相続法が変わったって知ってましたか? 先立たれた夫からの生前贈与について、どう変わったのか
ファイナンシャルフィールド / 2018年8月29日 9時0分
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2018年7月、「相続法」が大幅に改正されました。もっとも相続法という法律はなく、この改正法は、「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」と、「法務局における遺言書の保管等に関する法律(遺言書保管法)」のことをいいます。 改正法の内容は、遺産分割・遺言・遺留分制度等の見直し、親族の貢献を考慮する制度や遺言書保管制度の創設など、多岐に亘ります。今回は、配偶者の死亡によって残された生存配偶者の保護につながる生前贈与について説明します。
生前贈与を受けた配偶者の相続分はどうなる
相続人と相続分の割合は、民法で定められています。たとえば、夫が亡くなり相続人が妻と長男・長女の場合、法定相続分は妻2分の1、長男・長女はそれぞれ4分の1となります。ただし、生前贈与があった場合は、持戻し免除の意思表示がなければ、その分を特別受益として相続財産に持ち戻して実際の相続分を計算することになります。
上記のケースについて、分かりやすくするため単純化し、亡き夫の現存する遺産は銀行預金3000万円のみであるものの、2年前に夫名義の自宅マンションを妻に贈与していて、その不動産価値は贈与時も現在も3000万円で変わらないものと仮定します。このとき、相続開始時(死亡時)の遺産である銀行預金だけを法定相続分の割合に従って分割すると、次のようになります。
妻 3000万円×1/2=1500万円
長男 3000万円×1/4=750万円
長女 3000万円×1/4=750万円
しかし、妻は生前贈与で自宅を取得しているため、夫が遺言で持戻し免除の意思表示をしていない場合、民法の法定相続分に従えば、これを特別受益として相続財産に持ち戻して計算することになります。
みなし相続財産の額=相続開始時の財産3000万円+特別受益3000万円=6000万円
各自の具体的相続分
妻 6000万円×1/2=3000万円
長男 6000万円×1/4=1500万円
長女 6000万円×1/4=1500万円
ただし、妻は生前贈与で自宅マンションを取得しており、相続開始時に現存する財産を分割する際にはその分を差し引くことになるため、遺産分割による取得分は3000万円-3000万円=0円となってしまいます。生前贈与がなければ相続財産は6000万円あったはずなので結果的に平等ですが、夫が妻の老後の生活を配慮して生前贈与したとすれば、その意思が反映されたとはいえないでしょう。
実際このようなケースでは、節税対策として「贈与税の配偶者控除の特例」という制度が活用されています。
婚姻期間が20年以上の配偶者に対し、居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭の贈与をしても、この特例の適用を受ければ、2000万円までは贈与税が非課税となるからです。さらに、贈与税の基礎控除110万円も併用すれば、2110万円までは贈与税がかかりません。
婚姻期間20年以上の配偶者の相続分は
遺産分割協議では、相続人全員の合意があればどのように分割してもよいので、相続開始時に現存する銀行預金を妻が1500万円、長男・長女が750万円ずつ取得することも、3人で1000万円ずつ分けることも可能です。実際、このように配偶者への生前贈与は考慮しないで遺産を分割するケースもあります。
しかし、亡くなる2年前という比較的記憶に新しい時期に妻への贈与があったわけで、このケースのように生前贈与が相続開始時に近いほど、贈与されなかった他の相続人に不満が生じやすくなります。さらに、配偶者と子の仲が良いとは限らず、遺産分割協議がまとまらないことも少なくありません。そうなると配偶者の老後の生活にも影響が生じます。
そこで、婚姻期間が20年以上の夫婦間については、居住用不動産の遺贈または贈与がされたときは、持戻し免除の意思表示があったものと推定し、被相続人の意思を尊重した遺産分割ができるように改正されました。この改正は、次の要件を満たした者が対象になります。
(1)特別受益者が被相続人の「配偶者」であること
(2)贈与・遺贈の対象物が「居住用に供する建物またはその敷地」であること
(3)贈与・遺贈の時点で婚姻期間が20年以上経過していること
従って、改正法施行後に相続が開始された場合の法定相続分は、次のようになります。
妻 3000万円×1/2=1500万円
長男 3000万円×1/4=750万円
長女 3000万円×1/4=750万円
妻が生前贈与で取得した自宅は相続財産に持ち戻さなくてよいので、妻は実質的に自宅マンション3000万円と合わせて4500万円の財産を受け継いだことになり、妻の老後に配慮したいという夫の意思は実現されることになります。
なお、この改正法が施行されるのは、原則として、公布の日(2018年7月13日)から1年を超えない範囲内において政令で定める日とされており、施行日前の贈与については現行法が適用されます。
改正相続法では、ほかにも新たな制度の創設や既存の制度の見直しが多く盛り込まれています。次回は、配偶者の居住権を保護するための方策について説明します。
Text:FINANCIAL FIELD編集部
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