EB債(しくみ債)にはどんなリスクがある?
ファイナンシャルフィールド / 2023年4月29日 22時0分
![EB債(しくみ債)にはどんなリスクがある?](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/financialfield/financialfield_203323_0-small.jpg)
2022年末から、大手証券会社での「しくみ債(EB)」の販売が相次いで中止されています。しくみ債のリスクの高さは以前から指摘されていましたが、リターン率などの実態は個別の取引なので分からないものでした。 今回、金融庁の資料でその事実の一端が公表されましたので見てみましょう。
しくみ債とは
しくみ債には、日経平均リンク債とEB債がありますが、今回はEB債を中心に見てみましょう。
EB債はしくみ債の一種ですが、「他社株転換可能債」といわれる金融商品です。債券であるにもかかわらず、償還日までの株価変動によっては、満期日に金銭(償還金)が支払われる代わりに、当該債券の発行者とは異なる会社の株式(他社株)が交付される場合もあります(※1)。
次の表は、しくみ債の発行から償還までのパターンを表わしたものです。
![](https://financial-field.com/wp/wp-content/uploads/2023/04/75e53d4448e1e2458319d198b7c42715-25.jpg)
図は(※2)を元に筆者が作成
EB債は、設定された償還期限や対象株式の時価にリンクして償還されます。利率や償還を決める価格として、基礎(基準)価格、ノックアウト価格、ノックイン価格が設定されます。
・基礎価格は、償還や利率を決める基準になる株価のことで、発行前に決められます。
・ノックアウト価格は、早期償還を決める価格のことで、基礎価格から5~10%程度高い価格で設定されます。
ノックアウト価格に達した場合は、額面で早期償還されます(1)。
・ノックイン価格は、対象株がその価格に達した場合に償還条件を決める価格で、基礎価格の60%~70%程度で設定されます。
ノックイン後 基礎価格以上で償還日を迎えた場合 額面で現金償還(2)
ノックイン後 基礎価格未満で償還日を迎えた場合 対象株式の現物で償還(3、4)
ノックアウト価格は基礎価格との差が小さく達成しやすい価格であるの対して、ノックイン価格は基礎価格との差が大きく、到達する可能性が低いと思われる設定になっています。
つまり、現在の株価から30%、40%の下落は起きないだろうとの推測から取引が始まることが多いのではないかと思われます。
しくみ債のリターンの状況
ここではEB債(他社株転換可能債券)のリターン例について見てみましょう。以下の表は、2019年に金融庁が調査したEB債のうち、クーポンリターン(利益または損失)が算出可能な364本について抽出分析した結果です。
![](https://financial-field.com/wp/wp-content/uploads/2023/04/b21aa6e7a5229bdbdbdb6524b66d20f0-15.jpg)
表は(※3)に基づき筆者が作成
この表から読み取れるのは、プラスリターンが5%~20%の幅に留まるのに対して、マイナスリターン(損失)は-5%~-80%と幅が大きい(多額の損失発生)ことです。
リターン率は、1%~10%に制限されるのに対して、ノックイン(額面割れ)の場合は、株式での償還のため、大幅損失になる可能性があることを示しています。
リターン率が20%や15%のケースが約60本あるのは、ノックアウト価格近辺まで上昇した株価が早期償還のノックアウト価格には至らず、運よく高いクーポン(利率)を複数回得られたためと思われます。
マイナスリターン(損失発生)の約50本(13.5%)は、マイナス20%以上の損失が大半を占めていると想定され、これが、しくみ債の取り扱い規制の強化につながったものと思われます。
株式投資と比較すると、個別株式を保有する場合は値上がり益はすべて保有者の利益になりますが、しくみ債の場合は決められた利率での還元になります。利益は一定の範囲内に留まりますが、損失はすべて被るという構図です。
まとめ
しくみ債は、文字通りしくみが理解しにくく、リスクの高い金融商品という認識がまだ十分行きわたっていません。ただ、証券・金融商品あっせん相談センターへの申し立てのなかにはしくみ債に関するものもあります(※4)。改めてしくみ債の購入については十分な注意が必要と思われます。
出典
(※1)日本証券業協会 そもそもEB債とは?
(※2)日本証券業協会 「仕組債」とは?
(※3)金融庁 2022年5月 資産運用業高度化プログレスレポート 2022 42P
(※4)証券・金融商品あっせん相談センター ( FINMAC ) FINMAC紛争解決手続事例(2022年10-12月)
執筆者:植田英三郎
ファイナンシャルプランナー CFP
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