民事信託ってどんなもの? 詳しく見てみよう
ファイナンシャルフィールド / 2023年5月8日 5時0分
認知症を発症する割合は、高齢化と関係しています。日本における65歳以上の認知症の人の数は約600万人(2020年現在)と推計され、2025年には約700万人(高齢者の約5人に1人)が認知症になると予測されています※。 民事信託は、認知症になる前に契約を締結して、委託者(本人)の名義を受託者(信頼できる人や法人)に変更することにより、委託者が認知症になった後も資産凍結の影響を受けることなく、名義人(受託者)が資産の管理・運用・処分できる、というものです。詳しく見ていきましょう。
民事信託とは
信託とは、現金や不動産等の財産管理等を自分自身(委託者)が、認知症になる前に人や法人に(受託者)に「名義」を変更して管理をしてもらい、財産部分(例えば不動産の売却代金や家賃など)は、本人(受益者)がそのまま受け取れるようにする信託法に基づく特別な契約です。
2006年に、信託法が大改正されて、それまでは信託銀行や信託会社(以下信託銀行等)でしか行えなかった信託が、家族内でも行えるようになりました。信託銀行等の信託は、信託銀行等が受託者となり報酬を得る営利目的ですが、民事信託は営利ではないため信託報酬は発生しません。
なお、「家族信託」ということばがありますが、同じ意味で使われることばとして「民事信託」があります。民事信託には“家族型”というものがあり、それを「家族信託」と呼ぶことがあるためです。
図表1:民事信託のイメージ
遺言との違い
遺言は、亡くなるより以前に作成し、その後亡くなった際に効力を発揮します。例えば子どもの認知や遺産分配のやり方など、遺言書に記載された内容には法的な効力があります。遺言書でも財産の継承者は決められますが、次の継承者までです(一代限り)。一方、民事信託は、数世代先までの財産承継者を指定できます。
成年後見制度の違い
成年後見制度は、財産の所有者が認知症などの理由で十分な判断能力がない場合、経済的な不利益を被らないよう本人に代わって後見人が財産の管理を行う方法です。
成年後見制度には2つの方法があります。
1. 法定後見制度:本人の判断能力が不十分になった後に、家庭裁判所が選任した成年後見人等が法律的に本人を支援する制度
2. 任意後見制度: 本人が十分な判断能力があるときに、あらかじめ任意後見人や将来その人に委任する事務(本人の生活、療養看護および財産管理に関する事務)の内容を定めておき、本人の判断能力が十分でなくなった後に、任意後見人がこれらの事務を本人に代わって行う制度
どちらの成年後見制度も適切な財産管理が目的なので、民事信託と違い積極的な相続対策や資産運用はできません。また、成年後見監督人への報酬料が発生したり、定期的な報告という事務も発生します。
民事信託の設定時にかかる費用
図表2:民事信託設定時にかかる費用の目安
(1)民事信託を始めるときは、それぞれの家庭の事情にあった仕組みを設計する必要があります。民事信託の仕組みを設計するには、法律的な知識が必要ですので、通常は、専門家のコンサルティングを受けます。
(2)民事信託の設計ができたら、委託者と受託者で信託契約を締結します。契約自体は、口頭でも成立しますが、証拠を残すために公正証書にするのが一般的です。
(3)民事信託の財産の中に不動産が含まれている場合は、法務局で登記申請をする必要があり、登録免許税がかかります。
(4)信託登記の手続きを専門家に依頼する場合には、報酬が発生します。
一般には、民事信託にかかるトータルの費用は、不動産がない場合で40万~50万円程度、不動産がある場合で50万~100万円といわれています。
まとめ
民事信託の注意点として、以下があります。
(1) 本人の判断能力がある時しか契約ができない。
(2) 受託者として、信頼できる家族や親族、友人が必要。
(3) 信託できるのは財産管理なので、施設の手続きや本人に代わっての遺産分割協議はできない。
(4) 受託者が固定資産税義務者になる(信託金銭からの支払いは可能)。
(5) 賃貸物件などは税務署へ毎年、書類を提出する必要がある。
費用もかかるため、遺言や成年後見制度のメリット・デメリットと比較して、利用するかどうかを検討しましょう(3つの制度をすべて利用することも可能です)。
出典
(※)国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 こころの情報サイト 認知症
執筆者:篠原まなみ
AFP認定者、宅地建物取引士、管理業務主任者、第一種証券外務員、内部管理責任者
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