死亡した親の預貯金。凍結されたときにはどうする?
ファイナンシャルフィールド / 2023年4月12日 11時20分
親などが死亡したため、その事実を取引金融機関に伝えると、親名義の預貯金は凍結されてしまいます。葬儀費用や入院費などの精算に、どうしても引き出したいのですが、自由に引き出すことはできなくなります。どのように対応すればよいでしょうか。
金融機関は死亡の連絡を受けたタイミングで口座を凍結
金融機関にお金を預けていた本人が亡くなった場合、金融機関がそれを確認した段階で口座は凍結され、自由に資金が引き出せなくなります。金融機関に連絡しないまま、通帳やキャッシュカードを持っている親族が、普通預金から勝手に引き出してしまうと、ほかの親族などからクレームがつき、相続で混乱が生じてしまうかもしれません。
亡くなった方の預貯金は、その時点で民法の原則に基づき、相続人全体の「共有財産」となります。金融機関としても預貯金を保護するために、相続確定前の引き出しには慎重になります。相続人が多いケースでは、通帳などを持っていない相続人からの連絡でも、預金口座が凍結されます。
定期預金、積立預金などを解約するためには、本人が出向き手続きをする必要があるため、死亡したことにより、本人以外の引き出しはできず、口座は実質的に凍結状態になります。仮に相続人が出向いても、預金を引き出すことはできません。
ただし普通預金の場合は、死亡の申し出がないかぎり、親族などがキャッシュカードを所有していれば、引き出すことは可能です。死亡の連絡をしないかぎり、口座が凍結されることはありません。
特に最近では、個人情報保護の観点から、役所に提出した死亡届の情報が金融機関に通知されることはありません。また金融機関側が、死亡した方の情報を検索することもありません。
かなり以前は、近隣の葬儀場での葬儀を調査し、その方の口座が当該金融機関にあるかを確認し、関係者へ連絡し凍結していたケースもありました。金融機関に死亡したとの情報が伝わらなければ、死亡した方の預金口座はそのままになります。
口座が凍結された場合の対応
金融機関に死亡情報を連絡すると、その時点で亡くなった方の口座は凍結されます。この時点で通常の引き出しができなくなります。例えば、葬儀に関する費用、死亡した方がかかっていた医療費、入居していた施設で介護費用の残金などの支払いが、故人の口座からは出金できなくなります。
当然、亡くなった方のための費用なのですが、口座が金融機関により凍結されていますので、困った事態に直面します。口座の凍結は、故人の財産を保護することが最大の目的なのですが、凍結により混乱が生じることも事実です。
相続人のなかの一人が自主的に立て替え、相続が決まったあとで精算する方法もありますが、誰にも余裕資金がない、誰もが立て替えに消極的で引き受け手がいない、という事態も想定できます。
こうした事態に備えるには、「相続預金の払戻制度」です。これは2017年の民法改正により導入された制度で、故人の凍結された預貯金の一部を払い戻し、葬儀費用や個人が利用した医療費などに利用できる仕組みです。
相続預金の払戻制度には2つの方法があります。相続人同士間にトラブルがない場合は、直接取引していた金融機関に、故人の出生以降すべての戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本と印鑑証明など、必要書類をそろえ提出します。その手続きをすることで、預金総額に応じて、1金融機関につき一人150万円を上限とした払い戻しが可能になります。
もし相続人同士でトラブルを抱えている場合は、金融機関へ申請して払い戻しを受けることはできません。このような場合は、家庭裁判所の判断を仰ぐことになります。すべて家庭裁判所での審理となり、関係する相続人が印鑑証明などの書類を提出し、裁判所の審理に基づいて払い戻す金額が決められます。手続き的には、こちらのほうが煩雑になり時間もかかります。
制度利用時の注意と相続人のモラル
払い戻しが認められると、申請した本人の口座に資金が振り込まれます。振り込まれるまでの期間は2週間程度が目安です。期間は多少かかりますが、故人の葬儀費用や未払いの医療費や介護費用の支払いに充当できます。
複数の相続人が払い戻しを受ける場合は、誰がどの費用の支払いを受け持つかを決めておくとよいでしょう。その意味では、入金を受けた時点で、仲の悪い相続人同士であっても、情報を共有しておくことが大切です。
また実際には、介護施設などに長期に入居していた方のケースだと、相続人の一人が、通帳とキャッシュカードをすべて管理することになるかもしれません。カードの暗証番号も知っているため、実際には払戻制度を利用しなくても、口座から引き出すことが可能です。
金融機関は連絡を受けるまで口座を凍結しないため、特に普通預金(通常貯金)は、キャッシュカードひとつで必要資金を引き出すことができます。ただし故人の預金は、相続人全員の共有財産であることの自覚が求められます。引き出しの記録や資金の使い道をメモし、ほかの相続人から資金流用の疑いをかけられないよう努めるモラルが求められます。
手間のかかる払戻制度を利用しないのであれば、高齢の両親には健康で自由に活動できるうちに、定期預金などの口座は極力解約し、普通預金口座に移し替え残高を増やしておくこともひとつの選択肢です。
できれば相続人全員が合意し実行することが必要です。キャッシュカードの暗証番号を共有し、入居中の医療費や介護費用に充当でき、さらに死後も故人のため葬儀費用、未払いの医療費などへの充当も可能になります。
故人の口座から自由に引き出せる相続人が、細かい注意を怠ると、他の相続人から損害賠償を求められ、新たなトラブルを起こすことになりかねません。故人の通帳とキャッシュカードを保管している方の責任は、非常に重いことを自覚する必要があります。
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。
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