金融危機などが起こった場合、投資家としてどのように振る舞えばよいか。投資を学ぶことの本質とは?
ファイナンシャルフィールド / 2023年4月6日 6時0分
※この記事は2023年3月19日時点の情報を基に執筆しています。 シリコンバレー銀行(SVB)の破綻を受け、資産運用界隈では、これから金融危機が起こるのではないかといった恐怖にも似た不安が広がっていますが、今回は、金融危機などのショックが起こったとき、どのような身の振り方をしていけばいいのか考えてみます。 仮に金融危機などが現実のものとなった場合、特に投資初心者にとっては初めての経験になると思います。投資は想定するゲームともいえますが、昨今のほったらかし投資のように、学ぶことなく、よく分からないから考えないといった風潮が一定の広がりをみせています。 投資についてそういった姿勢で、金融ショック後の大暴落を目の当たりにしたときに自己責任と受け止められるのか、自分の未熟さや経験不足を内省できるのかが、その後の投資継続に大きく影響を及ぼします。 投資を途中であきらめないという意味も込めて、学ぶことの重要性をお伝えできればと思います。
株価がどこまで下がるかを想定する
以前の記事で、テクニカル分析の方法としてシナリオの作成についてお伝えしたことがありますが、おさらいの意味も含め、まずは金融危機などのショックが起こった場合のシナリオを描いてみたいと思います。
図表1のチャートはS&P500の日足ですが、今回は見やすくするためにローソク足チャートではなく、ラインチャートで表示しています。
図表1
〇S&P500(日足チャート)
出典:TradingView Inc. 「TradingView」
※解説を目的に使用
S&P500は、2020年のコロナショックにおいて底値をつけ、5つの「衝撃波」である上昇波動(上昇相場)を描いた後、2022年1月以来、3つの「修正波」である調整波動(下落相場)を描いていると仮定します。
2022年1月からの下落相場では、A波、B波、C波の3つの波で構成され、波形としては「ジグザグ波」とよばれる波を作っている途中と考えます。あくまでも仮説ですが、現在は2023年2月高値でB波が終わった後のC波が進行していると捉えます。波の計測方法やジグザグ波などのついては、復習程度に過去の記事をご参照ください。
波の計測を終えると、次はトレンドラインや下値支持線(サポートライン)を引いていきます。図表1のチャートでは、赤色の線が上値のトレンドライン、青色の線が下値のトレンドラインです。2022年1月以来の下落相場は、チャートのように上値のトレンドラインと下値のトレンドラインに挟まれながら動いているのが分かるかと思います。
また、コロナショックの底値と2022年の10月下値を結んだ太い青色の線も、下値のトレンドラインとして引いています。このトレンドラインは極めて強力な線で、赤色の上値のトレンドラインとクロスさせてみると「三角形」を描いていることが分かります。ここから言えることは、S&P500が三角形を下回ると、強めの下落が訪れる可能性が高いということです。
一方、少し見にくいですが、チャートには青色の点線を3本引いています。これらは過去のある地点とある地点の下値を結んだトレンドラインですが、S&P500がこれらの点線にぶつかる地点も強力な下値支持線として機能します。
次にフィボナッチ・リトレースメントを確認します。5つの衝撃波で構成された上昇波動に対する戻りがA波、B波、C波という3つの修正波ですが、下落相場がどこで落ち着くのかを確認するためにフィボナッチ・リトレースメントを用います。
第1の候補としては、フィボナッチ・リトレースメント「0.5」の水準である「3500」近辺、第2候補は「0.618」の水準である「3200」近辺、そして第3候補は「0.736」の水準である「2800」近辺が考えられます。
片や、現在進行中のC波におけるフィボナッチ・リトレースメントを見ると、「0.382」の水準に「3700」があり、「0.5」の水準では「3500」、「0.618」では「3400」、「0.786」では「3200」、「1.0」では「2900」と、それぞれ近時の値が示されています。
そして、下落相場が続いている可能性が高いため、黒色の水平線で下値支持線を引くと、便宜上、3本の下値支持線を引くことができます。
