「所有者不明土地」問題とは? 民法のルール変更点を確認しよう
ファイナンシャルフィールド / 2023年8月27日 1時20分
平成29年国土交通省調査によると、全国のうちで「所有者不明土地」の占める割合は、おおむね九州本島の広さに匹敵し、国土の約22%を占めるといわれています。 所有者が不明のままで土地が管理されずに放置されたことにより、公共事業や復旧事業が円滑に進まない、土地の取引や活用が阻害され、近隣の土地にも悪影響を与えるなどのさまざまな問題が発生しています。 この記事では、これらの問題を踏まえ、土地利活用をより円滑にすることを目的とした民法改正(令和5年4月1日施行)について確認してみたいと思います。
新たな財産管理制度の創設
所有者不明などの理由から管理されず、長年放置されてきた土地や建物は、近隣に悪影響を及ぼすなどの問題が発生しています。このような土地・建物の管理に特化した新たな財産管理制度が創設されました。
(1)所有者不明土地・建物の管理制度
調査しても所有者が判明しない、また、判明してもその所在が不明で連絡が付かない土地・建物について、その利害関係人(悪影響をこおむっている隣人など)が地方裁判所に申し立てることで、その土地・建物の管理を行う管理人を選任してもらうことができるようになりました。
管理人には、事案に応じて、弁護士や司法書士などの専門家が選任されます。管理人は、裁判所の許可を得ることで、所有者不明土地等の売却もできるようになります。
(2)管理不全状態にある土地・建物の管理制度
所有者が判明していても管理が不適当であることによって、他人の権利や利益が侵害されるようなとき、同様に、裁判所への申し立てにより管理人を選任してもらうことができます。
共有制度の見直し
共有状態にある不動産について、変更行為(増改築や売却など)を行う場合には、原則、共有者全員の同意が必要です。今回の改正では、共有物の利用や共有関係の解消をしやすくする観点から、さまざまな見直しが実施されています。
(1)共有物の軽微な変更の意思決定
共有物の変更には、原則、共有者全員の同意を必要とすることから、軽微な変更(外観や構造または機能や用途の著しい変更を伴わないもの)についても、例え、一人でも反対する共有者がいると実施できませんでした。このことが不動産の円滑な利活用を妨げる原因となるとの理由から、軽微な変更に限っては、共有者の持分の価格の過半数で決することができるようになりました。
(2)所在等が不明な所有者がいる場合の管理行為、変更行為
所在等が不明で連絡が付かない共有者が1人でもいると、共有者間の意思決定が阻害されてしまうことが問題とされていました。これを踏まえ、他の共有者が裁判所へ申し立て、決定を得ることで、管理行為については所在等が不明の共有者を除いた残りの共有者の持分の過半数で、変更行為については残りの共有者全員で意思決定できるようになりました。
また、共有関係を解消しやすくするため、所在等が不明の共有者以外の共有者が裁判所に申し立て、その決定により、一定のルールに従って所在等が不明の共有者の持分を取得したり、譲渡したりすることもできるようになりました。
長期間放置時の遺産分割ルールの創設
相続が開始しても、遺産分割がなされずに共有状態が長期間放置されると、その間に新たな相続が発生した等の理由で共有する相続人の数が増大し複雑化するなど、遺産の管理や処分が困難となる原因となっていました。
今回新たなルールとして、相続の開始(被相続人の死亡)から10年を経過した遺産分割は、原則、生前贈与加算や寄与分などの具体的相続分を考慮せず、法定相続分または指定相続分(遺言)によって画一的に分割されることになりました。この改正は、施行日前に開始した相続分にも適用されますが、施行時から5年間の猶予期間が設けられています。
まとめ
民法改正(令和5年4月1日施行)では、他にも「相隣関係の見直し」として、隣地使用権、ライフラインの設置・使用権、越境した竹林の枝の切取りなどのルールについても、見直しや明確化が図られています。
さらに、令和6年4月からは相続登記の義務化が開始されます。ずっと前に親から相続した地方の実家の土地や建物が、放置されたまま兄弟などとの共有状態となっていることを思い出した方もいるかもしれません。
相続登記の義務化について、正当な理由なく違反した場合には、10万円以下の過料の対象となります。少しでも思い当たる方は、まずは登記事項証明書を取得するなど現状をしっかりと把握してみましょう。
執筆者:高橋庸夫
ファイナンシャル・プランナー
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