少子化対策に新たな制度!? 「こども誰でも通園制度(仮称)」について考えよう!
ファイナンシャルフィールド / 2023年8月28日 6時0分
![少子化対策に新たな制度!? 「こども誰でも通園制度(仮称)」について考えよう!](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/financialfield/financialfield_229675_0-small.jpg)
価値観や考え方が変わることで、私たちを取り巻く社会環境も変化します。また、社会環境の変化により、私たちの価値観や考え方が変わることもあります。 チェルノブイリ原発事故が起こった1986年、ドイツ人社会学者のウルリヒ・ベックは、「危険社会 新しい近代への道」(1998年、法政大学出版局)で、産業化がくしくも「個人化」を誘発したと述べています。 豊かになりたいと願うことが、効率的、かつ経済合理的な社会構造を生み出し、その結果、従来の産業基盤や社会構造を変化させ、人々のつながりや連帯性が失われていく個人化という問題を社会的なリスク(不確実性)であると指摘しました。 国や地方自治体の政策はおおむね、価値観や考え方と社会環境の変化に対応するためのもので、特に現在、高い関心が向けられている少子化対策は、個人化という現象が社会問題と捉えられた結果と考える必要があります。
国の政策は全体最適を行うための手段
かつてはライフプラン(人生設計)を描く際、学校を卒業後に就職、結婚して家庭を持ち、子どもが生まれてマイホームを購入、そして定年退職後はゆとりある老後を過ごし、家族にみとられ人生の幕を閉じる、といったライフコースが一般認識として共有されていました。
しかし、時代を経て産業構造や社会環境が変化し、このようなライフコースは必ずしも一般的であるとはいえないと私たちは捉えるようになりました。人生観や家族観、労働観の多様化は、まさに社会が個人化に向かっていることを表しています。
これは同時に、国の用意する政策メニューがよりきめ細やかに個人に向けられる結果、政策面における国全体としての最適化、つまりバランスを整えることが非常に難しくなるという新たな課題を提示しています。
人の価値観や考え方が社会環境を変え、その環境のなかで私たちの行動も変化します。国が行う政策は、ある意味、私たちと社会環境の間のバランスを取るために働きかける手段といえます。
こども誰でも通園制度(仮称)の政策目的
国の少子化対策は、社会全体のバランスを整えるためのものと理解する必要があるでしょう。
例えば、政府が少子化対策の実現に向けて掲げている「こども未来戦略方針」では、「こども誰でも通園制度(仮称)」を創設し、いわゆる「孤立した育児」という問題の解決に取り組もうとしています。
この制度は保護者が保育園に子どもを預ける際、毎月一定時間の利用可能枠までは、就労要件を問わず、時間単位で柔軟に利用できるようにするというものです。
保護者の就労要件を問わないという点で、子どもが誰でも通園できることが強調されていますが、「孤立した育児」から起こる育児疲れ、育児ノイローゼなどに対応することが政策目的として想定されています。
育児が孤立する背景の一つが、産業化による地方から都市部への労働移動です。例えば地方出身者の場合、地元にある企業よりも都市部の企業のほうが収入など待遇の面で魅力を感じ、また都市部のほうが生活するうえで利便性が高く、より良い暮らしを享受できると考えるのは自然なことでしょう。
その反面、移り住んだ都市部では親や兄弟姉妹といった身内のほか、友人・知人など頼れる人も限られると考えられます。
特に子育てを行う場合、身近な人に頼ることが難しくなるため、夫婦のどちらか一方の家事・育児の負担が大きくなるケースがありますが、「孤立した育児」はこのような環境の下で起こりやすい社会現象といえます。
こうした子育て世帯が地域社会で広がりを見せているということは、一方で近所付き合いの希薄化、地域社会における教育機能の低下、ボランティア活動など多世代間の交流に基づく地域活動の低迷など、地域の連帯力や結束力が多方面で弱まっているとも考えられます。
産業化により地方から都市部への労働人口の移動が広がった結果、個人化が進み、地域社会が変化していくなかで、子育てを行うための環境を整備し、すべての子育て世帯への支援を強化して社会をより良い方向に改善することが、「こども誰でも通園制度(仮称)」の政策的な狙いとなっています。
ライフプランの作成と政策活用の関係
「こども誰でも通園制度(仮称)」は、ライフステージにおいては乳幼児の子育て期にある家庭を支援するための制度といえます。ライフプランの構築段階としては、今後の働き方なども踏まえて、どのように子育てしていくかを模索する分岐点に位置します。
子どもをどう育てるか、また子育てと仕事の両立は、多くの家庭にとって共通の課題といえます。
例えば、夫と妻のどちらかが働きに出て、どちらかが子育てを行う専業主婦(主夫)世帯になるというライフコースを選ぶ場合、子育てで頼れる程度の人間関係がなければ「孤立した育児」に直面するリスク(不確実性)も高まると考えられます。
政府が行う政策は往々にして事後的な性格を持ちます。「孤立した育児」という社会問題に対する施策として「こども誰でも通園制度(仮称)」を創設するという動きは、問題解決に向けた事後的な取り組みといえます。
ライフプランは本来、人生で起きる出来事をおおよそ想定したうえで描きます。そのため、子育て期において選んだライフコースによって生じるかもしれない「孤立した育児」という負の側面についても、あらかじめ考えておく必要があります。
こうした意味でもライフプランは、ある問題に対する予防的な対策としての役割を担っています。そして問題を予防できなかった場合に、政策という事後的な対策を家庭内に取り込んでいきます。
まとめ
「こども誰でも通園制度(仮称)」については肯定的に受け取られる一方で、「本当に必要な政策なのか?」「専業主婦(夫)世帯なら子どもの世話は家で見られる」「保育園も人手不足なので、保育士の数を増やさないと実現できない」など、批判的な意見もあるでしょう。
この制度の創設は、冒頭で述べた個人化という社会的なリスクについて、どう対応するかという一つの処方箋に過ぎませんし、賛否両論があるのも重要な視点かもしれません。
しかし、孤立化する人と、地域の連帯や結束が弱体化する環境のなかで発生しているのが「孤立した育児」であり、社会問題として子育て支援を強化するのが「こども誰でも通園制度(仮称)」と認識する必要があります。
執筆者:重定賢治
ファイナンシャル・プランナー(CFP)
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