その率の高低も、銘柄選びの判断材料になるでしょう。
ちなみに、信託報酬などの率が高いほど運用成績が高いとは限りません。インデックスファンドは、日経平均などある投資指数に連動して運用する。つまり、投資戦略を個別に調査・策定するための手間や人手がかからないため、信託報酬率を低めに設定できる投資信託です。こちらのほうが、(類似した戦略で)信託報酬率が高い投資信託よりも運用成績がよかった。そんなケースだって、たくさんあると思います。
そして「売る」とき。信託財産留保額の存在をあらかじめ意識せずに売却時の手取り額が目減りしてしまうと、決して気分のよいものではないでしょう。
日本の公募投資信託の全体ボリュームは、2023年1月末で5888本・純資産総額163兆1300億円超です(※2)。5900本近くだからいろいろなものがあるでしょうが、「買う」・「持つ」・「売る」のそれぞれの段階で費用負担がどうなるのか。それを事前に十分チェックしておくことは、とても大切なことだと思われます。
出典
(※1)一般社団法人投資信託協会「用語集」~「信託財産留保額」
(※2)一般社団法人投資信託協会「統計資料一覧」~「数字で見る投資信託」(2023年1月末)
執筆者:上野慎一
AFP認定者,宅地建物取引士
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