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コロナ禍を言い訳にリストラ!?「2025年問題」を前に、IT業界で「リストラ敢行」がささやかれる背景を解説

ファイナンシャルフィールド / 2023年9月4日 10時20分

コロナ禍を言い訳にリストラ!?「2025年問題」を前に、IT業界で「リストラ敢行」がささやかれる背景を解説

コロナ禍は日本の雇用状況に大きな影響を及ぼしました。厚生労働省が、2020年から2023年にかけて都道府県労働局や公共職業安定所に対して行った聞き取り調査によると、初期の2020年には特に全国の事業所で雇用調整の検討が行われており、2020年7月には実に2万5262カ所の事業所が雇用調整の可能性がある、つまりリストラを検討しているという数値が発表されていました。   2023年になってコロナウイルス感染症が5類に以降されたためか、同調査によると2023年3月にはリストラを検討しているという企業は110カ所まで減りました。リストラの嵐は収まったかに見えますが、実は65歳雇用確保義務化が実施される2025年に向けて、コロナ禍を理由にリストラの実施が懸念されているのがIT業界です。   本記事では、実施が検討されている理由と背景を解説します。

リストラ実施には理由が必要

従業員を解雇する場合は「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」を兼ね備えた、正当な理由が必要です。従って円満にリストラ(リストラクチャリングの略、日本では主に人員整理の意味で使用)を実行するためには、会社と従業員がお互い合意して雇用契約を解消する「合意解約」に導く必要があります。
 
リストラの多くは、会社の経営上の理由で実施されます。従業員が経営不振になった理由について納得しないと「合意解約」に導くことが難しくなるわけですが、自然災害など外的要因に対しての理解は受けやすい傾向があります。
 
企業側にとって、コロナ禍の余波がまだ残っている今が最後のチャンスであるといえるのです。
 

コロナ禍でリストラを実施した大手企業

2022年から2023年にかけて、アメリカでは大手IT企業で大規模なリストラが実施されました。その数は、2022年で約16万人、23年は2月3日までに約8万7000人が解雇されています。
 
コロナ禍でリモート会議が浸透したり、ECサイトでの購買が増えたりといった特需が起こり業績を伸ばしていたIT大手企業ですが、日常を取り戻し始めた2022年の後半頃からその成長が鈍化し、軌道修正を余儀なくされたからです。
 
その余波はIT業界全体に波及しています。例えば米IBM(International Business Machines Corporation)は、2023年1月に従業員の1.5%にあたる約3900人の人員を削減する方針を発表しました。その動きに呼応するかのように、日本アイ・ビー・エム株式会社でも退職勧奨が行われています。
 
日本においても、コロナ禍において特需を受けたインターネット業界の失速現象は起こっています。インターネット上に繰り出された新サービスの実施を下支えしていた日本のIT業界においても、今後業績が悪化する企業が出てくる可能性は高いと言えます。
 
コロナ禍によるリストラは、日本社会全体においては終息傾向ですが、IT業界にはこれから実施される可能性が高いのです。
 

背景にある2025年問題

大手IT企業がリストラを行いたいと考える背景として、2025年問題があげられます。これは、2025年4月から全ての企業に対して65歳までの雇用が義務づけられることを指しています。
 
高年齢者雇用安定法第9条には、高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、定年年齢を65歳未満としている事業主に、「高年齢者雇用確保措置」の実施が義務づけられています。ただし、経過措置として、2013年3月31日までに継続雇用制度の対象者を限定する基準を労使協定で設けている場合は、段階的な対応が認められていました。
 
また、従業員の年齢別構成の適正化による組織活力の維持を目的として、早期退職募集制度が同じタイミングで創設されたことにより、IT業界を含めた多くの大手企業はこの経過措置と早期退職募集制度を併用し、年齢の高い従業員の削減に取り組んできました。
 
しかし、経過措置は2025年3月に終了します。それ以降、企業には65歳まで継続雇用を希望する従業員について「希望者全員雇用」の義務が発生し、これが大手IT企業が2025年3月までにリストラを敢行したい背景の一つといえます。また、2021年4月には、高年齢者雇用安定法の一部が改正され、さらに70歳までの「就業機会確保」の努力義務が定められました。
 
従業員数千人を抱えるような大企業では、社員の在籍年数を1年伸ばすと数百人単位で従業員数が増えてしまうこととなり、新卒採用を始めとした若年層の採用に大きな影響が生じてしまいます。
 
早期退職募集制度だけでは従業員削減の目標数には届かなくなってきているのが現状であり、状況を打開するためにリストラもやむなしと考える企業が増えてきています。
 

AIの発達に伴う雇用の消失

2023年5月、経済雑誌Forbesに掲載された記事には、米IBMのCEOであるアービンド・クリシュナ氏がブルームバーグのインタビューに対して述べた内容が記載されました。
 
要約すると下記のような内容となります。

1.週の所定労働時間が20時間以上
2.雇用期間が1年以上見込まれる
・AI(人工知能)で代替可能な人事や経理など管理系職種(約2万6000人)の採用を打ち切る
・5年以内に管理系職種の約3割(約8000人)はAIに代替えできると考えている。

将来的には、AIへ代替される範囲がサービス提供やデリバリーの部門に拡大することはほぼ間違いないでしょう。
 

「2025年問題」が今後の雇用状況に与える影響を注視しておきたい

IT業界で、「2025年問題」を前にリストラ敢行がささやかれる理由と背景について解説してきました。その際、企業にとってはコロナ禍の余波がまだ残っている今こそが、「コロナ禍」を一種の言い訳にしてリストラを行う最後のタイミングとも言えます。
 
リストラを行う際、「会社の業績が悪い」という理由では経営陣への責任が追及されてしまいます。「AI化による合理化」という理由であれば、人間より機械を大切にするのかという感情的な抵抗を受けるでしょう。しかし「コロナ禍だから仕方がない」と言われたら、どのように感じるでしょうか。
 
本当に「コロナ禍」が理由であれば仕方がないのかもしれません。しかし、リストラの理由は本当に「コロナ禍」が理由なのでしょうか。「2025年問題」という企業にとっては雇用に関する負荷が増えるタイミングで、企業の雇用に対する考え方や施策がどう変わるのか、雇用状況にどんな影響を与えるのかについて、従業員は注視しておくことが必要です。
 

出典

厚生労働省 新型コロナウイルス感染症に起因する雇用への影響に関する情報について
厚生労働省 高年齢者の雇用ホームページ
厚生労働省 高年齢者雇用安定法第9条における高年齢者雇用確保措置
 
執筆者:老田宗夫
キャリアコンサルタント

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