自分の資産を社会貢献のために寄付したいです。今は生活があるので寄付できませんが、自分が亡くなった後に遺産を寄付する方法はありますか?
ファイナンシャルフィールド / 2024年5月22日 4時0分
相談者は78歳の栗原さん(仮名)。夫とは、若いときに離婚し、苦労して子どもを育ててきました。終活を考えるなか、死亡した後、財産の一部はひとり親を支援する団体に寄付したいと考えるようになりました。 いろいろ調べると、「遺贈寄付」という方法があることを知り、FPに相談することにしたそうです。本記事では、「遺贈寄付」とは何か、メリットや注意点は何か、FPがアドバイスした内容を紹介します。
遺贈寄付とは
死亡した後、子どもなど家族に相続するのではなく、遺言で自らの財産を公益法人やNPO法人、学校など公益性の高い団体に寄付するのが「遺贈寄付」です。自分の財産を生活や幸せのために使い、残った財産を社会や次世代につなげる「生きた証し」「最後の社会貢献」といえるかもしれません。
一般社団法人日本承継寄付協会(東京都文京区)の「遺贈寄付に関する実態調査2023」(調査期間: 2023年10月31日~ 11月6日、調査対象:20~70代男女1000人)によると、20~70代における遺贈寄付の全体認知度は53.3%、50~70代に限定した場合には、65.3%の認知度に上り、年齢が高いほど遺贈寄付の認知度が高まっています。
しかし、遺贈寄付をするにあたり不安はないと回答した人は全体の18.6%にとどまっています。
遺贈寄付を考えるにあたり不安な点や準備していない理由としては、「寄付したお金がどのように使われるか不明瞭」が42.4%で最多となり、次点で「遺贈寄付のやり方がわからない」と回答した方は26.8%、「誰に、どこに相談したら良いかわからない」が25.6%という結果になっています。
遺贈寄付の希望財産については、「現金」(77.4%)が最多で、次に「自宅(不動産)」(26.9%)、続いて、「有価証券」(23.1%)、「自宅以外の不動産」(10.2%)となっています。
「自宅(不動産)」を選んだ人は、保有財産が2000万~5000万円未満の人が19.0%、5000万~1億円未満の人が27.1%、1億円以上の人は31.3%となり、保有財産が多くなるほど、「自宅(不動産)」を遺贈寄付したいと考える人が多い傾向がうかがえました。
遺贈寄付のメリット
遺産の使い方を自分で決めることができる
遺産の行方に自分の「思い」(社会のために貢献したいなど)を強く反映できるのが遺贈寄付の最大のメリットといえます。例えば、「奨学金のおかげで大学に進学できたので、貧困家庭の子どもたちのために生かしてほしい」など……。1万円といった少額からでも、寄付できます。
老後の資産の心配をせずに寄付できる
生前に寄付するのと比べ、死亡した後に残った財産から寄付をするため、老後の資産の心配をせずにできるというメリットがあります。
準確定申告で所得控除できる
年の中途で死亡した人の場合は、相続人は、1月1日から死亡した日までの所得を相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内に申告と納税をしなければなりません。これを、準確定申告といいます。
遺言書により、税制優遇団体へ寄付した場合には、被相続人(遺言者)の所得税の準確定申告において寄付金控除が適用できます。
相続税の対象外
遺言による「法人」に対する寄付は、原則として相続税の課税対象にはなりません。相続税は、相続もしくは遺贈により財産を取得した「個人」に対してかかる税金だからです。ただし、親族の会社に遺贈するなど「税逃れ」とみなされる場合には課税されます。
遺贈寄付を行う際の注意点
相続人の遺留分を侵害しないようにする
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に対して保障される最低限の遺産取得分のことです(民法1042条1項)。兄弟姉妹以外の法定相続人の遺留分は、財産の2分の1(直系尊属のみが法定相続人である場合は3分の1)です。
遺言書に全財産を寄付するという内容が記載されていたとしても、遺留分を侵害することはできません。遺留分を侵害された相続人は遺留分侵害額請求権を行使できます。
包括遺贈は避ける
遺贈の方法には、「包括遺贈」と「特定遺贈」があります。包括遺贈とは、「相続財産の3分の1をAに遺贈する」「全財産をBに遺贈する」というように財産の内容を個別に特定せずに、一定の割合を示して遺贈することです。
それに対して、特定遺贈は「現金1000万円をAに遺贈する」といったように財産を具体的に特定して遺贈することです。包括遺贈の場合、遺贈者に借金などのマイナス財産があれば、遺贈された割合のマイナスの財産も引き受けることになりますので、特定遺贈がよいでしょう。
不動産や株式を遺贈するとき、「みなし譲渡課税」される
遺贈者に子どもがいるとします。3000万円で取得した不動産が遺贈時に時価1億円に値上がりしていた場合、7000万円の利益があったとみなされます。遺贈者の子どもが税金を支払わなければならず、思わぬトラブルに発展する場合があります。
遺言執行者を指定する
遺贈寄付を行う場合、遺言書に遺言の内容を実現するための相続手続きを単独で行う義務・権限を持つ遺言執行者を指定しておくことが大切です。遺言執行者を指定しておけば、相続発生後の寄付の手続きなどを確実に行ってもらえます(民法1012条1項)。
事前に寄付先に相談し、財産を受け入れてもらえるかを確認しておく
受遺者は遺言者の死亡後に財産の受け入れを放棄できます。遺贈を確実にするには寄付先に財産を受け入れてもらえるかを確認しておくことが大切です。
まとめ
厚生労働省の「令和3年度版 厚生労働白書」によると、50歳まで一度も結婚したことのない割合(生涯未婚率)は今後も増え続け、2025~2040年に男性は3~4人に1人、女性は5~6人に1人となることが予測されています。そのため、相続人がいないケースも増えていくでしょう。
相続人がおらず遺言もない場合、遺産は最終的には国庫に帰属します。もし、遺産の使い道について「思い」があるのであれば、栗原さんのように遺贈寄付を検討してみてはいかがでしょうか。
出典
一般社団法人日本承継寄付協会 2023年「遺贈寄付」に関する実態調査
国税庁 No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)
国税庁 No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法
厚生労働省 令和3年度版 厚生労働白書 第2部 現下の政策課題への対応 第1章 子どもを産み育てやすい環境づくり 第1節 少子社会の現状 図表1-1-2 50歳時の未婚割合の推移
執筆者:新美昌也
ファイナンシャル・プランナー
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