相続を「争族」にせず、穏やかに進めるための知恵
ファイナンシャルフィールド / 2018年8月18日 11時0分
高齢の親を抱えている世代にとっては、相続は頭に痛い問題です。 実家の財産はどのくらいか、親は相続をどう考えているのか、できれば元気なうちに聞いておきたいと考えていても言い出しにくいのが現実です。 とくに兄弟姉妹の数が多いとなおさらです。兄弟同士の仲がいいからといって「争族」にならないとは限りません。
「遺言状書いてください」はNG
親から子どもたちへ、財産額がどのくらいで死後の分け方まで提示されていれば、相続問題の解決は比較的容易です。しかしそうではなく、親の財産が把握できない場合は、非常に手間がかかります。
相続発生後、相続税の申告には一定の期限があり、その間に手続きを進める必要があるのです。また、申告が遅れると不利な条件も出てきます。とくに地方で代々続いた旧家などでは、親自身に強固な考えがあっても、なかなか子どもたちに、相続の考えを伝えないケースも多いようです。
そのため、被相続人となる親の気分を害すことなく、相続についての話を進めたいものです。その際「わが家の財産額はどのくらい?」とか「早く遺言書を書いておいて欲しい」などと、単刀直入に聞くことは避けたほうがいいでしょう。
親しい友人の親が亡くなったことなどを例に、相続の意向を聞こうとしても、親の側から見れば、「早く死んで欲しいのか」と勘違いをして、腹を立てる可能性すらあります。
最悪の場合、相続の話が進むどころか、逆に相続の話が一切出来なくなってしまうからです。
コトバを選びソフトに誘導する
親の立場に立ってみても、子どもたちに一切財産の中身を知らせたくない、と考える訳ではありません。自分に万が一のことがあることを考えれば、大まかな中身、自分の希望などは伝える気はあるはずです。
そのため、単刀直入な聞き方ではなく、「地震や台風に備えて、預金通帳・印鑑などの置き場所に問題はないの?」とさりげなく話を切り出し、実際の保管場所を聞き出すことができるかもしれません。
また「僕も終活の一環でエンディング・ノートつくり始めたよ」と言って、それを見せて関心を引くことができれば、親も遺言書をつくることを考えてくれるかもしれません。
また将来住む予定がないため、現在親の住んでいる家を将来処分したいケースなどでは、「僕はこの家には住まないよ」など、親が気にするような考えは伝えずに、「この家に何年住んだの?」とか「この家やこの地域は住みやすい?」などと、親からいろいろと家の状況を聞き出すことで、それが直接・間接に相続時に参考になるはずです。
単刀直入な聞き方でなく、慎重にコトバを選ぶことで、親の側も「そろそろ自分も考えよう!」と話に乗ってくるかもしれません。親が相続の話に真剣に乗ってきてくれれば一安心です。親の立場から「相続の手続きも手間がかかり大変だね」などという気持ちになれば、話が進みやすくなるといえます。
兄弟姉妹は他人、しかし節度も大切
兄弟姉妹がおらず、子ども1人が相続する場合、混乱は少ないと思いますが、兄弟姉妹が多いとそれだけ大変です。いかに仲にいい兄弟であっても、相続に関しては他人という前提で行動することが必要です。同時に、両親のいずれかが健在の場合、まずもって親の意向を聞き、それを尊重する必要があります。
「僕は長男だから少し多く分けて」「私は認知症の親の面倒を見た分を考慮して」「兄貴だけが医学部に行かせてもらって不公平だ」といった個々の主張が飛び出し、他の兄弟より多くの財産分与を求め、決められた法律に沿わなくなるからです。
とくに離れて生活している疎遠な兄弟同士では、現在の生活環境や収入も大きく違っています。お互い自分の主張を抑えて発言することが大切になります。
そのため、まず親に対して、幼い頃の子ども同士の仲がどうだったか、それぞれの子どもをどのように育てたいと考えていたか、などを子ども全員で聞き、和やかな雰囲気をつくることができれば、相続の基本を確認できるかもしれません。
兄弟姉妹だけで話し合う場合も、親と同様単刀直入な発言は避けたほうが得策です。当然親の意向も無視できない訳ですから、それを尊重することが大前提です。
もし生前贈与を考える場合はなおさらです。親が生きている段階から兄弟同士が、争いの種があっては、親の死後の相続がより大変になります。
なるべく兄弟姉妹全員で話し合う
子ども同士は数人が結託して、同じ主張をするのは避けたほうがいいでしょう。重要な話し合いになればなるほど、兄弟姉妹全員が集まり、なるべく穏やかに話し合うことが最善です。
例えば長男が強硬な姿勢を見せるようであれば、他の兄弟姉妹がそろって反対意見を述べればいいと思います。その際、法定相続に関する知識を共有していることが大切です。
とくに「長男が多く相続」という考え方は現在の法律には沿っていないため、配分を変更するには、多少なりとも合理的理由が必要になります。また親の生前に、誰かが特定の贈与を受けていることなども点検しましょう。贈与内容を話し合いのテーブルに乗せ、全員で納得した結論が出るよう意識したいものです。
それぞれの配偶者が、話し合いに参加し発言することも極力排除すべきです。とくに配偶者は自分の連れ合いに有利になることだけに執着しやすいからです。
「キミはおとなしいから代わりに言う」といった姿勢は、話し合いを混乱させるだけです。配偶者が参加することで兄弟同士ならまとまる話がまとまらず、混乱に拍車がかかる可能性が高くなるからです。こうした事態は避けるようにします。
Text:黒木 達也(くろき たつや)
経済ジャーナリスト。大手新聞社出版局勤務を経て現職
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