大雪警報で上司に「早帰りしたい」と伝えても「定時までは残って」と言われました。結局帰宅に「4時間」かかりましたが、本当に定時まで働く必要はあったんですか…?
ファイナンシャルフィールド / 2024年2月28日 4時40分
![写真](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/financialfield/financialfield_273083_0-small.jpg)
大雪、台風、豪雨、地震など自然災害時にも企業には従業員らの安全を守る安全配慮義務が求められます。帰宅時の交通渋滞が予想されるなら、早めの帰宅を指示するのも配慮の1つであり、従業員からも申し出るべきでしょう。 自然災害時には死傷など重大事故も発生することがあり、損害賠償請求などの裁判事例も多数あります。それを踏まえた対応の原則が弁護士会などでまとめられています。これらも参考に災害時の対応について説明します。
自然災害時にも会社は従業員らへの安全配慮義務が求められる
企業(使用者)は従業員らに対して、その生命、身体の安全を確保しつつ労働できるよう、必要な配慮をする義務(安全配慮義務)を負っています。「地震や津波など、使用者のせいではない自然災害についてまで安全配慮を要請されても、無理ではないか」という疑問を持つ人もいるかもしれません 。
しかし自然災害についても、会社には安全配慮義務が課されます。さまざまな裁判例で確立した考え方であり、東日本大震災に関連したいくつもの裁判例などでも明確に論じられています。
安全配慮義務は企業の事業継続のためにも必要である
企業が自然災害時にも安全配慮義務を果たすことは、企業の事業継続のためにも必要です。「従業員が動けることこそが事業継続の原動力」だからです。
事業継続のためには人的資源を維持することが不可欠です。また、会社が従業員の安全を守ることが従業員のモチベーションを高め、会社と共に事業継続をしようという気持ちを起こすことになります。さらに、災害時に従業員が業務を行うのは相当なストレスとの闘いになります。従業員のメンタル不調発生を防ぐためにも、安全に対する配慮が不可欠なのです。
避難は従業員の権利である
災害から従業員らが避難することは法的にも緊急避難等として認められています。避難の権利をはく奪するような対応を会社がとることは許されません。
緊急時に、従業員らが業務よりも自らの生命・身体の安全を優先して避難することは、法的にも保護される利益です。業務を放棄して避難したことを事業者が責めることはできない、ともいわれます 。
東日本大震災の時に、フランス語ラジオ放送担当者が生命・身体の安全を危惧して国外などへの避難を決断した事件では、会社が本人を解雇しましたが、裁判所は解雇無効と判断しました。
次のように判示しています(解雇無効確認等請求事件 東京地裁 2015年11月16日)。
「結果的に危険が生じなかったとしても,その態度を無責任であるとして非難することなど到底できない。国際放送の重要性に思いを致し不安の中で職務を全うした者は大きな賞賛をもって報いられるべきであるが,そうした職務に対する過度の忠誠を契約上義務付けることはできないというべきである。」
緊急時には現場での判断が必要になる
緊急時の避難が円滑に進むためには、いざというときに現場での業務終了、避難対応開始を決定できる権限を現場に委譲しておくことも必要です。
例えば、現場の課長が「部長や経営者の指示を受けてから」などとためらっているうちに事故が起こったら、課長が責任を問われるのみならず、緊急時の権限委譲について明確にしておかなかった会社の安全配慮義務違反も問われることになるでしょう。
東京都などでは「帰宅困難者対策条例」が定められている
なお、東京都などの各自治体では、大規模地震発生などに伴う帰宅困難者対策の条例が施行されています。災害発生時にむやみに移動すれば、火災や建物の損壊などに巻き込まれたり、けがをしたりする恐れがあります。
従業員の一斉帰宅の抑制や一時滞在施設の確保、従業員との連絡手段の確保、帰宅支援などが求められています。東日本大震災の教訓を受けたものですが、災害発生後の対応を想定したものであり、これから災害発生が予想されるときには、むしろ早めに帰宅することが必要と考えられます。
「大雪の交通渋滞」を教訓に自然災害時の対応を準備しておくべき
2024年2月5日、東京にも大雪警報が発令され、帰宅ラッシュを直撃しました。ゆりかもめ、西武線などが立ち往生、各地のバスターミナルの大渋滞なども発生しました。大雪は午前中から予想されていたことです。従業員に早めの帰宅を促すことなどは、会社の安全配慮義務として考えておくべきだったでしょう。
持病のある人、妊娠している人、家族に幼児や病人を抱えている人などは速やかに帰宅させる、あるいは、始めから出社させない、といった配慮も求められます。直属の上司がぐずぐずしているなら、上司の上司に掛け合いましょう。雪道で転倒してけがをしたり、帰宅に長時間かかって体調不良に陥ったりしたら、会社の事業継続にも影響します。
あの大雪の日を教訓に、会社の上司や経営者らとも話し合い、自然災害時の対策を検討することをおすすめします。弁護士会などが取りまとめた資料をぜひ参考にしてください。
出典
関東弁護士会連合会 事業継続に求められる企業の安全配慮義務と安全対策
関東弁護士会連合会 事業継続に求められる企業の安全配慮義務と安全対策 教訓・事例の解説
執筆者:玉上信明
社会保険労務士、健康経営エキスパートアドバイザー
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