フィボナッチ・リトレースメントの水準と、下値のトレンドラインや下値支持線がS&P500と交差する地点を見ると、おおよそ3つの下値のめどとなるポイントが見えてきます。黒丸を記した箇所の「3500」「3200」「2900」ですが、この3つを当面の下値めどと想定します。
長期投資での対応のパターン
個人的には、下落相場が終わる最も可能性の高い地点を「3200」と仮定していますが、ここを想定した場合、現在の水準からおおよそ17%ほど下落することになります。
17%というのは非常に大きな下落です。2022年の1月につけた天井から起算すると30%を超える下落率となり、このようなタイミング、つまり上昇相場の天井で運用を開始した投資初心者にとっては、S&P500が「3200」まで落ちてきたときに「もう投資はしない」と心に決めてしまってもおかしくない水準ではあります。
このような仮説を立てた場合、仮説内で分かっていることは「下落相場は続く」「3200ポイントまでは下がる」「買えば大きな損失が出る」の3つです。
それでは、投資スタンス別の身の処し方を長期投資の場合から考えていきます。
〇長期投資が目的ですでに何らかの個別銘柄を買っている場合
長期投資といっても、積立投資で長期の運用を行っているケースと、一括投資で個別銘柄などを保有し続ける場合の2パターンがあるかと思います。
すでに銘柄を買っている場合、おそらく配当金や分配金を目的に投資を行っているかもしれません。このようなケースでは、キャピタルゲイン(売却益)を当てにしているわけでないので、いずれ相場が戻ることを期待し、そのまま持ち続けるといった方法が考えられるでしょう。
〇長期投資を目的にこれから銘柄を買おうという場合
まだ投資を行っていない場合は、すでに何らかの銘柄を購入しているケースとは異なり、無理して投資を始める必要はないかもしれません。なぜなら、想定している仮説が大きめの下落相場だからです。
このような場合、急がずに想定している「3200」まで下がるのを待って投資を始めるというのも一つの方法といえるでしょう。
下落しているタイミングで投資を始めるという場合、下落相場に付き合うことを前提に、大きく下がっても気にしないといった姿勢が必要になります。配当金や分配金を目的に、仮に相場が元に戻らなくても気にしないというスタンスで投資を始めるようにしましょう。
このように配当金や分配金を目的に長期投資を行う場合、今後は特に重要な視点があります。それは、サウジアラビアが中国に原油を売る際、人民元建てで取引するという点と、サウジアラビアとイランが国交正常化に向けて一歩踏み出したことです。
国際情勢としては、地政学的に中国・ロシア陣営と欧米陣営の対立が深まってきましたが、中国・ロシア陣営にサウジアラビアが現実的に近づくことで、特にオイルマネーの流れが変わる可能性が高まっているからです。
裏を返すと、アメリカの国際的な影響力が低下する可能性があることを示しているため、コロナショック後にもてはやされていた米国株投資や全世界株投資といったアメリカに依存する投資姿勢が、本当に持続可能かということは考える必要があります。むしろ、個別の国・地域を投資対象として分けて、資金を配分することが求められるかもしれません。
また、現在起こっている下落相場は、これまでアメリカが続けてきた大規模な金融緩和政策の歴史的修正であることから、2022年1月の高値水準を突破しないケースも考えておく必要はあります。端的にいうと、これまで市場にお金を流し続けてきた状態から、お金を猛烈な勢いで回収しているため、これまでのような「カネ余り」の時代が再び来るかどうかは非常に不透明な部分が大きいといえます。
中国・ロシア陣営と欧米陣営の対立が今後もさらに深まると考えるなら、たとえ物価の上昇が終息しても、原油価格のコントロールをロシアやサウジアラビア、イランが握る可能性が高まっているため、欧米陣営が対抗できるかどうかという点についても不確実性が高いといえるでしょう。
仮に金融危機などのショックが起こった場合、原油などのエネルギー価格は一時的には下落する可能性が高いといえますが、国際情勢の混迷によって再び上昇する可能性があり、ボラティリティー(変動率)の高い投資環境になる可能性も考えておく必要があります。
投資は国際情勢という大きな枠組みの中で、世界経済や経済政策がどのように変化するのかを模索しながら行うことも重要です。特に長期投資においては、短期投資のように見通しを立てることが難しいため、長いスパンで国際情勢の推移を見守りながら行うことが求められます。
