密かなブーム?都心から観光地まで乗り換えなしで行けちゃう便利な特急列車の旅
ファイナンシャルフィールド / 2018年10月27日 1時0分
「温泉に行きたいが、電車の乗り継ぎが面倒」「車だと往復の混雑が大変」という人には、直通で観光地まで乗り入れる列車は大変助かります。首都圏ではこうしたニーズに対応した観光地への直通列車がいくつか運転されています。 かなり以前から運転されている列車がある半面、乗客のニーズに沿って、新たに直通運転を始めて列車もあります。
伊豆の温泉地へ向かう伝統の列車
首都圏では古くから運転されている伝統ある直通列車です。東京や横浜などから熱海を経由して、伊豆急行線や伊豆箱根線に直通運転しているものです。伊東や三島まではJRの路線ですが、熱川、稲取、河津、下田、長岡、修善寺といった伊豆の名湯は、伊豆急行線や伊豆箱根鉄道の私鉄沿線にあります。
伊豆の奥座敷として静かな温泉地が多く、シニア層を中心に人気があります。JRの特急で東海道線から乗り換えなしで温泉地へ行くことができます。新幹線では、熱海以外の温泉地へは、必ず乗り換える必要があります。
始発駅は、以前はすべて東京駅でしたが、最近では新宿や池袋から出発する列車も増え、利便性が考慮されています。「踊り子」「スーパービュー踊り子」の愛称がついた列車で、ニーズに合わせて特に土日に多く運転されています。
「スーパービュー踊り子」と呼ばれる列車は、窓が大きく座席の位置も高いため、雄大な海岸線を眺めて目的地へ行くことができます。車輛全体が伊東経由で、伊豆急行線でそのまま下田まで直行するタイプと、熱海駅で二分割され、伊豆急行線へ向かう車輌と、三島経由で伊豆箱根鉄道へ入り、修善寺へ向かう車輛で構成されるタイプとがあります。
競争相手が手を組み直通運転
日光は世界遺産となっている世界的観光地で、東照宮や中禅寺湖を訪れる観光客は増加傾向にあります。日光の玄関口には二つの駅があり、東武鉄道とJRがしのぎを削っていました。東武鉄道は浅草始発の「スペーシア」という豪華特急列車を、現在も走らせています。4人用のくつろげる個室もあり、快適な旅を楽しむ要素が詰まっています。
JRは戦後すぐに、上野発で宇都宮経由の直通の準急列車を走らせる時期もありましたが、東北新幹線誕生後は直通電車の運転はとりやめています。そのため乗客の獲得という観点では、東武鉄道の優勢が長い間続いています。東武鉄道は日光だけでなく、手前の下今市から分岐し、鬼怒川温泉方面へ行く特急「スペーシア」も運行しており、利便性でもJRを圧倒しています。
しかし、東武鉄道は始発が浅草、途中乗車駅が北千住という、東京西部や神奈川に住む人たちにとっては必ずしも便利ではありません。そこでJRと手を組み、新宿、池袋、大宮から乗客を乗せ、日光、鬼怒川へ向かうルートを誕生させました。かつてのライバル同士が手を組み、JRから東武鉄道への直通運転を実現させたのです。
新宿を起点として湘南新宿ライン、宇都宮線を経由して、栗橋駅から東武線に入り、日光、鬼怒川へと直通運転されます。栗橋駅では乗客の乗降はできませんが、専用線に停車し、乗務員の交代が行われます。JRと東武鉄道双方の車輌が使用されています。
東京メトロから直接箱根へ
小田急電鉄が東京メトロと協力して、地下鉄から箱根への直通運転を行っています。東京メトロ千代田線の北千住が始発で、途中の大手町、霞が関に停車し、代々木上原から小田急線に入り、箱根の玄関口の箱根湯本まで直通の特急を走らせています。
「メトロはこね」の愛称で、地下鉄線内から観光地まで行く初めての特急電車です。地下鉄線内の停車駅も限られており、都心から観光地へ向けて快適な旅を楽しめます。鉄道の相互乗り入れのためには、同じ軌道幅、同じ取入れ電気系統になっている必要があります。東京メトロでも、銀座線、丸の内線などとは、小田急線は相互乗り入れができません。
小田急電鉄は箱根だけでなく、新宿からJRの御殿場線に乗り入れ、御殿場へ向かう特急も走らせています。小田原の手前の松田から御殿場線に入り、富士山や山中湖の玄関口・御殿場駅が終着となります。以前は沼津まで運転され、小田急、JRの車輛が運行されていましたが、現在はすべて小田急の車輛で運転されています。愛称も「あさぎり」でしたが、現在は「ふじさん」と変わりました。
そのほかにも便利な直通電車が
JRの新宿などを始発駅に、中央本線の大月から富士急行線に入り、富士山駅(旧富士吉田駅)、河口湖駅へ直通運転しています。多くは休日運行するダイヤが組まれ、快速運転のため特急料金は不要です。富士山観光や日帰りのハイキングなどによく利用されています。
この路線は平日も運転されている特別な特急列車があります。それは成田空港始発で新宿、大月を経由して、富士急行線の河口湖まで直通運転しているJRの「成田エクスプレス」です。
東京近辺の利用者というより、海外からの観光客を対象とした列車です。富士山への観光は海外からの観光客には根強い人気があり、「最初に行く」「帰る前に行く」、どちらにも対応できるダイヤになっています。1便だけですが毎日運転されています。
成田空港起点では、羽田空港への直通運転する「エアーポート快特」もあります。京成電鉄、都営地下鉄、京浜急行の3社の私鉄を直通運転しています。海外の観光客を含め、特急料金なしで乗れる便利な列車です。
JRを含めた鉄道各社が、観光地への直通運転するダイヤを組んでいる背景には、バスやマイカーへの対抗策です。乗り換えが面倒なら、顧客は安い長距離バスや、ドアtoドアのマイカーへ流れてしまいます。特に休日の混んだ高速道路を走りたくない、という人をつなぎ止めたいとの思いがあるといえます。
大人数での旅行の場合は、マイカーのほうがコストは安いですが、1人ないし2人で出かける場合は、マイカーに比べ鉄道は安くなると思います。二つ以上の鉄道会社を経由することで、単独の鉄道会社で同じ距離を走るよりも金額は割高ですが、乗り換えの手間のない直通という便利さを考えれば、十分に価値があると思います。
Text:黒木 達也(くろき たつや)
経済ジャーナリスト
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