制度見直しでサービス合戦は是正される方向へ!? ふるさと納税で税収が流失していると言われる自治体ではどうしているの
ファイナンシャルフィールド / 2018年11月26日 9時30分
「ふるさと納税」に関する動きが、ここのところ熱を帯びています。 とはいってもアクセルを踏む話ではなくて、返礼品の過剰な“サービス合戦”を冷やして、ブレーキをかけようという動向です。 返礼費用の割合が高かったり、返礼品が地場産品でなかったりする場合に、この制度の対象外とするといった法改正を行う運びとなりました。
この制度の要点をおさらいしておくと
この制度の要点をおさらいしておくと、ざっと次のとおりです。
◇「納税」と称されますが、実態は自治体(都道府県、市区町村)への寄附です。
自分の出身地や応援したい自治体に寄附をすると、寄附額から2000円を差し引いた額が所得税や住民税から控除される制度です。
これは、2008年度に始まりました(控除額には上限があり、住民税額の概ね2割程度と言われています)。
◇2015年度から導入された控除上限の引き上げや、確定申告不要なワンストップ特例(要件あり)などにも大きく後押しされて、納税額と適用者数は近年急増しました。
2018年度には【ふるさと納税額3481.9億円、控除適用者数295.9万人、住民税控除額2447.7億円】という活況ぶりでした。
関係者の視点によって、評価は変わります……
この制度、関係者の視点によって次のように評価は変わります。
<利用する人(納税者)>
・控除上限額の範囲内であれば、自己負担2000円で季節の果物・海産物・牛肉・お酒やジュースなどなどバラエティーに富んだ返礼品をもらえます(地域活性化や災害支援等のための寄附にとどめて、返礼品をもらわないこともありです)。
<納税者が住んでいる自治体や国>
・住民税や所得税の控除分だけ税収が減ります。
<ふるさと納税を受け入れた自治体>
・本来の税収以外に収入が増えて、地域活性化などのためにより多くの財源を確保できるようになります。
・返礼品のために、地元の農林水産業や商工業の物品やサービスの取り引きが増えることで、地域が活性化します。
かなり大雑把に言ってしまうと、
【住民税などのうち一定額部分の税収というパイを、納税者が住んでいる自治体から、住んでいない各自治体が返礼品の魅力度などを武器に取り合っているゼロサムゲーム】
というような側面もあるのです。
そうすると“割を食っている”のは納税者が住んでいる自治体のようにも思われますね。
ふるさと納税による「住民税流出」が大きい自治体はどこなの?
先ほどの「ふるさと納税に関する現況調査結果(住民税控除額の実績等)」の添付明細資料で確認すると、ふるさと納税による市町村民税控除額(2018年度課税)が大きかった自治体のベスト5は次のとおりでした。
「総務省 平成30年度ふるさと納税に関する現況調査(住民税控除額の実績など)について 各自治体のふるさと納税に係る住民税控除額等」より筆者作成
先述のとおり、住民税控除の全国総額は2400億円を超えます。
納税者の住む自治体から見れば、本来入るべきこの分の税収が、ほかの自治体に「流出」していることになります。
実際には、地方交付税を受け取る自治体には、この減収分の75%が地方交付税の増額によって国から補填されています。
しかし、現在、地方交付税不交付の川崎市や世田谷区(東京都特別区)では、控除額がそのまま減収となってしまいます。
「住民税流出」が大きい自治体の取り組み状況、そしてまとめ
では「住民税流出」が大きい自治体の、ふるさと納税への取り組みはどうなっているのでしょうか。
実減収額の大きい川崎市や世田谷区では、次のような状況でした。
<川崎市>
・「川崎市ふるさと応援寄附金」として安全・安心、福祉・子ども支援・教育、芸術・文化・スポーツ等々の多様なメニューから使途を指定できます。
・返礼は記念品として、例えば[消防力の総合的な強化を使途として1万円以上の場合、消防カードと消防タオル]などです。
<世田谷区>
・住民向けパンフレットを作成して、次のことなどを呼びかけています。
『ふるさと納税制度の本来の趣旨は、「地域活性化・ふるさと応援」のための寄附です』
『しかし現状は、高価な返礼品を受け取った住民が恩恵を受ける一方で税収の減少による行政サービスの低下は住民全体で受け入れなければならないという仕組みになっており、これを変えていく必要があります』
・子ども基金、地域保健福祉等推進基金ほか8つの基金などへの使途を指定できます。
・3万円以上の寄附で、焼き菓子セット、食料品セット、世田谷美術館年間フリーパスなどの記念品を選べます。
今回の総務省による制度見直し方針は、“行き過ぎ”を是正する効果はあるでしょう。
しかし、見直し後の枠内でも、相変わらず返礼品の魅力度を競い合うような風潮は続くことが予想されます。
国の制度としてふるさと納税が生まれてから、10年の節目。
寄附した人の住む自治体からも、納得感を得られるような制度改良が望まれるところでしょう。
出典:総務省「ふるさと納税に関する現況調査結果(平成30年度課税における住民税控除額の実績等)」(総務省トップ >広報・報道 >報道資料一覧 >ふるさと納税に関する現況調査結果(平成30年度課税における住民税控除額の実績等)
Text:上野 慎一(うえのしんいち)
AFP認定者,宅地建物取引士
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