一生懸命残業してるのに、会社が「無断残業だ」など言って残業代を払ってくれません…タダ働きするしかないのでしょうか?
ファイナンシャルフィールド / 2023年12月3日 2時10分
![一生懸命残業してるのに、会社が「無断残業だ」など言って残業代を払ってくれません…タダ働きするしかないのでしょうか?](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/financialfield/financialfield_251605_0-small.jpg)
会社の残業代支払い拒否にはさまざまなパターンがあります。例えば「無断残業だ」「だらだら残業だ」「時間外上限枠を超えている」「見習い期間中だから残業代は出せない」「自発的な研修の時間だ」といったものです。これらの会社の理屈には、それぞれ問題があることを解説します。
労働契約・労働時間の原則を確認しよう
はじめに原則を確認しましょう。
労働者(社員)は会社に労務を提供し、対価として賃金を得ます(労働契約法第2条1項など)。労働時間は会社の指揮命令のもとで労働した時間です。労働基準法では、週40時間、1日8時間という「法定労働時間」、および週1日以上の休日付与が定められています。法定労働時間を超えた残業や休日労働については、会社は割増賃金を払うことが義務づけられています(労働基準法36条、37条)。
それでも、会社が割増賃金を払わない理屈とはどのようなものでしょうか。一つひとつ確認してみましょう。
「無断残業だ」「自発的な残業だ」と割増賃金が支払われない
「就業規則で、残業をするには上司の許可が必要と定めている。無許可の残業は、社員が勝手に自発的にしていたものだ」というパターンです。
たとえ残業許可手続きを会社が定めていても「実際には黙示の承認があった(見て見ぬふりをしていた)」こともあるでしょう。「時間内ではとても片付かない業務量だった」こともあるかもしれません。そのような場合、会社が残業を認めていたと主張することはじゅうぶん可能でしょう。
次のような行政解釈もあります。
「黙示の指示によって行った時間外労働に対する時間外手当の支払い。
労働者が使用者の明白な超過勤務の指示により、または使用者の具体的に指示した仕事が、客観的にみて正規の勤務時間内ではなされ得ないと認められる場合の如く、超過勤務の黙示の指示によって法定労働時間を超えて勤務した場合には、時間外労働となる。」
【S25.9.14基収2983号】
「申告できる時間外労働の上限枠を超えている」と割増賃金が支払われない
残業時間として申告できる上限を設ける会社もよく見受けられます。このような扱いは厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」で禁止されています 。
「使用者は、労働者が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、上限を超える申告を認めない等、労働者による労働時間の適正な申告を阻害する措置を講じてはならない」
「だらだら残業に残業代は出せない」「準備やかたづけは労働時間ではない」と割増賃金が支払われない
これは、会社が労働時間の概念を誤解しているのです。労働時間は会社の指揮命令で労働していた時間です。「だらだら残業」というのは、厳しく言えば、会社が指揮命令権限を適切に行使せず、社員が提供した労働力を無駄遣いしている、とも言えます。
準備やかたづけも業務に必要な時間であり労働時間に該当します。
とはいえ、社員の側でも、例えば仕事の目的や段取りを上司に確認せず、無駄な回り道をしているかもしれません。上司に適時的確に報告・連絡・相談をして、無駄に時間を費やさないように対応すべきです。このような上司との適切なコミュニケーションが、生産性の向上にもつながっていきます。
「見習い期間だから残業代が出ないのはやむを得ない」と割増賃金が支払われない
「今は見習い期間だ。残業代を請求するのはわがままだ」そんなことを言う上司もいるようです。若手社員の中には、見習い中に残業代を請求するのは申し訳ない、と思っている人もいるようです。これも大きな間違いです。
若い社員でも、会社は賃金を支払って仕事の場で教育訓練をして育成するのです。社員として提供した労働力に対価を求めるのは当然のことです。また「自発的な研修だ」というのも、業務知識習得に必須の研修なら、労働時間として把握・管理すべきです。
若手社員の間違った忠誠心に甘えて会社の労働時間管理がずさんになれば、効果的・効率的な教育訓練・育成ができなくなり、かえって会社に迷惑をかけるのです。
「残業代の取りそこないをなくすこと」こそが生産性向上にもつながる
残業代の取りそこないをなくす、というのは金銭的な問題にとどまりません。業務効率化、生産性向上、若手社員の効果的な育成などにもつながります。上司、チームメンバーらと協力し、仕事の段取り・配分などに創意工夫を凝らし、生産性向上を図りましょう。間違っても「サービス残業は仕方ない」などとは考えないでください。
なお、会社の中で解決できないなら、総合労働相談コーナーなどの公的機関など外部の知恵を借りましょう。
出典
e-Gov法令検索 労働基準法
厚生労働省 労働基準法の関連施行規則/関連通達 第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
厚生労働省 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(平成29年1月20日策定)
執筆者:玉上信明
社会保険労務士、健康経営エキスパートアドバイザー
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