50歳の専業主婦です。夫が「子どもが独立したし、遺族年金もあるから」と、生命保険を解約しようとしています。年収500万円で貯金も「500万円」ですが、本当に大丈夫なのでしょうか…?
ファイナンシャルフィールド / 2024年8月4日 4時40分
子どもが独立すると教育費の心配がなくなり、生命保険の保障額を見直す人もいるでしょう。しかし、専業主婦の人は、会社員の夫にもしものことがあった際は、給与収入もなくなるため、今後生活できるのか不安に思うこともあるかもしれません。 そこで本記事では、50歳の専業主婦が、年収500万円で5歳年上の夫を亡くした場合、遺族年金で生活が可能なのかシミュレーションします。また、試算結果からどう対応すべきかも考察します。
遺族年金とは
遺族年金は、年金の被保険者や受給権者である人が亡くなった際、その人から生計を維持されていた遺族に対して支給される年金です。遺族年金には、図表1のとおり「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」があり、要件に合致すれば重複して受給できます。
遺族基礎年金は「子のある配偶者」もしくは「子」を対象として支給され、「子」の定義は18歳到達年度の3月31日までであり、その期日を超えると受給できません。一方、遺族厚生年金は「子のない配偶者」なども支給対象となるため、配偶者が30歳未満の場合を除き、条件を満たせば一生涯受給できます。
支給額は遺族基礎年金が老齢基礎年金満額の金額に子の加算額があるのに対し、遺族厚生年金は亡くなった人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3です。さらには一定の年齢の妻を対象にした「中高齢寡婦加算」があります。
図表1
遺族基礎年金 | 遺族厚生年金 | |
---|---|---|
支給対象遺族及び優先順位 | 1 子のある配偶者 2 子 |
1 子のある配偶者 2 子 3 子のない配偶者 4 父母 5 孫 6 祖父母 |
支給額(2024年度年額) | 81万6000円+子の加算額 (1956年4月2日以後生まれ) 81万3700円+子の加算額 |
亡くなった人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3 ※子のない妻が40歳以上65歳未満の場合、61万2000円が加算(中高齢寡婦加算) |
※子、孫は18歳到達年度の3月31日までにある人
日本年金機構 遺族基礎年金、遺族厚生年金 から筆者作成
55歳の夫が亡くなったとき、5歳年下の妻に支給される遺族年金は
年収500万円、55歳の夫を亡くした5歳年下の専業主婦を例に、遺族年金の受給額をシミュレーションしてみましょう。子どもは独立しているため、遺族厚生年金に絞って計算します。
まず、夫の厚生年金報酬比例部分の金額を算出してみましょう。正確には2003年3月までと4月以降で計算方法が異なりますが、計算をわかりやすくするため、2003年4月以降の計算方法を利用します。
夫が働いていた期間の年収が500万円であれば、標準報酬月額は500万円÷12ヶ月=約41万6000円です。
20歳から55歳まで35年間(420ヶ月)働いたと想定すれば、簡略化した計算のため概算ですが、厚生年金報酬比例部分は「41万6000円×5.481/1000×420ヶ月=約95万7000円」となります。結果として遺族厚生年金は「95万7000円×3/4=約71万7000円」と計算されます。
さらに40歳以上65歳未満で子どもがいない妻には「中高齢寡婦加算」として、65歳になるまで年間61万2000円が加算されます。そのため65歳になるまでは遺族厚生年金71万7000円と中高齢寡婦加算61万2000円の合計132万9000円を遺族年金として受給可能です。
65歳以降は妻自身の老齢基礎年金が受給できます。そのため、年金保険料を60歳まで支払ったと仮定すれば、老齢基礎年金満額の81万6000円と遺族厚生年金71万7000円の合計153万3000円を生涯にわたって受給可能です。
夫が亡くなった後、必要となる生活費は?
一方、夫が亡くなった後で必要な生活費はどの程度でしょうか。単身であるため、50歳から65歳までは総務省統計局の家計調査年報にある単身世帯(平均年齢58.2歳)消費支出の月平均16万7620円を採用します。
また、65歳以降も同年報の、65歳以上の単身無職世帯(高齢単身無職世帯)消費支出の月平均14万5430円で計算します。なお、女性の平均寿命は87.14歳であることから90歳まで存命すると想定します。
この前提で計算すると必要な生活費は次のとおりです。
・50歳から65歳までの15年間 16万7620円×12ヶ月×15年間=3017万1600円
・65歳から90歳までの25年間 14万5430円×12ヶ月×25年間=4362万9000円
・50歳から90歳までの40年間合計 3017万1600円+4362万9000円=7380万600円
あまりぜいたくをせず平均的な暮らしをしたとしても、生活費だけで7000万円を超える金額となり、税金や介護費用なども考えれば、8000万円程度は必要と考えられます。なお、ここでの消費支出の月平均は、持ち家の場合も含んでいるため、賃貸物件に住んでいる場合は、さらに支出が増える可能性があります。
90歳までの生活費収支はどうなる?
遺族年金などから年金受給総額を計算すると、次のとおりです。
・50歳から65歳まで 132万9000円×15年間=1993万5000円
・65歳から90歳まで 153万3000円×25年間=3832万5000円
・50歳から90歳までの40年間の年金額合計 1993万5000円+3832万5000円=5826万円
90歳までに必要と想定した約8000万円と年金受給総額5826万円との差額は「8000万円-5826万円=2174万円」になります。つまり、夫が亡くなった時点で500万円しか貯金がないと、仮に退職金が1000万円あったとしても「2174万円-500万円-1000万円=674万円」となり、90歳まで生きると700万円程度不足します。
この結果から考えると、50歳だった妻が遺族年金や老齢基礎年金だけで生活するのは難しいかもしれません。
さらに、7月には「遺族厚生年金の受給を5年間に見直す」という方針が示されました。そのため、今後はその可能性も考慮する必要があるでしょう。
しかし、年金以外の収入が少しでもあれば、生活費の収支は一気に好転します。例えば、パートで月5万円収入を得られれば、50歳から65歳までの15年間で5万円×12ヶ月×15年間=900万円となり、700万程度の不足は補えます。さらに老齢基礎年金の繰下げ受給で、年金額を増やし長生きリスクに備えることも可能です。
まとめ
シミュレーション結果で見れば、50歳の専業主婦が夫を亡くした場合、生命保険など一定の備えは必要です。しかし、少しでも収入を得るなど遺族年金以外の対策でも、生活費の収支は改善できます。まずは、夫が亡くなった際にもらえる遺族年金を把握し、それ以外の対策も考えながら、必要な備えを検討してみてはいかがでしょうか。
出典
日本年金機構 遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額)
日本年金機構 遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)
総務省統計局 家計調査報告 家計収支編 2023年(令和5年)平均結果の概要
執筆者:松尾知真
FP2級
外部リンク
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