児童養護施設等の高校生の大学等進学を後押しする「民間団体・大学」の支援策

児童養護施設等を退所する高校生の中には、進学後の学費負担など経済的事情を理由に進学を諦めざるを得ない人もいます。すべての高校等の卒業者の約76％が大学等に進学するのに対して、児童養護施設等に入所している子どもの大学等進学率は約33％にすぎません。   この記事では児童養護施設等の高校生の進学を後押しする支援策を2回に分けて解説します。前回は、国・地方自治体の支援策についてお伝えしました（※）。今回は民間団体・大学の支援策についてお伝えします。

受験費用を支援する民間団体の奨学金

受験費用を支援する民間団体の奨学金についていくつか見てみましょう（2023年5月時点の情報）。
 
ゴールドマン・サックスでは、受験や入学準備費用の負担を軽くする費用面の支援に加え、情報提供やオンラインイベントなどの受験サポートで児童養護施設等の子ども等の大学進学を応援しています。給付金は、受験応援金5万円（7月）、入学準備金10万円（12月／3月）が支給されます。
 
一般財団法人教育支援グローバル基金では、10万円を限度に、進学のための受験に際し、共通テスト検定料および、大学・短大・専修学校の入学検定料・受験料を支給しています。
 
一般社団法人ゆめさぽでは、大阪府内の児童養護施設などで暮らす受験生に対し、私立大学の受験料およそ2校分にあたる7万円を支給する取り組みを行っています。
 
最近は、英語外部検定利用入試が大学受験の常識となっています。さまざまな検定試験がありますが、検定料は経済的な負担になることでしょう。たとえば、英検2級（高卒程度）の検定料は1回8400円（本会場）ですので、受験をためらうかもしれません。
 
認定NPO法人キッズドア基金では、「英検奨学金（給付型）」として英検4級～1級の受験料を支給しています。支給額は、4級：4500円、3級：6400円、準2級：7900円、2級：8400円、準1級：9800円、1級：1万1800円となっています。
 

受験費用以外の費用を支援する民間団体の奨学金

受験費用以外の費用を支援する民間団体の奨学金の例としていくつか紹介します（2023年5月時点の情報）。
 
公益財団法人資生堂子ども財団の奨学金は、大学・短大・専門学校に進学する子どもたちに、年50万円を給付します。加えて、交流会の開催や生活用品の支給も行っています。
 
日本財団 夢の奨学金では、奨学生に採用されると、大学等の卒業までの入学金・授業料の全額、生活費住居費として月額 8 万円、転居費として一律 30 万円（奨学生期間中1回のみ）、教材費として年額 12 万円、夢の奨学金交流会等参加交通費と宿泊費として実費が支給されます。さらに、ソーシャルワーカーによるサポートが受けられます。
 
公益財団法人 楽天 未来のつばさでは、自立奨学支援資金として、進学（職業訓練校などの学校類似施設も含む）・就職の支度金を1人15万円支給しています。
 

社会福祉協議会の奨学金

社会福祉法人全国社会福祉協議会の児童養護施設退所者等に対する自立支援資金貸付事業をご存じでしょうか。
 
例えば、東京都社会福祉協議会の自立支援資金貸付事業では、大学等進学者に対し「生活支援費（月額5万円）」「家賃支援費」「資格取得費（25万円以内）」を無利子で貸し付けています。連帯保証人が必要です。
大学等卒業後1年以内に就職し、5年業務に従事した場合は返済が免除になります。
 
お住まいの地域にある社会福祉協議会に相談してみるとよいでしょう。
 

大学独自の奨学金

大学独自の奨学金の例として、いくつか紹介します（2023年5月時点の情報）。
 
早稲田大学の「紺碧の空奨学金」は、児童養護施設等入所者等を対象にした、入学前に在学中の奨学金を約束する入試前予約採用給付奨学金です。採用候補者は早稲田大学が実施する入学試験に合格・入学することで、奨学生に正式採用されます。
 
奨学金の内容は以下のとおりです。
 

(1)　入学検定料（ただし、大学入試センター主催の大学入学共通テストの検定料は除く）および入学金免除
(2)　授業料、実験実習料等、その他諸経費を全額免除
(3)　勉学に専念できるよう家賃補助および生活支援金として月額9万円を上限に給付

 
青山学院大学では、「社会福祉法人 全国社会福祉協議会 全国児童養護施設協議会」に加盟する児童養護施設に入所している高校生で、大学への出願資格を有し、進学を希望する者に、施設長（施設責任者）の推薦による入学者選抜制度を設けています。
 
入学検定料は免除です。書類審査と面接に合格した生徒は入学金や4年間の学費が無料になり、さらに月に10万円の奨学金が給付されます。
 
静岡福祉大学では、静岡福祉大学児童福祉スカラシップ生に採用されると、4年間の施設設備維持費免除（総額164万円）と、入学時準備金として30万円が支給されます。
 

奨学金の探し方

児童養護施設等の高校生3年生で大学・短期大学・専門学校への進学を希望している方対象の奨学金を探すには、一般社団法人コンパスナビ「奨学金・資格取得等助成制度一覧」（PDF）が便利です。
 
児童養護施設退所者等に対する奨学金や、就労に活用できる支援金が分かりやすく整理されています。
 
その他、民間団体の給付奨学金は、奨学金検索サイトを活用して調べてみましょう。
 
日本学生支援機構のホームページでも、国内の大学や短期大学が実施している学内奨学金であったり、授業料等の減免・徴収猶予制度、地方公共団体等（都道府県・市区町村・その他、奨学金事業実施団体等）が行う国内向け奨学金制度の情報などを掲載していますのでぜひ活用しましょう。
 
（※）ファイナンシャルフィールド　児童養護施設等の高校生の大学等進学を後押しする「国・地方自治体」の支援策
 

出典

文部科学省　学校基本調査（令和4年度）

厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課　社会的養育の推進に向けて（令和4年3月31日）

厚生労働省　社会的養護

ゴールドマン・サックス　大学受験給付型奨学金　
認定NPO法人キッズドア基金　英検奨学金
東京都社会福祉協議会　ホームページ

公益財団法人資生堂こども財団　ホームページ／資生堂子ども財団奨学金

一般社団法人ゆめさぽ　ホームページ
一般社団法人コンパスナビ

厚生労働省　養護施設入所児童等の高等学校への進学の実施について（特別育成費について）

一般財団法人教育支援グローバル基金｜ビヨンドトゥモロー　奨学・助成事情『エンデバー』
日本財団 夢の奨学金
公益財団法人楽天 未来のつばさ　自立奨学支援資金
 
執筆者：新美昌也
ファイナンシャル・プランナー。