住むつもりがない家を長年放置すると固定資産税は最大6倍に? どうすればよい?
ファイナンシャルフィールド / 2023年7月19日 4時40分
土地や家屋の相続に直面した相続人は、例えばこんな悩みに直面することが少なくありません。 ・故人が住んでいた今の空き家をどうするか自分が決めなければならない ・すでに私には持ち家があるし、いまさら残された家に引っ越すつもりもない ・残された家を売却すればよいのだが、愛着のあるその家を他人に売るのも忍びない しかし、迷って空き家のまま放置すると多くのデメリットがあります。では、どうすればよいのでしょうか? そのヒントを、本記事で解説します。
空き家を放置した場合の危険
いうまでもありませんが、空き家を長年放置すると多くの危険が伴います。
●建物上の危険(例:家屋全体が倒壊、外壁や屋根の落下)
●衛生面の悪化(例:ごみの不法投棄、ねずみや害虫の繁殖)
●景観上の悪化(例:壁面全体をツタが覆う、雑草の繁茂)
●防犯性の低下(例:不審火や放火、不審者の出入り)
どれも実際に起こることを考えると恐ろしいですが、そのなかでも特に怖いのは、被害が近隣にもおよぶ火災・放火です。消防庁の統計によると、令和4年の1年間に起きた火災の出火原因のうち、「放火」(2235件)は「たばこ」「たき火」「こんろ」に次ぐ第4位ですが、第8位の「放火の疑い」(1478件)を含めると、「たばこ」を抜いてトップになります(※1)。
さらに、近隣へおよぶ影響は建物の危険だけではなく、周辺の不動産価格全体の低下にもつながります。どれほどすてきな物件であっても、隣近所にボロボロの空き家があると知っただけで購入意欲が落ちるのは、誰もが実感することではないでしょうか。
また、近年では犯罪者が空き家に忍び込んで住人になりすまし、特殊詐欺で奪った金や覚醒剤などを受け取っている事例(※2)も報告されており、空き家を放置することで意図せずとも犯罪に加担してしまう危険すらあります。
空き家を放置すると固定資産税が6倍に?
空き家を放置するリスクは、これだけにとどまりません。固定資産税が最大で6倍になってしまうこともあります。
その理由は、市区町村が空き家を「特定空き家等」に認定すると、固定資産税の優遇措置が取り消されてしまうからです。では、この優遇措置とは何でしょうか。その仕組みはこうです。
2023年6月現在、小規模住宅用地の場合固定資産税は、面積200平方メートル部分までなら課税標準(税額計算の元になる土地評価額)を6分の1、都市計画税は3分の1にして計算されます。つまり、私たちが住宅用として使っている土地の固定資産税は、住宅用地として優遇された結果、最大で6分の1になっているのです。
しかし、建物を壊して住宅以外の目的に使ったり、「特定空き家等」に認定されたりした場合は、この優遇措置が原則適用されません。すなわち、これまで納めていた税額が最大6倍に上がることになるのです。
今は優遇措置を受けていても、いずれは固定資産税の優遇が受けられない?
では、「特定空き家等」とはどのような空き家でしょうか。
空き家の増加抑制を目的に平成27年(2015年)に施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法」第二条において、以下のように定められています(※3)。
1. そのまま放置すれば倒壊等に著しく保安上危険となるおそれのある状態
2. そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態
3. 適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
4. その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
この定義に当てはまる家屋の持ち主に対して、市区町村は修繕や管理に関する助言、指導を行い、従わない場合は勧告を経て、固定資産税の優遇措置を取り消します。しかし、この状態になってしまうまで放置された空き家はすでに危険な状態です。これまで述べたさまざまな危険を未然に防止する、という点では対策として不十分です。
そこで、2023年6月に固定資産税の優遇措置取り消しの対象を、「特定空き家等」の予備軍(管理不全空き家)にまで広げる法案が国会で可決されました。
この「管理不全空き家」の具体的な定義は今後明らかになりますが、この結果、空き家の持ち主に対する管理義務がより厳しく問われること、そして、従来の「特定空き家等」になる前の段階でも固定資産税の優遇が取り消される可能性があります。
空き家の処分で迷っているときにできることは?
