日本の「平均年収」が伸びていない理由とは? 視点を変えて統計を見ることでわかる真実
ファイナンシャルフィールド / 2023年7月4日 9時40分
大手企業を中心に賃上げが行われています。ユニクロ、GUなどを運営する株式会社ファーストリテイリングが新入社員の初任給を30万円へ賃上げし、他の従業員も最大40%の賃上げをすると発表したことは、記憶に新しいでしょう。 賃上げの背景には、諸外国のインフレ加速に伴う物価上昇の流れが日本にも訪れており、労働者が生活に困らないように物価上昇を上回る賃上げをしなければならないという企業判断などがあります。 賃上げの流れが続く日本ですが、1992年をピークに平均年収が上がっておらず「失われた30年」などと揶揄(やゆ)されてきました。ただ、少子高齢化に伴う現役世帯の所得の推移を含めてみると平均年収の動向を違った観点で見ることができます。本記事では断片的ではなくさまざまな統計をもとに平均年収について解説します。
日本の平均年収は横ばいで推移している
厚生労働省が公表している平均給与の推移をみると、図表1のとおり平均給与は、おおむね420~470万円の間で推移しています。ピークは1992年で、2010年以降は下降気味でしたが、その後、やや持ち直しています。
また、国税庁が毎年公表している民間給与実態統計調査の令和3年の調査結果における平均給与は443万円でした。
対して、経済協力開発機構(OECD)が公表している世界の平均賃金をみてみましょう。
アメリカの2000年における平均賃金は3万8863ドルでした。2022年の平均賃金は7万7463ドル。オーストラリアでは2000年は4万6247ドル、2022年は9万2690ドル。ニュージーランドでは2000年が「3万8145ドル」に対し、2022年は「8万401ドル」と、約2倍になっています。このようなデータからも、諸外国と比べると、日本の給与水準が伸びていないことは明らかです。
図表1
厚生労働省 令和2年版厚生労働白書 図表1-8-2 平均給与(実質)の推移(1年を通じて勤務した給与所得者)
高齢者の割合が増えていることが1つの要因
日本の平均賃金が横ばいという事実は間違いではないですが、このデータには「からくり」があります。日本の人口年代層の割合の変化です。
日本は少子高齢化の真っただ中です。図表2から分かるように、1980年代では約10%の割合であった65歳以上の人口割合が、2021年には約3倍の28.9%まで増えています。1980年代には、年収が比較的高くなる40代~50代の社会人が多くを占めていましたが、2000年代には65歳以上が多数を占め、収入が少ない人の割合が増えています。
つまり、現役世代の賃金が上がっていても、賃金が現役世代よりも減少している65歳以上の人口が増え続けているため、全体の賃金の平均値を押し下げていると推定できます。
図表2
総務省統計局 人口推計(2021年(令和3年)10月1日現在)全国:年齢(各歳)、男女別人口 ・ 都道府県:年齢(5歳階級)、男女別人口‐
他の国と比べてみても日本の高齢者人口の割合増加率はトップクラスです。
総務省統計局の発表しているデータでは、2025年には人口に占める高齢者の割合が約30%になり国民の3人に1人が高齢者になると予測されています。稼ぎ頭となる現役世代の割合が少ないことがわかります。
図表3
統計局 国際比較でみる高齢者
児童がいる世帯に限れば世帯の平均年収は上昇傾向にある
図表4は、各世帯別の平均所得の推移を表しています。児童のいる世帯の推移を見てみると、平均所得は2000年に入ってからも伸び続けており、2020年には813万5000円と最高値を更新しています。もちろん、働く形の変化(片働きから共働きなど)の要因もあるかとは思いますが、児童のいる世帯でみる年収は上昇傾向にあるのです。
共働き世帯が増えることで児童のいる世帯の所得は上昇傾向ではありますが、諸外国の賃金上昇率からみると微々たるものであるという事実もみえてきます。
また、所得という切り抜きでは微増しているように見えますが、実質の手取りでみると過去に比べて社会保険料の増加や消費税などの増税、物価上昇の影響があるため結果が変わります。
図表4
厚生労働省 2021年国民生活基礎調査の概況 各種世帯の1世帯当たり平均所得金額の年次推移
大和総研が発表した図5のレポートでは、40代4人家族の可処分所得の推移が発表されています。
このレポートから、共働き世帯増加による妻分の所得が増加している一方で、夫分の所得の伸びの鈍化、社会保険料や消費税などの増税、物価上昇によって実質可処分所得は2012年と比べてマイナスになっています。所得という表現掛けでは見えてこない一面がこのような統計から明らかになってきます。
図表5
大和総研 2012~2021 年の家計実質可処分所得の推計
統計のからくりを理解したうえで収入増の対策を
ニュースなどで発表されている平均年収は、さまざまな統計の中の1つの結果を抽出しているものに過ぎません。また、統計の中身も人口割合の変化などを加味せずに数十年前と同じように見てしまうと、現状とのズレに気づくことができないのです。
社会保険料アップで給与の手取りは減っている一方、増税や物価上昇などで支出が増えていることや、諸外国と比べた時に歴史的に賃金が伸びていないことは、どんなに多くの異なった統計を調べても変わらない事実です。断片的な偏った情報に流されないように注意しながら税や賃金について理解を深め、日々の節約や自身の収入アップに励むことが大切です。
出典
厚生労働省 令和2年版厚生労働白書 図表1-8-2 平均給与(実質)の推移(1年を通じて勤務した給与所得者)
総務省統計局 人口推計(2021年(令和3年)10月1日現在)全国:年齢(各歳)、男女別人口 ・ 都道府県:年齢(5歳階級)、男女別人口‐
厚生労働省 2021年国民生活基礎調査の概況
統計局 統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで- 5.国際比較でみる高齢者
大和総研 2012~2021 年の家計実質可処分所得の推計
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
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