遺言書をスマホで書けるようになる? ~デジタル遺言制度の検討が始まっています~
ファイナンシャルフィールド / 2023年6月28日 23時10分
政府が、法的効力がある遺言書をインターネット上で作成・保管できるデジタル遺言制度の検討を始めています。デジタル遺言制度が導入されるとどのようなメリットがあるのか、導入するにはどのような課題があるのかを解説します。
現在の遺言制度
法的効力をもつ遺言には3つの形式があります。まず、自筆で紙に書く自筆証書遺言、公証役場で公証人に作成してもらう公正証書遺言、もう1つは自筆の遺言に封をして公証役場で保管してもらう秘密証書遺言です。
このうち、一般の人が最も取り組みやすいと感じるのは自筆証書遺言かもしれません。ところがいざ書こうとすると、どう書けばよいか分かりにくいことが多いうえ、自筆証書遺言には4つのルール(全文自書、日付、署名、捺印)もあり、ルールに合っていなければ形式不備で無効になってしまいます。
自筆証書遺言のルールは平成31年に緩和され、財産目録はパソコンの作成したものや預金通帳のコピー、不動産の登記事項証明書にそれぞれ署名捺印することで認められるようになりました。また、自筆証書遺言を法務局で預かってもらう制度も始まっていますが、遺言の全文を自書しなければならないルールは変わっていません。
デジタル遺言制度のメリット
遺言を準備するのは高齢になってから、という人が多いでしょう。高齢者にとって遺言書の全文を間違えずにペンで書くのは、大変な作業ではないでしょうか。万一書き間違えたときは訂正できますが、その場合にも細かいルールがあります。
うっかり日付を令和〇年〇月吉日と書いても、形式不備で無効になります。また、せっかく自筆証書遺言を作成したのに家族が遺言書の存在を知らず、本人の死後に遺言書があると分かったときには、相続手続きがすべて終わっていたというケースもあります。
パソコンやスマホでフォーマットに従って遺言を作成できれば、書き方に迷うこともなく、誤字脱字の心配も減るでしょう。また、日付もタイムスタンプがあれば書き忘れの心配がありません。クラウド上に保存すれば紛失の心配もなくなります。
デジタル遺言制度の課題
良いところばかりのデジタル遺言に思えますが、制度の導入には解決しなければならない課題があります。
まず、遺言書には偽造の心配があります。そのため、自筆証書遺言は、本人が書いたものと確認できる必要があります。遺言は本人の死後に効力を発するので、本人に直接確認できません。その点、紙の自筆証書遺言は本人が全文をペン書きしますから、筆跡で本人性を確認できると考えられています。
デジタル遺言ではどうすれば本人性を確認できるのでしょうか。また、保管中に誰かに改ざんされてしまう心配も考えられます。
これらを解決する方法として、本人性の確認には生体認証とパスワードなどの複合認証や電子署名などが、改ざん防止にはブロックチェーン技術などが挙げられており、それらを組み合わせることで、現在の自筆証書遺言より信頼性の高い仕組みを作ることが期待できるでしょう。
まとめ
法務省は、自筆証書遺言について、令和5年からニーズ調査、実態調査、諸外国の法制について調査を開始し、デジタル遺言の検討を始める予定としています。また、公正証書については令和7年度までに公正証書作成の手続きをデジタル化したいということです(※)。
おひとりさまや事実婚、同性婚など、人々の生き方が多様化する中で、自分の財産を自分が思った人に遺したいと考えるなら、遺言の作成は欠かせません。自分の最後の面倒を見てくれた人に財産を遺したいと考える場合も、遺言が必要です。
「うちは財産が少ないから遺言なんて必要ない」とおっしゃる方がいますが、少ないからこそ分け方が難しくなることがあります。また、「うちは家族で仲がよいから大丈夫」という場合でも本人の死後に相続でもめて、その後は兄弟姉妹の付き合いがなくなったということもあります。
デジタル遺言制度でスマホやパソコンでの遺言作成が可能になれば、遺言を遺す人が増え、相続でもめる家族が減ることが期待できるのではないでしょうか。
出典
(※)内閣府 第2回デジタル基盤ワーキング・グループ 議事概要 P20、P24
執筆者:蟹山淳子
CFP(R)認定者
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