このようなことから長期投資を行う場合、分からないことはたくさんあるかもしれませんが、国際情勢や世界経済、経済政策の動向などにある程度の関心をもつようにしましょう。
短期投資での対応のパターン
一方、短期投資の場合、仮説では下落相場が続くわけですから、そのシナリオの基では短期的には買わないという選択が基本になるでしょう。
〇短期投資が目的ですでに何らかの個別銘柄を買っている場合
下落相場がまだまだ続き、しかも下落が大きくなる可能性が高いというシナリオを描いた場合、現在買っている株式などの銘柄は、目先、なるべく処分して、現金保有率を高めるというのが現実的な対処法と考えることができます。
短期投資では、配当金や分配金といったインカムゲインを得ることが目的ではなく、キャピタルゲイン(売却益)が目的であるため、下がる可能性が高いと考えるならば、なるべく持ち続けないといった判断をするのが妥当といえるでしょう。
〇短期投資でこれから銘柄を買おうという場合
シナリオでは下落相場を想定しているため、これから短期投資を行うのは自ら落とし穴にはまりに行くようなものかもしれません。
想定している下値のめどが「3200」であるため、買うタイミングは「3200」近辺であることを意識し、その水準まで落ちてから買うようにするという方法が考えられます。前述のように、下値のめどを「3500」「3200」「2900」と想定しているわけですから、それらの水準で資金を小分けにして打診買い(その水準に近づいたら買いを入れる方法)を行っていくというのが対処法としては有効といえるでしょう。
投資に慣れている人は、売りで入ることは考えられますが、投資初心者は実践経験を積んでからにしましょう。
短期投資の場合、大きな下落相場となる仮説を基にすれば、買わずに現金保有率を高めることに徹した方がいいように思われます(売りから入る場合は別です)。すでに銘柄を買っている場合はなるべく処分し、まだ投資を始めていない場合は買わないといった対処法が安全策として好ましいかもしれません。
まとめ
投資をする際、自分がどのような投資スタンスで行うかを考えるのはとても重要なことです。これまで説明してきたように、長期投資と短期投資では目的が異なるため、当然のことながら投資の方法も違ってきます。
冒頭でも述べたように、投資は想定するゲームともいえます。いくつかの仮説を立て、それに基づき決断するのが投資における自己責任です。ただし、相場の状況によって仮説は変わるため、いつまでも同じ仮説で投資を行わないというのも大事で、また自分の考えにこだわり過ぎないからこそ、相場の世界では結果を出せる場合もあります。
想定とは考えることでもあり、知らないことを学び、理解して想像し、思考を鍛えることでもあります。その結果、選択や決断をするわけですから、人間が生きるうえで当たり前に行っていることでもあります。ほったらかし投資をしたい理由も分かりますが、人生において変化は絶えずやってきます。そのとき、私たちは変化に対して考えることを止めようとするでしょうか。
変化に対して自分を変えようといっているわけではなく、自分がどのように振る舞うかが重要ということですが、その判断の前提になるのが知るということで、知るとは投資の世界では学ぶことです。情報を仕入れる、本を読む、誰かと語らうなど、学ぶ方法はいろいろあるでしょう。
知らなければ考えは浮かばず、想定すらできません。投資について知らずに損失が出たとき、自分のした振る舞いに対して自分で処理することはできません。知って、考えて、想定して、初めて自己責任の原則が成り立つわけです。
例えばNISAで投資を行って損をしても、国や証券会社のせいにはできません。あくまでも自分の責任として腹落ちさせる必要があります。投資について学ぶということは、損失が出たことに対して自分を納得させるために行うものです。
今回のシナリオのように、これから金融危機などが起きて下落相場が続くと仮定するならば、ほとんど学ばずにほったらかし投資を行っている投資初心者は、自分のなかで腹落ちさせることができないため、思わず誰かのせいにしたがるでしょう。
そのような自分を客観的にみたとき、しっかりと制御できるかどうか。それができる投資初心者は、長期投資、短期投資にかかわらず、投資を楽しみながら長く続けられる投資家になれるように思います。
出典
TradingView Inc. TradingView
執筆者:重定賢治
ファイナンシャル・プランナー(CFP)
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