ここまで空き家を放置する多くの危険やデメリットを挙げましたが、一方で高齢や病気で空き家を処分する体力がない、親類縁者の間で空き家の処分や維持の意見が一致しない、そして愛着があって処分できないなど、危険性を分かっていても対処できない場合があります。
そのようなときでも、空き家を放置する前に次の2つを行っておくことをお勧めします。
1. 登記を行う
たとえ空き家の処分が決まらなくても、登記上の所有者を元のままで放置せず、必ず相続登記を済ませておきましょう。
2023年4月より相続登記の申請義務化がスタートし、相続(遺言を含む)により不動産を取得した相続人は、所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならないと定められました。もし正当な理由(例、相続に関する係争がある、申請義務がある相続人が重病である)なく申請をしなかった場合は10万円以下の過料が科されます。
なお、この申請義務は、例えば相続人の間で持ち分が決まらないため本登記ができない場合でもできる、「相続人申告登記」を行えば義務を果たしたと認められます(ただし、いずれは本登記が必要であることに注意が必要)。
また、空き家を実際に処分する際には、現所有者への登記がなされている必要があります。もし長期間、未登記のままで放置すると、その間に相続人が増えて話し合いが難しくなったり、相続人を確定する作業を一からやり直す必要になったり、多くの労力と困難を伴います。
たとえ処分に迷っていても、まずは本登記もしくは相続人申告登記を進めておくのがよいでしょう。
2.空き家に関する支援制度や優遇策を活用する
空き家の解体費用は、家屋の材質や大きさによっては、数百万円に上ることも珍しくありません。もし解体費用で困る場合は、お住まいの自治体に支援制度がないかを調べてみましょう。
例えば横浜市の場合、次のような支援制度があります(※4)。
●空き家を子育てや高齢者支援施設などに改修する場合改修費用を100万円、耐震改修費用を150万円まで補助(ただしそれぞれ対象経費の2分の1まで)
●空き家を解体する場合、20万円まで補助(課税世帯の場合。ただし昭和56年5月末以前の建築確認で、耐震性が低いと判定された2階建て以下の木造住宅であること、などの条件あり)
さらに、相続した空き家を3年以内に譲渡した場合、譲渡所得から3000万円を控除できる制度を使うことで、空き家譲渡にかかる所得税や住民税をゼロまたは大きく減らすことができます。
また、金融機関によっては解体費用の貸し付けを行うところもあるなど、空き家に関する支援の知識があれば、空き家の処分をよりいっそうスムーズに、かつ少ない負担で進めることができるかもしれません。
住宅を放置しないための対策
2018年における日本の空き家は347万戸(賃貸、売却、別荘用住宅を除く。※5)、この30年で約2.7倍(※6)まで増加しています。
この数字からも分かるとおり、空き家の問題は誰もが、いつかは直面しかねない課題です。自身にも、そして他人にも危険がおよぶ空き家を放置しないためには、行政や専門家の力も利用しつつ、常日頃から情報を蓄えておくことをお勧めします。
出典
(※1)消防庁 令和4年(1~12月)における火災の状況(概数) P2 3 出火原因別の火災発生状況 (1)全火災
(※2)警察庁 不動産業者の皆様へ「空き家(空き部屋)が 狙われています!!」
(※3)e-GOV 法令検索 空家等対策の推進に関する特別措置法
(※4)横浜市 空家の活用・改善等で利用できる各種支援制度等の一覧
(※5)総務省統計局 平成 30 年住宅・土地統計調査 P2 「その他の住宅」の戸数(平成 31 年4月 26 日)
(※6)総務省統計局 平成 30 年住宅・土地統計調査 P7 「付表1-1 居住世帯の有無別住宅数-全国(昭和38年~平成30年)」その他の住宅における平成30年(3474戸)と昭和63年(1310戸)の比較
執筆者:酒井 乙
CFP認定者、米国公認会計士、MBA、米国Institute of Divorce FinancialAnalyst会員。
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