引っ越しの際、敷金が還ってこなかったけどこれって「違法」?
ファイナンシャルフィールド / 2023年9月14日 8時30分
![引っ越しの際、敷金が還ってこなかったけどこれって「違法」?](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/financialfield/financialfield_233761_0-small.jpg)
賃貸物件からの退去の際に多いトラブルとして、敷金の問題が挙げられます。 敷金に関連するトラブルは減少傾向にあるとはいえ、2022年において独立行政法人国民生活センターに寄せられた、賃貸の原状回復に関する相談の件数は8759件と、非常に多いです。筆者の下にも「敷金が還ってこない」という相談は多く寄せられます。 そこで、敷金が還ってこなかった場合、それは違法なのか、そしてどう対応すればよいのか解説します。
敷金が還ってこないことが、直ちに違法とは限らない
敷金は返還されることが原則です。しかし、それは未払いの賃料や物件に故意過失で与えた損害の賠償分などを差し引いて、残額がある場合の話です。つまり、敷金は原則、未払い賃料もなく通常どおり利用していれば、全額還ってくるものになるわけです。
ただし、契約書の内容によっては特約が存在しています。それによって、通常の利用による物件の損耗(通常損耗)や退去時の清掃費用などを含めた原状回復費用などについても、敷金から引かれるようになっていることもあります。その結果、未払いの賃料や故意過失がなくとも、敷金が還ってくるのは一部のみ、下手をすれば1円も還ってこない、ということもあり得ます。
契約内容は当事者が自由に決められるのが原則であるため、敷金の一般的な性質と異なる「清掃費なども借主負担として敷金から差し引く」という契約も、違法ではなく有効になりうるのです。
ガイドラインに反しているのになぜ有効?
国土交通省の提示するガイドラインどおりに運用すれば、もっと多くの敷金が還ってくるはずなのに、それに反する内容で敷金が精算されて、1円も還ってこなかった……こんな状況も、基本的には違法ではありません。
ガイドラインはあくまでも参考案のようなもので、法令ではありません。先にも述べたように、契約内容は当事者が合意している限り、基本的には自由であるからです。契約書に記名・押印し、契約が成立している以上は「適切に合意があった」とみなされ、基本的に借主負担がガイドラインより重い契約も有効なのです。
ただし、著しく不当であるなどの場合には、敷金から原状回復費用などを差し引くことの一部ないし全部が認められないこともあります。参考までに、敷金から原状回復費用を差し引くとする特約の一部ないし全部が否定された例には、次のようなものがあります。
●通常損耗の範囲が賃貸借契約書に明記されていないことから特約の有効性を否定し、敷金42万5000円のうち29万5960円の返還が命じられた事例
●原状回復の特約について、故意や過失など通常とは異なる使用での劣化などに限る内容の特約と判断され、敷金24万円全額が返還された事例
●「まっさらに近い状態」への原状回復にはその必要性など客観的な理由を要し、かつ暴利でないなどの条件が必要であるなどして、敷金19万8000円全額が返還された事例
戻ってくる敷金の額に不満があるときは?
どうしてもガイドラインと異なる内容で処理され、還ってくる敷金の額に納得がいかないという場合、貸主に「ガイドラインどおりの処理をしてほしい」とお願いしてみてください。
契約内容は自由とはいえ、明確に法令に違反する、あるいはグレーゾーンであるというような場合など、個別具体的な事情によってはガイドラインに近い形で処理をしてもらえる場合があります。その際は証拠を作るという意味でも、電話であれば録音をしたり、文書ならメールや内容証明郵便などを送ったり、こちらの主張内容が残るような方法をおすすめしておきます。
また、それでも納得のいく結果とならない場合、弁護士や行政書士といった専門家や、独立行政法人国民生活センターといった公的機関に相談することで、納得できる結果となる場合もあります。
敷金のトラブルで泣き寝入りはしないこと
引っ越しによって賃貸物件から退去する際、敷金が還ってこないことは必ずしも違法であるとは限りません。しかし、こちら側からの請求によって、全額でなくとも一部でも還ってくることも珍しくはありません。
もし、返還される敷金の額に納得がいかないときは、ガイドラインと契約書をよく読み、貸主に交渉したり、専門家へ相談したりして解決を図るとよいでしょう。
出典
独立行政法人国民生活センター 賃貸住宅の原状回復トラブル
国土交通省 原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)
国土交通省 原状回復をめぐるトラブルとガイドライン 参考資料
執筆者:柘植輝
行政書士
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