自営業者です。「厚生年金」に入るために法人化するのはアリですか?
ファイナンシャルフィールド / 2023年5月19日 10時30分
「将来が不安で厚生年金に加入したい。」自営業者の方からそういった相談を受けることもあります。中には厚生年金に加入するために本気で法人化を検討する方もいらっしゃいました。そこで、自営業者が厚生年金に加入するために法人化することの是非(ぜひ)について考えていきます。
自営業からの法人化は多方面から慎重に検討しなければならない
自営業者は法人化することで、対外的な信用を得られるなど、さまざまなメリットを得ることができます。厚生年金や健康保険といった手厚い社会保険に加入できることもひとつのメリットです。また、所得の低い配偶者や子、生計を同一にしている親などを扶養に入れることで社会保険料を削減できる場合もあるでしょう。
しかし、厚生年金に加入するための法人化は慎重に検討するべきです。法人化することで多くのデメリットも生じうるからです。具体的には、下記のような問題が生じます。
・法人の設立費用が生じる(株式会社なら最低20万円程度は必要)
・法人のお金と事業主個人のお金は別になるため、お金の自由度が小さくなる
・お金の流れが複雑になって経理関係が難しくなる
・税理士への報酬が発生・増額することもある(申告から経理まで全てお願いすれば50万円以上)
・最低でも10年に一度役員の重任登記が必要となるなど定期的な法人登記の手間が生じる
・赤字でも法人住民税の均等割りが年間8万円近く発生する
・自身や従業員の分の社会保険料の会社負担分が生じる
上記の費用面や手続きの複雑さなどを考えると、厚生年金に加入することを目的とした法人化は基本的にナシと言えるのです。仮に厚生年金に加入できたとしても、その負担に見合うだけのメリットが得られないことも多いといえます。
厚生年金の保険料は国民年金保険料よりも重い
国民年金の保険料は月額1万6520円(令和5年度)となり、年間で20万円弱です。それに対して厚生年金の保険料はおおむね給与の18.3%と大きな割合で課されます。
例えば、毎月50万円の給与を法人から受け取るという場合、厚生年金だけで9万1500円の社会保険料となります。年換算で109万8000円と、国民年金保険料の約5倍です。
厚生年金の保険料は、本人と会社が折半して負担します。そのため、実際に自身が受け取る給与から差し引かれる保険料は年間で55万弱になります。しかし、自営業者が法人化した場合、残りの半分も会社のお金から支払うので実質的には自身で負担しているのと変わりません。
仮に1980年5月1日生まれの方が20歳から39歳まで国民年金、そこから65歳まで毎月50万円の給与で厚生年金に加入した場合、将来受け取れる厚生年金は年間172万円です(国民年金部分含む)
国民年金が年間20万円程度の負担で将来は年間で78万円程度の給付が受けられると考えると、厚生年金目的での法人化は、費用対効果において微妙な部分があると言わざるを得ないでしょう。
自営業者は厚生年金に代わりどう老後に備えればいい?
将来への備えが不安であれば、厚生年金に代わって次のような方法で老後資産や退職金を形成していき、その不安を解消できます。
・小規模企業共済に加入する
・つみたてNISAを開始する
・iDeCoに加入する
小規模企業共済で退職金を用意し、つみたてNISAとiDeCoで老後資金の準備を進めていけば、厚生年金が受け取れなくても十分な老後資金の確保を目指すことが可能です。これらは、もし法人化した後でも、一定の条件の下で継続することができます。そのため、将来法人化することになった際の妨げとなることもありません。
厚生年金に加入するための法人化は基本的にナシ
自営業者からの法人化は、メリットがある一方でデメリットも多くあります。そのため、厚生年金への加入目的での法人化は基本的にはナシだと言えます。
実際、将来への備えであればiDeCoなどさまざまな制度を利用することができ、厚生年金に加入せずとも自営業者は将来のために十分な備えを作り出すことが可能です。将来が不安だと感じる自営業者においては慌てて法人化するのではなく、広い視野から老後について考えるといいでしょう。
出典
日本年金機構 国民年金保険料
日本年金機構 令和2年9月分(10月納付分)からの厚生年金保険料額表(令和5年度版)
執筆者:柘植輝
行政書士
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