2023年4月より雇用保険料率が引き上げになっている? 理由と概要、計算方法は?
ファイナンシャルフィールド / 2023年4月23日 4時0分
毎月の給与から差し引かれる雇用保険料は、失業や育児、介護などで働けない場合でも給付を受けることのできる公的制度の保険料です。厚生年金や健康保険とともに社会保険料の金額にため息をつく方も多いと思いますが、2023年4月より雇用保険料がさらに引き上げられることになりました。 そもそも雇用保険制度とはどのようなものなのか、その概要とともに、保険料引き上げの理由や具体的な負担の増加額などについて確認してみましょう。
そもそも、雇用保険って?
「雇用保険」は、労働者の生活の維持や雇用の安定、就職促進のための社会保険です。原則として、労働者を1人でも雇用する事業者は適用事業所となり、雇用されている労働者は、1週間の所定労働時間が短い人など例外を除いてすべての人が被保険者となります。
雇用保険と言えば、「失業手当」を思い浮かべる方が多いかもしれません。不安定な時代だからこそ、離職した場合でも生活費の心配をせずに仕事探しができるよう「基本手当」が支給される失業等給付は安心につながる制度です。ただし、それだけではありません。ほかにも育児休業給付や教育訓練給付等多くの給付や事業があり、働く人をさまざまな場面で支える保障として重要な役割を担っています。
雇用保険制度は、大きく分けると「失業等給付事業」と「雇用保険二事業」に分類されます。「失業等給付事業」は、生活及び雇用の安定並びに就職の促進のための給付事業であり、「雇用保険二事業」は、失業の予防、雇用機会の増大、能力の開発及び福祉の増進を図るための事業を行います(※1)。
【図表1】
保険料は「誰が」「どれだけ」負担するの? ~これまでの雇用保険料の変遷
雇用保険の保険料負担については、「失業等給付事業」は、事業主と労働者が半分ずつ負担(労使折半)し、「雇用保険二事業」は、事業主のみが負担し、合わせて事業主が支払います。
負担する保険料率は、失業保険などの受給者数や保険料の積立金額をふまえて、毎年見直しを行います。十分な財源が確保され、雇用保険財政に余裕があれば、据え置きや引き下げとなる年もあります。ただし、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて、2020年(令和2年)以降、雇用保険法の改正や特例法により失業時の基本手当の延長給付、休業支援金、休業対応助成金の創設、雇用調整助成金といったさまざまな支援が行われてきました。こうした支援のおかげで雇用や事業が継続できた事例も多くある一方で、膨大な給付金額により財政不足が深刻化しているのが現状です(※1)。
【図表2】
また、国として安心して子育てのできる社会を目指し、育児休業の拡充の動きも見られます。新型コロナウイルス感染症が落ち着いてきたことも受け、2023年4月以降、雇用保険料の引き上げが行われます。
2023年4月以降、どのくらい負担が増えるの?
2023年4月からは、労使が折半する失業給付などのための保険料率がこれまでの0.5%から0.6%に引き上げられます。事業主のみが負担する雇用保険二事業についての保険料率0.35%は変わりません。労働者と事業主を合わせた全体の保険料率は、1.35%から1.55%となります(※2)。
引き上げによる労働者の保険料負担は、標準報酬が30万円の人であれば、1500円から1800円と、負担が300円増える計算です。
参考までに、これまでの雇用保険料率の変遷は図表3のとおりです(※3)。
【図表3】
財政運営が正常化するまでには、しばらく時間がかかることをふまえると、今後も引き上げが継続する可能性は否定できません。
負担とともに、活用したい制度
物価の上昇が続くなかで、賃金アップを期待できる企業であればよいのですが、多くの企業では、物価の上昇に賃金が追い付かないのが現状です。給与の支給額から差し引かれる雇用保険料の引き上げは、ますます家計を圧迫することが予測されます。
基本給が上がらないのであれば、資格取得による手当に期待することも選択肢かもしれません。最近よく聞く「リスキリング」は、働きながら職場でのスキルアップや、転職・起業を視野に入れた資格取得などキャリア形成に役立ちます。こうした取り組みを支援する制度として、雇用保険制度の事業のひとつである「教育訓練給付」は以前から存在するものです。詳細は割愛しますが、幅広い分野の講座があり、講座の数も、レベルもさまざまです。求職中の方だけでなく、働きながら給付を受けることも可能なことから、このような雇用保険制度を活用することを考えてみてもよいでしょう。
デジタル人材を育成する「リスキリング」が提唱されるようになった背景には、コロナ禍をきっかけとした働き方の変化や、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進があると言われています。いずれにしても、自分自身の将来を考え、取り組むことに意味はあるでしょう。働く人のリスク対策として、離職した場合でも支給される基本手当を確保するためにも、雇用保険制度の拡充を期待しつつ、保険料を負担するとともに、「今」活用できる制度を利用することで、勤務先への貢献度アップや転職に役立てることも考えてみてはいかがでしょうか。
出典
(※1)厚生労働省 雇用保険制度研究会資料2「雇用保険制度の概要」(令和4年5月30日)
(※2)厚生労働省 令和5年度雇用保険料率のご案内
(※3)厚生労働省 雇用保険料率について
参考
厚生労働省 雇用保険法等の一部を改正する法律(令和4年法律第12号)の概要(施行:令和4年4月1日)
執筆者:大竹麻佐子
CFP🄬認定者・相続診断士
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