夫が家事・育児をすれば、妻は出産前後も仕事をして、子どもを2人以上産むという国のデータ。それってホント?
ファイナンシャルフィールド / 2023年5月11日 2時0分
本記事では、2023年1月から開催されていた、「こども政策の強化に関する関係府省庁会議」において用いられた資料をひも解きながら、国の少子化対策について一緒に考えていきたいと思います。 今回参照するデータは、「女性の継続就業・出産と男性の家事・育児時間の関係」です。
夫の家事・育児時間が長い家庭では妻の継続就業と第2子以降の出生の割合が上がる
図表1のグラフは、夫の家事・育児時間と妻の継続就業の割合が、第2子以降の出生とどのように関係しているかを示したデータです。
【図表1】
〇女性の継続就業・出産と男性の家事・育児時間の関係
出典:内閣官房こども家庭庁設立準備室 「こども・子育ての現状と若者・子育て当事者の声・意識」
国としては、このデータから「夫の家事・育児時間が長いほど、妻の継続就業割合が高く、また、第2子以降の出生割合も高い傾向にある」と結論づけているようです。もう少し柔らかくいうと、夫が家事・育児をしている家庭では、妻は仕事を続けやすく、また2人以上の子どもを産む傾向があるといったところでしょうか。
3つのグラフが提示されているため、まずはそれぞれのデータをひも解くところから始めていきます。
(1)6歳未満児のいる夫の家事・育児関連時間(1日当たり)
図表1の左側のグラフは、「6歳未満児のいる夫の家事・育児関連時間(1日当たり)」です。
日本の場合、1日の夫の家事関連時間全体は1時間54分となっていますが、そのうち育児に関わっているのは1時間5分です。アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、スウェーデン、ノルウェーと国際比較されていますが、確かにデータを見るかぎり、日本は夫の家事関連時間が最も短いことが分かります。
一方、育児に関連する時間は他国とは大差がなく、育児については平均的といえるでしょう。ここから導き出されることは、日本の夫の場合、育児はするがその他の家事はあまりしない傾向があるということです。
総務省の「社会生活基本調査」(令和3年)を基に作成されたデータであることから、直近の傾向であるとするならば、夫の家事関連時間が短いのは、おそらく単純に夫が働き過ぎ、帰宅後に疲れて家事をする気力がない、家事について妻が自分でやったほうがいいと思っている、そもそも夫は家事ができない、といった理由が考えられるかもしれません。
(2)夫の平日の家事・育児時間別にみた妻の出産前後の継続就業割合
真ん中のグラフは、「夫の平日の家事・育児時間別にみた妻の出産前後の継続就業割合」です。夫の平日の家事・育児の時間ごとに、妻が出産前後も同じ仕事を続けている「同一就業継続」、出産前後での「転職」「離職」「不詳」の割合を示しています。
傾向としては、平日の夫の家事・育児時間が長いほど、妻が出産前後も同じ仕事を続けている割合が高くなっていることが見て取れます。一方、夫の家事・育児時間が短いほど、妻が出産前後で転職や離職をする割合が高いことも同時に確認できます。
つまり、このデータから読み取れることは、夫が平日に家事・育児をする家庭では、妻は出産前後も就業を継続する傾向が高く、逆に、夫が家事・育児をしない家庭では、妻は出産前後で転職・離職する傾向が高いということです。
このように見ると、いわゆる専業主婦世帯か、専業主婦世帯に近い状況の家庭では夫は家事・育児をする時間が短く、共働き世帯では夫は平日に家事・育児をする傾向があるとも考えられます。別の表現でこのデータを読み解くと、共働き世帯では夫婦で家事・育児をするという考え方になっており、そうではない家庭では、夫は仕事、妻は家事・育児という役割をある程度決めているのかもしれないといえるでしょう。
(3)夫の休日の家事・育児時間別にみた第2子以降の出生割合
最後に右側のグラフですが、「夫の休日の家事・育児時間別にみた第2子以降の出生割合」です。前述した(2)は、夫が平日に家事・育児をする時間にスポットを当てたデータですが、こちらは休日の家事・育児時間に注目しています。
結論からいうと、夫が休日に家事・育児をする時間が長いほど、第2子以降を出産する割合が高くなっていることが分かります。仕事が休みの場合、夫も家事・育児をするのは比較的当たり前のように思いますが、そのような家庭では2人以上子どもが生まれているというデータです。
因果関係として本当に成り立つのかはいささか疑問が残りますが、(1)(2)(3)を合わせて考えると、夫が家事・育児をする家庭では子どもが2人以上生まれやすいと国は言いたいわけで、簡単にいうと少子化対策として夫も家事・育児になるべく参加しましょうということなのかもしれません。
まとめ
今回のデータでは、夫の家事・育児時間が長いほど妻の出産前後での継続就業割合が高く、また第2子以降の出生割合も高い傾向があると結論づけています。因果関係としては、夫の家事・育児時間の長短→妻の継続就業割合と第2子以降の出生割合の高低といった構図になるのかもしれません。
いずれも起点は夫の家事・育児時間の長短ですが、妻の継続就業割合、また第2子以降出生割合の高低の間には、その他にも家計面や夫婦の働き方、親族や地域社会における子育てのサポート、住環境、教育環境など、さまざまな要因があると考えられます。
夫婦で協力して家事・育児を行うことで、妻も働きやすくなり、子どもも産みやすくなる可能性は高まるかもしれませんが、今回のデータをもって夫が家事・育児をすれば妻は出産前後も働き続ける、子どもを2人以上産むとは一概にはいえないでしょう。
今回のデータはあくまでも国の少子化対策における参考資料で、このような傾向があることを示しているものですが、データ分析に基づく結論づけの短所は、内容によっては見えている因果関係が不足している可能性がある点です。そのため、それぞれの家庭で一つの参考にしてみるという受け止め方がいいのではないでしょうか。
出典
内閣官房こども家庭庁設立準備室 こども・子育ての現状と若者・子育て当事者の声・意識
執筆者:重定賢治
ファイナンシャル・プランナー(CFP)
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