まだ夏なのにどうして? 突然「社会保険料」が上がる原因について解説
ファイナンシャルフィールド / 2023年8月30日 5時0分
![まだ夏なのにどうして? 突然「社会保険料」が上がる原因について解説](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/financialfield/financialfield_230376_0-small.jpg)
毎年秋頃になると、社会保険料が変わっていることに気付く人もいるでしょう。ところが、なかには「先日、給与明細書を見たらもう社会保険料が上がっていた」という人もいるかもしれません。一体なぜ、保険料が変わるのでしょうか? 社会保険料が上がるきっかけは、今春の鉄道各社の運賃値上げが原因かもしれません。例え片道数十円の値上げでも、社会保険料を変える「随時改定」のスイッチを押すことがあるのです。本記事では、通勤手当と社会保険料について解説します。
社会保険料はどう決まる?
はじめに、社会保険料がどのように決まるか見ていきましょう。
年に一度の「定時決定」
社会保険料は、原則として毎年1回、再計算されます。4月から6月までの報酬をもとに、9月からの新しい保険料を決めるのです。これを、社会保険料の「定時決定」と言います。
定時決定で決まった新しい社会保険料は、毎年9月分から翌年8月分まで適用されます。通常、9月分の社会保険料は、10月に支払われる賃金から天引きされるため、会社員が「ああ、社会保険料が変わったな」と実感するのも、毎年秋が来る頃でしょう。
賃金の変動による「随時改定」
ただし賃金は、年間を通じて同じとは限らず、年の途中で変動することがあります。賃金が変わったのに、社会保険料が従前のままでは、もしもの場合の給付金額が見合わなかったり、社会保険料を差し引いた手取り額が少なすぎたりと、不都合が生じます。
そのため、社会保険には「随時改定」という制度があります。これは年の途中で賃金が変動した際に、一定要件のもとに社会保険料を変更するというものです。「秋でもないのに社会保険料が上がっていた」というケースは、この随時改定によるものです。
通勤手当の変動も要因になる
随時改定は、次の3つの条件がすべて揃ったときに行われます。
●昇給または降給等により、固定的賃金が変動した
●変動した月以後3ヶ月間に支払われた賃金の平均月額が、これまでの標準報酬月額と2等級以上の差が生じた
●3ヶ月すべて、支払基礎日数が17日以上だった
「固定的賃金」とは、基本給や役職手当、固定残業代、家族手当、通勤手当など、支給額が固定されている賃金のことを言います。固定的賃金が変動するのは、昇給や降給により月給単価や時給単価が変わったとき、扶養家族の人数が増減し家族手当が変動したときなどです。
そして通勤手当の増減も、固定的賃金の変動に当たります。引っ越しなどで通勤区間が変わった場合だけでなく、今春のように鉄道会社の都合で運賃が変わった場合でも、該当するケースがあるのです。
小さなきっかけでも起こる随時改定
とは言え、1日あたりの運賃がたった数十円変わるだけで、必ずしも随時改定が行われるわけではありません。随時改定になるのは、賃金の平均月額や支払基礎日数といった他の2つの条件にも該当した場合です。
つまり、通勤手当が変わってから3ヶ月の間にたまたま残業が多かったり、多額の歩合給が出たりして賃金が高くなり、なおかつ支払基礎日数が17日以上なければ、随時改定は行われません。ただ、偶然であってもその3つの条件が揃った場合には、「鉄道運賃が少し上がっただけ」でも結果として社会保険料の随時改定につながります。
社会保険料はいつ変わる?
社会保険料が変わるのは、賃金が変動した月から数えて「4ヶ月目から」です。例えば4月に賃金が変動した場合は、7月から新しい社会保険料になります。そして、新しい社会保険料が給与に反映されるのは、さらにその翌月ということが多いでしょう。
注意が必要なのは、月の途中で賃金が変動した場合です。このときは、変動があった月は除外し、次の月を「1ヶ月目」としてカウントします。例えば、賃金計算期間が「毎月21日から翌月20日」の会社で、4月1日に通勤手当が変わった場合は、3月21日から4月20日までの1ヶ月は除外します。そして、4月21日から5月20日までを「新しい通勤手当が適用される1ヶ月目」と考えるのです。
社会保険料はいくら変わる?
社会保険料の変動額は、その人の標準報酬月額や賃金の増減額によって異なるため、一概に「いくら変わる」とは言えません。そのため、あくまでも参考ではありますが、東京都の健康保険料額表をもとに例を挙げてみましょう。
標準報酬月額20万円の人が、随時改定により標準報酬月額24万円になった場合は、等級が2つ上がり、社会保険料(健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料)の合計額は、約6000円増加します。また、標準報酬月額36万円の人が41万円になった場合だと、等級が2つ上がり、社会保険料の合計額は約7500円増加します。
物価高の昨今、社会保険料の増額は避けたいと思う人も多いかもしれませんが、自分の報酬に合った保険料を支払うことで、将来の年金額等につながると考えれば、それほど悪いことではないかもしれません。また随時改定は、反対に賃金が減少した場合にも自分の報酬に合った保険料に調整される制度でもあります。
まとめ
通勤手当などの少額の賃金の増加が、社会保険料の随時改定のきっかけになることもあります。社会保険料は毎年9月に変わりますが、今春の鉄道各社の運賃値上げが原因で、今年は9月を待たずに社会保険料が変わっているケースもあるかもしれません。日頃はあまり意識しないかもしれませんが、ときどきは給与明細書で社会保険料を自分がいくら払っているのかチェックしてみてください。
出典
日本年金機構 随時改定(月額変更届)
日本年金機構 標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集
執筆者:橋本典子
特定社会保険労務士・FP1級技能士
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